綿ダッコ / 第2話

第1話 博物館だよね……?

 「う、うーん…………」  白い世界から、突如として真っ暗な世界になった。  しかし、何回も体を揺すられる感触がして、恐る恐る目を開いてみた。  目を開けると、そこには綺麗な青空が広がっていた。  奇跡的に熱中症から目が覚めたのだろうか? 「(あっ、お目覚めになられましたか?)」 「うわ、誰ですか!?」 「(しっ、見つかってしまいます)」 「ん!?」  え、誰?この女の人。  この服装は…………十二単?  コスプレの人が助けてくれたんか?  というか、そもそもなんで草むらの上なん?  普通、病院に連れて行くやろ。  それに、見つかってしまうって何?  誘拐でもされんの?  その場から動かないこと、体感2分ぐらい経った。  というのも、ちょうどスマホを右ポケットに入れていて、右腕と口を押さえられていた。  だから、スマホを取り出せずにいた。  …………普通に息苦しいんですけど。 「(よし、大丈夫そう)」  目の前の同い年ぐらいに見える女性は、草むらをかき分けてゆっくり、確認していた。  右腕と口を押さえていた手が離れた隙に、スマホを確認した。  …………バッテリー切れだ。  そうだった。  ちょうど、モバ充、コンセントが使えるのであれば、カフェで充電しようとしていたところで倒れたんだった。  カバンは…………周りにない。 「(あ、あの…………)」 「(走りますよ!!)」 「(え、ちょ…………)」  俺は強引に腕を掴まれて走った。  草むらの外の景色は、さっきまで居た平西市の町並みとは明らかに違っていた。  なんというか…………立派な建物があると思えば、その逆側には壁がそびえ立っている。  そういえば、さっき行った博物館で見た。  こんな施設あったっけ?  というか、施設やとしても、ここに連れてくる時点で、おかしい。 「(とりあえず、私の部屋に行きますよ)」  腕を掴んでいた人は、十二単であっても普通に走っていた。  …………やっぱり、何かしら十二単を着ている人なのだろう。  それから、俺たちは無我夢中になって、5分ほど走った。  そして、飛び込んだ部屋は、これまたさっきの博物館の体験コーナーにあったセット、そのままだった。  布団らしき敷物が部屋の奥の端にあり、一畳分の畳が1つ置かれていた。  その上には、机らしきものと紙と墨が置かれていた。    そして、部屋の横側には大量の本が積まれていた。  博物館を端まで回れていなかったのだろうか?  でも、ここまで大きい博物館やったか? 「(殿方、早くこの後ろにお入りください!!)」  その人は、声は小さいものの明らかに焦っていた。  布団らしき敷物を踏んで、部屋の奥の方に行く。  奥と、現代でいうリビングらしき空間の間には、絵が書かれている背の高い屏風があった。  とは言っても、俺が立ったら余裕ではみ出る。  俺が奥に入ってその人が布団側を塞ぐ。 「(あ、あの…………どういう状況ですか?)」  改めて、その人の顔を見る。  よくよく見れば、とても素敵な人だった。  装いや化粧は、博物館や資料集などで見たり書いてある通りだった。  それがよく似合っている。 「(お忘れなのですか?大陸の服なんか着ていたら、処罰されてしまいますよ)」  大陸の服…………?  確かに学校の制服やから、平西時代のではないけど、そこまでリアルにする? 「(あ、あの…………そこまでリアルにする必要あります?)」 「(リア、ル…………?大陸のお言葉ですか?漢詩にはそんな言葉は…………)」  え、どこまでリアルを突き詰めるん?  体験にしてもリアルすぎやって。 「(あの、体験ってこんな本格的なんですか?)」 「(体験…………?どういうことですか?)」 「(え、一応聞きますけど、2026年で合っていますよね?)」 「(はい…………?966年でございますけど…………)」 「966年!?」 「(し、お静かに)」 「(あっ、すみません…………)」  思わず、大声を出してしまった。  というか、966年!?  え、ちょうど|政司政治《まつりづかさせいじ》で権力者が争ってる時代やん…………。  いや、でもまだリアルにしているだけかもしれん…………。  というか、そうであってくれ。 「(本当に、966年なんですか?)」 「(はい、そうですけど…………)」  新手の博物館のドッキリであってくれ…………。 「(本当に966年なんですか?現実なんですか?)」 「(本当です。いいから、早くお着替えください。後ろにございます)」  半ば強引に、その人は扇子を持ちながら出ていった。  まだ受け入れられていないけど、後ろにあった男性が着ていたとされる一式の服を取り出す。  というか、なんで置いてあるんやろ?  予習不足やった…………。  着方は体験コーナーで体験した。  まさか、すぐに使うことになるとは思わなかった。  すぐに着替え終わった。  元々着ていた服は、一旦この服が置いてあったところに出来るだけバレないように置いておいた。  それで、その人を呼ぼうとしたが—— 「|安良子《あらこ》、少し良いかしら?」 「|舞子《まいし》様…………!!なんなりと」  舞子、どこかで聞いたことあるような…………。  あっ、あの|一馬帝天《いちまてんてい》の|内妃《うちのきさき》の一人やん!!  歴史でよく聞く名前や。  確か、己鴨基晴《きがも もとはる》の娘やったっけ…………。  もしかして、本当にタイムスリップした? 「一馬帝天に、漢詩を贈りたいのだけど、見てもらえるかしら?」 「私で良ければ…………」 「そんなに謙遜しなくても良いのよ。安良子だからこそ、頼ってるのだから」 「勿体なきお言葉でございます」  それから、2人は漢詩について話していた。 「この表現なら、この書物に書かれている——」 「たしかにそうだわね」  話している内容は、さっぱり分からない。  こんなことになるんなら、古典の勉強をもっとしておくんやった…………。 「ありがとう、安良子。それと、ここに来る前に物音がしたのだけど…………誰か訪ねてきたの?」 「え、えっと…………ねずみが出まして…………」  安良子さんは、恐る恐る言っていた。 「そうなのね。こんなに綺麗になのに…………。逃がすように言っておくわね」 「…………いえ、自身で逃がしましたので、もうねずみはおりません。お気遣いありがとうございます」 「そう。また、漢詩のこと教えてちょうだいね」 「舞子様のためなら、すぐにでもお伺いいたします」 「ふふ、期待しているわね」  十二単を引きずる音がする。  足音的に、一人で来ていたのだろう。  引きずる音が聞こえなくなった後、安良子さんが屏風の後ろにやってきた。 「(はー、緊張した…………)」 「(あの、安良子さんって言うんですね)」 「(そうです。あの、殿方のお名前は…………?)」 「(浅倉井雅道って言います)」 「(浅倉井雅道…………すみません、存じ上げないのですが…………)」  それも無理もない。  だって、未来人なんだから。  多分…………。  そりゃあ、名字は一緒の人がいても、同姓同名はいないだろう。 「(階級は…………?)」 「(階級もないです。多分、2026年からこの時代に迷い込んだんだと思います…………)」 「(はい…………?もしかして、物の怪に取り憑かれておられるのですか?)」  そうだよね。俺も同じ立場ならそう思う。  けど、俺にもよく分からんのや。  熱中症で倒れたと思ったら、タイムスリップしてたんやから。 「(自分でもよく分からないんですけど、本当に2026年の人間です)」 「(…………分かりました。嘘をついているようには見えません。信じます)」 「(ありがとうございます)」  信じてくれて良かった。  それにしても、漢詩が出来て、あの舞子に仕えているんなら、歴史の授業に出てきてもおかしくないと思うねんけど…………。 「(あの、安良子さんの名字って…………)」 「(己鴨です)」 「(え、あの己鴨なんですか!?)」  舞子と同じ名字!?   尚更、教科書に出てやんとおかしいやん。 「(はい…………とは言っても、舞子様の本家からは遠い分家ですので、父の身分は低かったのです。ですが、漢詩を私に教えくださったお陰で、舞子様のお目に留まりました。そこから、舞子様に仕えさせていただいております)」 「(そうだったんですね…………。あの、この服はなんでここに…………)」 「(それは、婚約者の殿方に初めて贈るためのものです。父からいつ婚約者の殿方が出来ても良いようにと、渡されました。殿方が処罰されてはいけないと思って、一時的に使っていただけたらな、と…………)」  え、そんなやつ着ていいの…………? 「(え、そんな大切なものを着ていいんですか?)」 「(殿方が処罰される方が困ります。もし、舞子様が責められては困るので)」  俺は、ガチめに平西時代に迷い込んだのかもしれない…………。

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