綿ダッコ / 第9話

第8話 試験1

 思い出せ、自分。思い出せなければ、ここでタイムスリップ先で亡くなることになるぞ…………!!  舞馬…………?  絶対に違う。  一舞…………?  これも絶対に違う。  じゃあ、2人の名前から取ってないのか…………?  俺は思わず目を瞑っていた。 「(初めての子だから、どうつけたら良いのかしらね…………)」  初めての子…………。  初めて…………。  …………あっ!?  思い出したぞ!!  ——|一子《いっし》  これだ!!  たしか、一馬帝天の「一」と舞子の「子」から一文字取った名前って、博物館に書いていたはず。  良かった…………。  博物館に行っていなかったら、ヤバかった…………。  後は書くだけやけど…………、縦書きで合ってるよな…………?  そもそも、現代でいう縦書きと同じなんか…………?  どこかに文字の書かれていた紙は…………。  俺は部屋中を見渡したが、どこにもそんなものは無かった。  全員が、俺の方を見ていた。  表情まではよく見えなかったけど、決して良いものではなさそうだった。  自信はないけど、現代の縦書きで書こう。  あとは、理由を漢文でどう書くかよな…………。  安良子さんに教えてもらった知識を総動員するしかない。  主語はここにして——  …………焦って、漢字が思いつかない。  せめて、代替出来る文に変えよう。  無意識に目線は安良子さんの方へ行っていた。  目を瞑ることさえ、出来ていなかった。  安良子さんは、不安そうな顔のまま、俺から視線を動かさない。  扇子を持っている手も震えている。  俺が落ちれば、安良子さんにも何かあるのだろうか?  俺は意を決して、紙の方に向き直した。  墨やから、失敗は出来ない。  こう思うと、消しゴムで消せることがいかに、幸せなことかが分かる。  一文字一文字、丁寧に書いていった。  正直、文法やら漢字が合っている自信はない。  けど、待たせて即失格にされるより、マシだ。  額から汗が流れていることが、よくわかる。  必死に、紙にだけは落ちないようにしていた。  落ちてしまっては、大惨事や。 「あっ…………」  紙に落ちないように、頭を右の方に傾けていた。  しかし、それが仇となった。  大量の拭いきれない汗が、墨の入った硯に落ちてしまった。  明らかに、シャバシャバだ。  混ぜていなくても、分かる。 「清見女房」 「承知致しました」  それ以上、何も言わずに清見女房は、汗の入った硯を新しい硯に変えた。 「申し訳ありません!!」  俺は全力で土下座をした。  嫌な予感がしたからだ。 「それぐらい、いいから。続けなさい」  舞子は、最初から何も変わらない表情や声色のまま、言ってきた。  正直、それはそれで怖い。 ◇ ◇ ◇ ◇  書き切るまでに、5分ぐらい掛かった。 「…………出来ました」  墨は乾いていない。  俺はゆっくり筆を置きながら、乾くのを待った。  その和紙を見て、清見女房の目が見開いたのが、横目で見えた。  それはどっちなんや…………?  清見女房は、舞子の前に和紙を持っていった。  舞子はその紙と俺を交互に見ていた。  その様子は真剣そのもの。  本当にどっちなん…………。

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