綿ダッコ / 第19話

第18話 難航

 「舞子様、頑張ってください!!」  部屋の真正面にも仕切りがあって、詳しくは見えない。  けど、床に所々、乾燥した米があることが分かった。  今も絶え間なく落ちてきている。  きっと、祈祷のためだろう。  …………じゃあ、甘んじて受け入れよう。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「舞子様、あともう少しですよ!!」  いつの間にか、夜中になっていた。  俺はその間、ずっと祈っていた。  というか、それしか出来ない。  米が当たる感覚にも、お経の声にも慣れた。 「おぎゃー、おぎゃー」 「舞子様、お産まれになりましたよ!!」  すると、力強い産声が聞こえてきた。  良かった…………。  …………でも、舞子の声が聞こえてこない。  大丈夫なのだろうか…………。 「雅道、今から、基晴様と治輔様は通して良いと巳之助に伝えてちょうだい」 「承知致しました」  俺はそのことを巳之助さんに伝えた。  その頃には、仕切りも外されていた。  舞子は、白の布に包まれた一子を抱いていた。  良かった…………。  お坊さん達も、帰る準備をしている。  …………というか、数多すぎんか? 「舞子!!」 「お父様!!」  すると、廊下から基晴と治輔らしき声が聞こえてきた。 「お入りください」  基晴は、すごい勢いで御簾を乱暴に上げた。  流石に、びっくりした。 「お父様…………、それに治輔まで…………」 「舞子、よくやってくれた」  朝に来た時の基晴とは打って変わって、涙を流しながら、舞子と一緒に一子を撫でていた。  …………差がすごいな。 「舞子姉さま、体調は大丈夫ですか?」 「ええ、ありがとう」  一方で、治輔は舞子の手を握っていた。  舞子も若干、顔色が戻った気がする。  …………お姉ちゃん思いやな。  真意は知らんけど。 「治輔、私の女房たちを呼んでくれる?今のうちに、お休みを指示したいの」 「分かりました、姉さま。私が指示いたします」 「ありがとう」  治輔と舞子、仲良さそうやな。 「入ってください」  治輔の号令とともに、続々と女房達が入ってくる。  …………泣き腫れている人が多い気がする。  というか、全員じゃね…………? 「これから、しばらく休まれよ。これは、舞子様からのご命令である」  女房全員が、頭を下げた。  統率がよく取れている。 「では、各自部屋に戻れ」  どんどん、部屋から人が出ていく。  その間に舞子は眠ってしまったらしい。 「安良子、君は残れ」 「え!?」  指示を出している間静かだった基晴が、安良子さんに指示を出した。  廊下に出たばっかりの人も含め、部屋中の視線が安良子さんに集中する。 「他の者は、出なさい」  それを切り裂くように、治輔がもう一度指示を出す。  ただ、さっきより廊下に出るスピードは遅くなった気がする。 「君が、授倉雅道だな?」 「は、はい…………!!」  急になんや…………? 「安良子の隣に座ってくれ」  俺は指示通りに、安良子さんの隣に座った。  めちゃくちゃ怖い。  何を言われるのかまったく分からない。 「一子という名は、雅道が名付けたのだな?」 「は、はい。私の登用試験の際に、考えた名前でございます」 「そうか。一馬帝天様も気に入っておられる。よくやってくれた」 「ありがたきお言葉でございます」  …………上げて落とさないよね? 「それと、この子を抱いてやってくれ」  基晴から一子を渡された。  はい…………?  ただの侍司ですよ…………? 「おぎゃー、おぎゃー!!」  一子を抱いた瞬間、泣かれた。  これでも、一応、従兄弟も妹も抱っこした経験あるんですけど…………。 「元気な子じゃな。ほら、安良子も」 「私なんかがですか!?」 「ああ」  俺は一子を、安良子さんに渡した。  安良子さんは、必死に泣いている一子をあやしていた。 「実はな、舞子が一番目の子やった」  舞子って、長女やったんや。  上に何人かおるもんやと思ってた。 「大切なあまり、大人数に抱かせなかった。今でも悔やんでいる」  何を悔やんでるんや…………?  別に、変なことでもない気もするけど…………。 「赤子の間にたくさんの人に抱かれると、人間関係に苦労しないということは、君たちも知っているだろう。だから、こうやって抱いて欲しいのだ」  そういうことね。  そういう迷信があってんや。  …………でも、俺でええの?  確かに、お付きの侍司やけどさ。 「安良子、あやすのが上手いな」  泣いていた一子は、いつの間にか泣き止んでいた。  もはや、スヤスヤと眠っている。 「安良子、乳母になるつもりはないか?」 「え!?」  安良子さんは、体まで動きそうなほどの速さなのに、首だけをブンブン振っていた。  …………器用ですね。  「舞子の女房に、己鴨家の人間が安良子しか居ないのだ。だから、なってくれないか?こうやって、一子も寝ているわけだし」 「…………でも、遠い分家の人間ですよ?」 「分かっている。それでも分家だ」  引く気は無さそうやな。 「…………承知致しました」  安良子さんは観念したかのように、軽く頭を下げた。

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