綿ダッコ / 第8話

第7話 試験資格はあるの……?

 「(雅道さんが2026年の方とは、伝えておりません。なので、町中で見つけた人ということで、通してください)」 「(分かりました)」  廊下には色々な人が行ったり来たりしていた。  役割はよく分からなかったが、すれ違う人々は全員こっちを見てきた。  その目線は、俺に向けられているのか、安良子さんの方に向けられているのかまでは、分からなかった。 「舞子様、連れて参りました」 「入りなさい」  中から、少し大人びた声が聞こえてきた。  でも、どこか同級生の声に近いような気がした。 「失礼いたします、こちら——」  安良子さんと同じ動作をする。  現代の博物館で、作法に関してはある程度体験した。  けど、それが合っているのかよく分からない。  だから、安良子さんの真似をするのが一番安パイだろう。 「|雅道之助《まさのみちのすけ》という者でございます。漢詩に長けており、武術も出来るとのことです」  俺は、黙って頭を下げる。  正直、本物の歴史人物に会えたという、絶対にあり得ないことに胸は高揚していた。  けど、しくじれば一瞬で、首が物理的に飛ぶだろう。  だから、その高まる気持ちを抑えていた。 「そう。でも、なんで貴族の服を着ているの?名前を聞いた限りだと、貴族じゃなさそうだけれど」  盲点だった。  そりゃあ、平民と貴族では服装も分かれているだろう。  どうしたらええんや…………。 「そ、それは、舞子様の御前に参上する以上、身だしなみは大事かと思いまして…………」  俺が言葉を出す前に、安良子さんがフォローしてくれた。 「そう。そこまでしなくて良いのに」  舞子は、俺のことを真剣に見ていた。  正直、落とされてもおかしくない。  目を合わせるのも気まずいと思って、改めて部屋を見渡してみた。  部屋には沢山の女房と侍司っぽい男性が一人居た。  女房の服装は、全員が豪華だった。  豪華とは言っても、金一色みたいに派手派手しいわけじゃない。  色が多いだけ。  けど、どこか趣を感じる配色。 「雅道之助と言ったわね。確かに漢詩が出来るのであれば、貴族を偽って入ってくる不届き者を追い返すには、ちょうど良いわね」  そんな人居るんか…………? 「|清見女房《きよみのにょうぼ》、和紙を持ってきてちょうだい」 「承知致しました」  清見女房…………。  和歌に長けた、現代にも伝わる文学人だ。  |藤物語《ふじものがたり》を書いた作者として、知られている。  後世にも残っていて、当時でも恋愛物語として絶賛されていた作品だ。 「雅道之助の前に置いてね」  前に机とかを置かれた瞬間、コソコソ話がピタリと止んだ。  正確に言えば、俺が部屋に入った時から、あまり話声は聞こえてこなかったけど、舞子の表情が穏やかであまり気にならなかった。  けど、これから行われるのは漢詩の試験。  手とか額から、汗がドバドバと出てくる。  和紙に書けるのかすら怪しい。 「お題はそうね…………。この子の名前とその理由を考えてちょうだい。もちろん、一馬様に読んでもらうから漢文でね」  へ…………?  予想外だった。  てっきり、「とある作品を読め」みたいな問題が来ると思っていた。  そもそも、漢詩じゃないんかい…………。  というか、現代に伝わっている名前でええんか…………?  …………まぁ、その方が安牌か?  それはともかくとして、舞子と一馬帝天の子って、名前なんやったっけ…………。  即位後の名前は覚えてるんやけど…………。

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