鯣烏賊 / 第30話

夜闇を覆うは漆黒の霞、現るは歯車を廻す皓き者 その8

「よぉベロキ、ひさしぶり。」 「....................久しぶり言うほど、時間は経ってないですよ。」 上から飛び降りてきたミクロさんは足で触手を踏みつけ、さらに触手の先端部分を剣で突き刺して動きを完全に固定している。 やつは触手をバタバタ動かせて精一杯抵抗してるが、ミクロさんが先端を押さえつけているから思うように動けないようだ。 ....................ミクロさん、あの華奢な体のどこからあんなに強い力が出るんだろう。 発勁術の類なのかな....................いや、継続的に力を発散させる発勁は見たことないな。 脱いだら意外と筋肉質な体をしているのだろうか? 「リンは今どこにいるの?」 「わからないです。」 「そっか。」 ミクロさんは話しながら触手に刺していた「打首刀」を引き抜く。 そのまま即座に、足元にある触手の先端を本体から切り離した。 切り離された触手は数秒で形を崩し、ただのドス黒い液体になってしまった。 じわぁ....................という音を立てながら、周りに広がってゆく。 その液体はひくひくと震えた後、切り離された元となる部分へとにじり寄っていく。 ミクロさんが踏みつけているので動けない状態にある触手の本体だが、その場から動かずとも、切り離された先端との融合はしっかりと果たした。 だいたい、再生の仕組みがわかってきた。 「これはアイツの体じゃないね。」 「ええ。攻撃の通じる部分を探さないと。」 おそらく、本体の部分に直結している間はあの弾力のある状態をキープできるんだろう。 でも、切り離されてしまうと普通の液体に戻ってしまう。 でも、やつを直接攻撃するためには何をしたらいいんだろう....................?? 本体になにか能力が宿っていて、この液体を操っているのか? それともこの液体自体に何かが隠されているのか? 「さっきの音なに?」 「ああ....................これの機能のひとつです」 「ああ、そういえば言われてたな。「衝《ストライク》」だったっけ? ....................で、どう?」 「触手にしっかり当てて、爆散させました。」 「殴った感想は?」 さっきは確か、触手に「衝《ストライク》」を命中させて、あの液体触手を爆散させて、再生する時間を利用して逃げるための猶予を稼いだ。 それだけだろうか? いや、待て。 俺の記憶が正しいならあのときは....................。 「....................再生が遅かった?」 「マジ?」 そうだ。 迫ってきた触手の大部分を衝撃波で吹き飛ばしたから、治すのに時間がかかったんだ。 多分欠片も傷を与えられてないけど、ああやって吹き飛ばし続ければ何かしらのために時間は稼げそう....................なのかな? そうだ。 リンさんの使うデタラメな威力をしたあの砲撃ならきっと。 「お、リンか。大丈夫そう? ..............................そうか、よかったよかった。」   どうやら、ミクロさんの所にリンさんから連絡が来たみたいだ。 連絡をくれた、ということはリンさんのほうの状況も、ある程度は落ち着いたのかな。 こちらに連絡を入れたということは、通話しても安全な場所へ身を隠したか、何かしらの方法で逃げたか。 この際だから、ミクロさんを通じて伝えてもらおう。 「ミクロさん、ミクロさん。」 「ん、何?」 「リンさんに伝えて欲しいのですが」という前置きのもと、ミクロさんにさっき考えていたことをそっくりそのまま伝える。 俺の話を聞いたミクロさんは「いいな、それなら時間を稼げそうだ」と俺の意見に同意し、リンさんにこう伝えた。 「いいか、お前のタイミングでいいから、目の前の触手に最大出力で攻撃してみてくれ。 どうせ再生するけど、気にしないでいいぞ。」 ----- (....................は?最大出力で攻撃?再生?光で索敵?) 自身の低い機動力で精一杯の努力をして岩陰に隠れたリンは、報告のつもりでかけた通話の中で以上の報告を全て一挙に受けた。 どうやら状況は、彼女の想定していたものよりもずっと先を行っていたようだった。 情報量は多いが簡単にまとめると「光を出すならら注意しろ」ということである。 本来ならば注意すべき案件なのだろうが、遠距離攻撃一筋のリンにとってはある意味、無縁なものとも言えるかもしれない。 どれだけ光への索敵が敏感だとしても、あの攻撃スピードでは追いつかれない、とリンは睨んでいた。 リンの武器は、非常に重くサイズが大きい。 メーカー側からの最大限の軽量化処置はとられているが、それでも重いものは重いのだ。 収納しようにしてもサイズ的容量(※)が大きすぎるので持ち運びできるポーチには収納できず、リンは戦闘中、未だに背中に重力を感じながら生活している。 幸い相手の動きが早くないゆえに、リンは自身の身長よりも何倍も大きい岩が沢山ある場所に逃げ込み、適当に選んだ岩に身を隠すことができている。 やっとできた余裕のもと、先程聞こえた空気の裂けるような音の正体を探る意味も含めてミクロに連絡をしてみればこの始末。 「まったくもう....................。」 リンは背中にかかる重力の原因たるバズーカを手に取り、岩の向こうをじっと見る。 「うにょ.......................」という擬音がぴったりとハマりそうな動きをする触手の位置を確認し、岩から体を出した。 光は出していない。 だからこそ、こんな丸腰の状態で....................普段ならできないようなデタラメのチャージができる。 ターゲットの触手を見据え、リンはバズーカの威力メーターを最大まで操作する。 「私は..............................。」 腰から下に全体重を込めて反動を軽減できるような構えをとり、引き金に指をかける。 引き金を押し込むと、銃口部分にだんだんと青い光が集まりはじめる。 その「光」に反応し、液体蛸の触手が2本、リンの方向へと向かってくる。 (コスモ反応が大きいからかしら?量がさっきより多いわね。 けど関係ないわ。 ....................それより私は!!!!!) 「固定砲台じゃないっての!!!!」 引き金を引いてから数秒後。 戦車の大砲の発砲音と聞き間違ってしまうほどの、とてつもなく大きな音と共に弾が発射され..............................。 ----- 〈ドッパーン!!!〉 うお、すごい音がした。 これはこの間の戦闘から何度か聞いたことのあるミサイルが着弾したような音に似ている。 おそらく、リンさんがあのバズーカで何かしたんだろう。 それに加えて、大きな水風船のような破裂したような音もする。 その音からして命中したことは明白。 よしよし素晴らしい。幸先順調。 次に重要なのは命中したあとに一体どうなるのかだ。 「ベロキ、光出してもいいから回り込めるか?」 「もちろん、お任せを!」 俺は黒い腕輪の形状をした「鍵《シュリュッセル》」のダイヤルをさっきの場所からさらに回していき、機能を変更する。 位置関係としては「衝《ストライク》」の少し先の方向。 「速《ラピッド》」と記された機能に選択を決定し、それを反映させる。 使用者である俺自身も原理がよく分かってない青白いオーラが俺の両足にまとわりつき、「速《ラピッド》」の効果が現れたことを俺に教える。 今から、さっきの音がしたところまで走る! まずは1歩目を右足で踏み込む。 ここまでは普通である。何の変哲もないただの助走の踏み込みだ。 そして....................2歩目! 足を踏み出すと同時に左足のオーラが炸裂。 周りの景色が歪み、俺は一瞬にしてとてつもない空気抵抗を伴った加速をする。 炸裂したオーラはさっきよりもさらに大きくなり、「バチバチ」という音さえまとい始めている。 「うおあっ....................あんまり使わないから慣れないんだよな、これ。」 ここまでで察してくれた方もいると思うが、この「速《ラピッド》」は足を踏み込む度に加速していく能力である。 その効果倍率は「2倍」。 1歩目では何も起こらないが、2歩目では速度に2倍の強化が、3歩目では2×2で4倍、4歩目では2×2×2で6倍。 そして、5歩目では2×2×2×2で、なんと通常の8倍の強化がかかる。 俺は100メートルを5秒で走ることができる身体能力を持っている。 薬によるものだから決して自慢できるものではないけれど....................。 そして、強化倍率は最大8倍だから、5×0.125の計算式で計算することができる。 俺は再び足を踏み出し.........。 3歩目。 4歩目。 「5ォーッ!!!」 5歩目では100メートルのタイムは「0.625秒」だ。 リニアモーターカーに追いつくことができるかできないか....................そのくらいのスピードだ。 俺は最後の加速に思いっきり体を任せ、森を駆ける。 5回目の加速のあとは機能を停止するまでずっと加速の効果を受けるままだ。 5歩目のとてつもない加速は使う度に毎度毎度、「本当にこのくらいの速さだったっけ?」という想像を上回ってくる。 しかし、これは俺がルキ家にいたときに、俺のために独自に設計された武装だ。 どんなに速くなろうとも、俺の身体の反応速度を上回ったりすることはない。 すこし集中をすれば絶対についていける。 ものすごい速さで足を動かし、踏み出す度に地面から土煙が立ち込める様は、傍から見れば面白い光景かもしれない。 5歩目になってくると、青白い光を身体にまとうような形になってしまうから、相当な光を発してしまう。 後ろの方で触手が反応するのが見えているが、俺のスピードにはついていけていないようだ。 それにしても足場が悪い。 こんな足場をこの速さで使っていたら転けてしまいそうだ。 俺は跳躍し、手長猿のように木の枝を伝って上に登る。 枝に乗って蹴り、掴んで向こうへ飛び、幹に手をかけて再び枝を蹴る。 吹き飛んでくる黒い液体が顔に付着する度にそれを拭いながら、とにかく前へ走ってゆく。 さて、そろそろ目的地に着きそ..........。 「ブレーーーーキ!!!!」 木がない。 下を見ると、線上に地面が抉れている。 どうやら、リンさんが砲撃で派手に吹き飛ばしたエリアに到達したみたいだ。 ということは後ろに....................。 「これは...................???」 リンさんが砲撃してから俺がここにたどり着くまでは、10秒くらいしかかかっていない。 当然、リンさんのバズーカの砲撃の再使用時間はまだ終わっていなかったが、その効果を存分に見ることができた。 やつの再生はまだ終わっておらず、形はまだ不完全。 まだ、中心の球体を持つタコのような形からは程遠く、元に戻れていない。 そして。 「あれは....................一体、何?」 そこには、弾け飛びかけているどす黒い液体に囲まれた真紅の肉の塊があった。
※ サイズ的容量とは。 討伐者はコスモ制御装置と繋がった持ち運びのポーチに武装を収納しており、そのお陰で武器を取り出すとき以外はほとんど手ぶらで行動できる。 収納する際は武装たちをピクセルのような形に分解し、データとして収納している。 そのため、取り出す時も収納する時も武装たちは小さなブロックのようになるのだ。 しかし、肩にかけるポシェットに部屋用の冷蔵庫が入らないように、この持ち運びのポーチには容量が大きすぎて入れられないものも存在する。 入れるためには容量の大きなポーチが必要だが、その容量が大きなポーチ自体も持ち運びが面倒だったりと、遠距離攻撃者を嘆かせている。

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