綿ダッコ / 第35話

第34話 あなたが……!!

 「しょ、承知致しました…………」  歌合の選手に選ばれた安良子さんは、恐る恐る舞子の前の机に行った。  俺は舞子の側で見守ることしかできない。  そもそも、古典を全然できない俺にとって、何もできることが無い。  相手は和歌に長けた清見女房だ。  対する安良子さんは漢詩に長けている。  安良子さんが和歌を出来るとは聞いたことがない。  もちろん、出来るのを言っていない可能性は残っているが…………。  あの反応を見る限り、出来ない線が濃厚だろう。  舞子がそんな実力差のある人をわざわざ対決させて貶めるようなことするだろうか…………?  もしかして、今の今まで仮面を被っていた…………? 「お題はそうね…………秋にしましょう」 「はい」  お題を出した瞬間、清見女房が手を挙げた。  歌合は基本、審判がお題を出して、先に手を挙げた方から紙に書いていくスタイルだ。  そして、どちらとも書き終えれば、審判が判断する。  清見女房は、スラスラと書いていった。  俺には意味とかが分からない。  けど、自信あり気に書いているから、これは1本取られたかもな…………。 「はい、どうぞ」 「あ、ありがとうございます…………」  清見女房は書き終えた後、安良子さんに紙を渡す。  安良子さんの手は明らかに震えていた。  もはや、紙が破れそうなほどに。 「受け取るわね」  書き終えた安良子さんは舞子に紙を渡した。  舞子はその紙をじっくり見ている。  清見女房はもはや勝ちを確信した顔を扇ですら隠せていない。  対する安良子さんは、こちらも不安そうな顔を隠せていない。  ブルブル震えすぎて、チラチラどころじゃないほど顔が見える。 「…………どっちも、捨てがたいわね」  そう呟いて、舞子は2人の顔を見渡した。 「でも、発想力は安良子の方が良いわね。言葉選びは清見女房の方が好きだけれどね」  清見女房は勝ちを確信した顔から一変して、度肝を抜かれたように唖然としていた。  安良子さんは、不安そうな顔から一気に安堵した顔に変わっていた。 ◇ ◇ ◇ ◇  歌合は昼になるまでに色々な人が対決していた。  安良子さんも何回も選手になっていた。  でもそのたびに、発想力を褒められる。  相手によったら、完全に勝ちを言われるほどだ。 「楽しかったわ。やっぱり、皆上手ね」  舞子はそう言って、解散を宣言した。  それからは何も無かった。  政治的にも落ち着いて、この平和な時が続けばええねんけどな…………。 「あっ、そうだ。この時間なら庭が綺麗かもね。雅道、付いて来てくれる?」 「承知致しました」  舞子は草履を履いて、目の前から外に出た。  それから、舞子は池に浮かんでいる東屋に渡った。  夕日が落ちる時間だった。  高い建物が無いから、綺麗に見える。 「八子さん、お久しぶりでございます」 「ま、舞子さん、お久しぶりでございます」  豪華な服装が多い一行が東屋に歩いてくる。  この人が八子か。  現代で習った通り、豪華な装飾を纏っている。  それにしては、どこか萎縮してないか…………?  行幸が先に行われた以上、現時点での立場としては舞子より上なはずだ。  というか、舞子は舞子で平然としてんな…………。 「で、では私はこれで…………」  八子はそそくさと歩いていった。  俺の横を通るとき、俺たちを見て、少し体を跳ねさせたような気がした。  …………もしかして、俺が威圧感放ってた?  そんなことはないはずだが…………。 「さあ、私たちも行きましょう。夕食の時間だわ」

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