綿ダッコ / 第52話

第51話 良いお顔になって、お願い

 朝、だった。  もしくは、30分も寝ていないかもしれない。  分からない。 「雅道さん、お食事です」 「…………ありがとうございます」 「(…………いつも通りにしていれば、大丈夫ですから)」  …………優しい。  けど、いつも通りに出来る自信がない。 「では、私は先に参りますね」  外の空気は、冷え切っていた。 ◇ ◇ ◇ ◇  朝ごはんを食べ終えて、舞子の元へ行った。  普通にしようにも、普通に出来ない。 「雅道、おはよう」 「…………おはようございます、舞子様」  舞子は普通にしていた。 「どうしたの?元気が無いわよ」 「い、いえ…………」 「なら、いつも通りお願いね」 「……承知致しました」  昨日のことはなんとも思っていないのか?  それとも、気づいている上で何も言ってこないのか?  …………分からん。 「清見女房、よろしくね」  そのまま、和歌の授業が始まった。  内容を警備の傍ら聞く気になんて、なれなかった。  なんなら、警備すら身に入らない。  今、襲撃でもされたら、確実に守ることが出来ない。 「以上でございます」 「ありがとう、清見女房」  いつの間にか、授業が終わっていた。  ほとんど、記憶がない。 「雅道、安良子が運ぶのを手伝ってきてくれない?」 「しょ、承知致しました」  いつもなら、普通に引き受けていたと思う。  けど、今は舞子に背を向けるだけでも怖い。  もしかしたら、俺が居ない間に処罰について話しているかもしれない。  確証はないし、舞子がそんなことをするとは、思えない。  けど、権力者の娘であり、内妃。  どうなっても、おかしくない。 「(雅道さん、こちらへ)」  安良子さんが御簾を下げた。  屏風の裏に押し込まれる。  昨日のことだろうか。 「(雅道さん、お顔に出ていますよ)」  …………だろうな。  自分でも分かる。 「(普通にされたら良いのです。舞子様もきっと、気にしておられません)」 「(…………そうなんですかね)」 「(はい。万が一のことがあっても、微々たるものかもしれませんが、私がお味方いたします。私は雅道さんのお味方と言ったじゃないですか)」   …………そうだった。  けど、相手取るのは舞子だ。  誰を味方にしようとも、その権力には逆らえない。 「(それでも…………)」 ——チュッ 「(え…………)」  突然、手の甲にキスをされた。  突然のことで、一瞬理解ができなかった。 「(おまじないです)」  いやいや、そんなのあったか!?  昨日のことなんて吹き飛ぶように、頭が真っ白になった。 「(ふふ、良いお顔になっています)」
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