綿ダッコ / 第7話

第6話 待ち時間で

 俺は大量の本の中から、一つだけ取り出して、その他は、俺の前後に積み上げた。  そして、上から布を被せる。  これでバレないはず…………。  取り出したのは、この時代の宮廷でのマナーについてだった。  古文が怪しい俺は、完全に読むことは出来なかったが、現代の知識と安良子さんの教えてくれたことをフルに活用して、どうにか最初の方だけ読み解いた。 「(…………あれ?)」  最初の方には、宮廷での言葉遣いについて書かれていた。  でも、大体現代と変わっていなかった。  安心して、次の段を読もうとしたが、外から物音がした。  安良子さんだと信じたいが、念のために物音を消す。  息すら怖いほど、静かな環境だ。  外から、何やら書く音が聞こえてきた。  それだけでは、安良子さんかそうじゃないかは判別出来ない。 「…………よし」  勢い余って出したであろう声は、明らかに安良子さんの声ではなかった。  けど、女性であることは分かった。  その人は、そのまま廊下を出ていった。  安良子さんに何か用があったのだろうか…………? 「(雅道さん、大丈夫ですか!?)」 「(あっ、安良子さん)」  安良子さんは、上に被せていた布を勢いよく取っ払った。 「(誰か来ていましたけど、気付かれてはないですよ)」 「(それなら良かった…………)」  安良子さんはまだ腕が痛そうだった。  ずっと、腕を押さえている。 「(安良子さん、腕の様子をもう一度見せてもらっても良いですか?)」 「(きゅ、急にどうされたのですか?)」 「(いや、傷口が広がっていたら大変なので)」 「(…………)」  安良子さんは、何も言わず腕を差し出してきた。  俺は同じように袖をめくる。  巻いていた手ぬぐいは、血で真っ赤に染まっていた。  傷口は完全には塞ぎきっていなかったが、治りかけみたいな感じだった。  これぐらいなら、今日中には血は出なくなっているだろう。  …………多分。 「(安良子さん、まだお湯ってありますか?)」 「(え、ええ、まぁ…………)」  俺の意図が通じたのか、安良子さんは走って行った。  時間的に余裕はないのかもしれない。  けど、安良子さんの傷口が広がるのも良くない。  俺は同じ要領で、新しい手ぬぐいを巻いていく。  まだ慣れていないのか、少し痛がっていた。 「(…………はい。これで今日中には血は止まるはずです)」 「(…………ありがとうございます。舞子様の元へ行きましょう)」  俺は安良子さんに袖を引っ張られた。  もしかして、本当に時間がヤバいのだろうか…………?  出るときにチラッと机の上を見たが、乱雑に置かれた紙は、黒っぽかった。  字を書いているにしては、少し黒すぎる気がする。  さっき来た人が墨をこぼした…………?  いや、それにしては黒いところが、規則的だ。  良く見えなかったから、帰ってきた時に見てみよう。  …………まぁ、無事に帰れたらの話なんですけど。

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