綿ダッコ / 第50話
第49話 草むらの忘れ物
「…………あれ、教材が無い!?」
「安良子さん、大丈夫ですか?」
朝ごはんを届けに行ったら、声が聞こえてきた。
「無い、ここにも無い…………」
あの安良子さんが忘れもん…………?
「安良子さん、一緒に探しましょうか?」
「…………お願いします」
俺たちは部屋の隅々まで探した。
けど、それらしきものは見つからない。
「…………もしかして、内宮に忘れたんじゃないんですか?」
「あ!?後で載せようと思って、忘れてました…………」
そういえば、そんなこと言っていたような…………。
「う、嘘でしょ…………」
安良子さんはヘタリとその場に倒れ込んだ。
万が一のことも考えて、俺は側に寄った。
「と、とにかく、舞子様に報告に行きましょう。舞子様ならお許しくださいますって」
「は、はい…………」
覇気のない声で、ヘナヘナと安良子さんは立ち上がった。
俺はそんな安良子さんに肩を貸しながら、舞子の部屋に向かった。
安良子さんはもはや声を出せる状態じゃなかった。
「も、申し訳ありません、舞子様…………!!」
「ど、どうしたのよ…………」
「その…………私の確認不足で、今日使う教材を内宮に忘れてきてしまったようで…………」
言葉の発せない安良子さんの代わりに、とりあえず、俺のせいにしておいた。
俺が処罰されればそれまでだが…………。
「なんだ、そんなことね。そんなの取りに行かせるわよ」
そう言って、舞子は安堵した顔で笑っていた。
処罰なし…………?
いやまぁ、安心したけどさ…………。
「巳之助、入ってきてちょうだい」
「舞子様、お呼びでしょうか?」
巳之助さん、前よりもムキムキになった…………?
「雅道が内宮に安良子の漢詩の教材を忘れてしまったみたいなの。取りに行ってくれる?」
「承知致しました」
巳之助さんは出ていく時、こっちを向いて笑顔になった…………気がする。
「も、申し訳ありませんでした…………ご予定を狂わせてしまって…………」
いつの間にか、安良子さんが土下座をしていた。
「いいのよ。それぐらい、誰にだってあるわ」
◇ ◇ ◇ ◇
巳之助さんが戻ってくるまでに2時間ぐらい掛かっていた。
そんな遠かったっけ?
「ま、舞子様…………」
御簾で隠された外で、声の震えた巳之助さんが座ったのが分かった。
「どうしたの?」
「そ、その…………教材は無事、見つけたのですが…………」
「勿体ぶらないで言ってちょうだい」
「道端の草むらにこのような物が…………」
そう言って、巳之助さんは御簾を上げずに下の隙間から、何かを部屋に入れた。
「何、これは?」
その隙間から入れられたものを見て、顔が急激に青ざめたことが、自分でも分かった。
——スマホ
タイムスリップした時に、勢いで引っ張られて、草むらに置いてきてしまった。
完全に忘れていた。
制服に気を取られていた…………。
「私にも分かりませんが、見たことのないものですので、大陸の品かと…………」
その場の空気が凍ったことが、首を動かさなくても分かった。
「…………大陸の、品?」
「確証はございませんが…………」
大陸の品…………といえば、そうなのかもしれない。
というか、そんなこと気にしている場合じゃない。
平常心、平常心…………。
何も言葉を発さなければ良いだけ…………。
「舞子様、草むらに落ちていただけで、大陸の品とは限らないのでは…………?このようなもの、聞いたことも見たこともありません。ましてや、内宮でございますよ?」
何やってんだ、俺ーーーー!?
何も言葉を発さなければ良いって、自己暗示したばかりやろうが。
やばい、ガチでやばい…………。
「そうかもしれないけど…………、一応確認してきてくれる?」
舞子は一人の上級女房を何処かへ送った。冷や汗がドバドバ出てくる。
「大陸の品かも分からない以上、どうすることも出来ないわね…………」
「……帝天様にご報告なさいますか?」
「うーん…………」
舞子が本当に迷った顔をしている。
「ま、舞子様、雅道が怪しいと思います!!」
廊下の時の上級女房のその言葉で、部屋全員の視線が一気に集まる。
平常心を保とうとしているのに、震えが止まらない。
「…………どうして、そう思ったの?」
舞子はその上級女房に、静かに尋ねた。
舞子はまだ困惑している様子だった。
「雅道は町人だったはずです。まず、私たちの荷物は内宮に入る際は検査されます」
「……そうね」
「なので、まず大陸の品は持ち込めないはずです。それなのに、そこの雅道は真っ先に体を跳ねさせていました。今も、汗をかいているではありませんか」
心臓が飛び跳ねた。
心臓の中で、太鼓が鳴らされているようだ。
「…………お待ちください!!」
するとその時、安良子さんが叫んだ。
「雅道は、舞子様が処罰されるのを恐れて、焦っているだけでございます…………!!」
「舞子様、安良子の言葉は嘘です。そもそも、この中で貴族じゃないのは雅道だけです。巳之助も任用する前から都に住んでいる者ですから、大陸の品なんて持ち込めるはずがありません」
焦って口を出すんじゃ無かった…………。
そもそも、俺のやし、嘘をつくこと以外、弁解のしようがない。
「……雅道、本当なの?」
舞子は責める口調ではなく、確認するように聞いてきた。
俺は言葉を失ってしまった——