綿ダッコ / 第34話

第33話 ベロンベロンだー

 安良子さんは部屋に着いた瞬間、眠りについた。  何回も叩かれて、まだ少し痛みが続く。  安良子さん、酔うとあんな風になるんやな…………。 「(雅道、安良子は大丈夫?)」 「(舞子様…………)」 「(雅道も、何回も叩かれてたけど、大丈夫?)」 「(はい、なんとか…………)」  まぁ、痛みはまだあるんですけどね…………。 「(本当に大丈夫?)」  舞子は心配した顔で俺の頭を撫でてきた。 「(え…………?)」  なんだ、この複雑な気持ちは…………。  舞子にこのようなことをさせてはいけない。  けど、なんだか安心する。  この2つが脳内で喧嘩している。 「(た、大したことではありませんから…………)」  俺は、少し後退りした。  このようなことをさせてはならない、その気持ちが勝った。 「(そう…………何かあったら、絶対に言うのよ)」 「(しょ、承知いたしました)」 「(それと、今夜は安良子の様子を見ておいて。心配だから)」 ◇ ◇ ◇ ◇ 「う、うーん…………」  安良子さんは乱れた髪のまま起きてきた。  俺はちょくちょく寝ながらも、安良子さんの様子を見守っていた。  安良子さんは寝てから、寝返り一つ取っていなさそうだった。  1回も目を覚ましていないのだろう。 「…………って、なぜ雅道さんがいらっしゃるのですか!?」 「昨日、酔っ払って、暴れてたんですよ…………。というか、体調はどうですか?」 「…………え?」  安良子さんは何も覚えてない様子だった。  まぁ、あそこまで酔っ払ってたら覚えてないのも無理ないか…………。 「も、もしかして、雅道さんにご無礼をしてしまいましたか!?」 「ま、まぁ、何回も叩かれましたけど…………どうってことないですよ」  いや、正直に言って、痛かった。  けど舞子を守ることが俺の職務やし、それよりも安良子さんが処罰されたら、俺が1人でやって行けるか分からない。  まだ元の時代に帰れる方法も分からないのに…………。 「も、申し訳ありませんでした…………!!」 「とにかく、あのまま舞子様に触れなくて良かったです。俺は大丈夫なので」 「ま、舞子様にも…………!?」 「ま、まぁ…………。こうやって、俺が居るわけですから…………」  安良子さんの顔は明らかに青ざめていた。  もはや、倒れてしまうのではないかと思うほどに。 「すぐに謝罪に行かないと…………」 「そんなに急いだら——」 「あっ…………」  部屋中。  いや、御所中に響いたかと思うほどに、安良子さんが自分の十二単に躓いてコケた。  御所用の服を着ていた俺は、咄嗟に動けなかった。 「いてて…………」 「大丈夫ですか!?」 「は、はい…………動けますので…………」  安良子さんはそう言いながらも、立ちにくそうだった。  俺は肩を貸す。  前もそうだった。  安良子さんは大丈夫じゃないことまで大丈夫と言ってしまう。 「安良子、大丈夫!?」  安良子さんを立ち上がらせている間に、舞子がドタドタと到底出さなそうな足音を立てて、やって来た。 「「ま、舞子様!?」」 「すごい音したけど、大丈夫!?」 「ま、舞子様…………急に走るのはお辞めください…………」  後ろからは、清見女房がやって来た。  そう言えば、和歌の授業が入ってると言ってたな。 「昨日に続き、今日までお手を煩わせてしまって申し訳ありません…………!!」  安良子さんはせっかく立てたのに、すごい勢いで土下座をした。  足は痛くないのだろうか…………? 「大丈夫だから、今日はこのまま部屋に居ていいわよ。一子は私がお世話するから」  流石の舞子もこの状況には、アワアワしている。  俺も平然を装っているが、脳の処理が追いついていない。 「いえ、私のせいで舞子様にご負担は掛けられません」 「そう言って、安良子に何かあったら、私まで悲しいのよ」  舞子の目は本当だった。  お世辞でも何でもない。 「足を挫いただけですから、大丈夫でございます」  その心配を吹き飛ばすように、安良子さんの目も本気だった。  確固たる意志があるのだろう。 「…………そう。せめて、雅道に支えてもらいなさい。雅道、良いわね?」 「承知致しました」  今更、断わる理由なんかない。  泥酔した安良子さんをおんぶしたのだから。 「ゆっくり来なさい」  そう言って、舞子は戻って行った。  ゆっくり来なさいとは言っても、服はほとんど昨日のままだから、用意することはあまりない。 「…………では、よろしくお願いします」 「はい」  俺は安良子さんをおんぶした。  疲れのせいか、少し重く感じる。  けど、安良子さんの身に何かあるよりマシだ。 「申し訳ありません…………雅道さん」 「これも俺の仕事ですよ」  こんな公で、安良子さんが居ないといけないとは言えない。  少し、気恥ずかしい。  もちろん、そんな意味は無いのだが…………。 「失礼いたします。安良子と雅道、参上いたしました」  俺は部屋に入ってから、安良子さんを降ろした。  部屋には沢山の女房が居て、昨晩のことがあってか、少し白い目で俺たちを見ていた。 「…………早かったわね。本当に大丈夫なの?」 「はい、本当に申し訳ありませんでした…………」 「いいのよ。それよりも、|歌合《うたあい》するわよ」  歌合…………。  宮中恒例の暇つぶし方法兼、実力を測るためのものだと聞いたことがある。 「そうね…………清見女房と安良子が対決してちょうだい」

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