綿ダッコ / 第16話

第15話 発言には……

 「安良子さん、少しよろしいですか?」 「大丈夫ですよ」  食事を渡して、しばらくしてからもう一度、安良子さんの部屋の前に行った。  安良子さんは、まだ何かを口に含んでいる様子だった。  声色も、朝の時のようだった。  それはええんやけど…………、  ご飯粒が口元に付いてる…………。  安良子さんは、それに気付いていない感じだ。  というか、扇子は…………?  あかん。  ツッコミどころが多すぎる…………。 「…………明日、内宮を案内してもらってもいいですか?舞子様に言われたので」 「ごほっ、ごほっ!!」 「だ、大丈夫ですか…………!?」  安良子さんは、盛大にむせていた。  人が居ない間に背中をさすっておいた。  それぐらいしか出来ない。 「す、すみません…………!!」  安良子さんは、ようやく落ち着いた様子で、顔を上げた。 「って、きゃ!?」 「あっ!?すみません!!」  安良子さんが落ち着いたのはいいけど、安良子さんの右斜め前からさすっていたのを忘れていた。  上げた安良子さんの顔がめちゃくちゃ近かった。 「すみません…………大丈夫ですか?」 「は、はい…………。案内ですね。分かりました」  安良子さんは下を向いたまま、部屋の奥へと行ってしまった…………。  …………近かった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「雅道さん、起きておられますか?」 「あっ、はい…………」  昨日はある意味、波乱万丈だった。  だからか、寝付くのは早かった。  けど、何回か夢を見て、起きた。  内容は覚えてないけど…………。 「では、行きましょうか」  安良子さんは、舞子の部屋の方へと歩き出した。  その様子は、昨日と何も変わっていない。 「ここは舞子様や舞子様に仕える人の部屋が入る建物です。この門の内は全て、舞子様のためのものです」  舞子一人のためにあるんや。  …………じゃあ、おかしくない?  この時代は、一夫多妻制が普通なはずだ。  なら、内宮はいくつあってもおかしくない。  俺が知っている内宮は、一つしかない。 「内宮はこの一つだけですか?」 「…………雅道さん、こちらへ」  途端に、安良子さんの顔から笑顔が無くなった。  …………マズイこと聞いたんか? ◇ ◇ ◇ ◇  連れられたのは、部屋のある建物の真正面にあった、蔵だった。  蔵の中は、日が指しているけど、暗かった。  おまけにジメジメしている。  見た目と雰囲気が乖離しまくっている。 「…………雅道さん、お気を付けください」  やっぱり、何かマズイこと聞いてしまったんか…………。 「ここには、舞子様のお父様である|基晴《もとはる》様もいらっしゃいます。他の家にまつわることは、極力こちらから言わないようにしてください」  …………敵に関しては、こちらから話題に出すな、と。 「…………もし、聞かれていたら、お咎めどころの話ではありません!!」  安良子さんは、すごい勢いで俺の両方の裾を掴んだ。  …………それほどまでに、重大なことやったんか。  一言一言、現代よりも気を付けやなあかんねんな。 「すみません…………」 「せっかく、侍司になられたのですから、無駄になさらないでください」  安良子さんの目には薄い涙の膜が張っているのが、よく分かった。  …………俺のためを思って言ってくれているのだろう。 「…………はい。これからは気を付けます。安良子さんに迷惑を掛けないためにも」 「…………はい」  安良子さんは、蔵の入り口の方に歩みを進めた。  …………迂闊に発言出来んな。

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