鯣烏賊 / 第9話

殺し屋、娑婆へ舞い戻る その7

「槍って俺には使いにくいんですよ」 「ほーん?」 マンティスとの戦いの翌日の早朝。 俺はミクロさんにアドバイスを求めていた。 理由は、あの「怪獣を相手にする時の、槍の異常な扱いにくさ」だ。 確かに、相手をぶすりと指したときの、一点突破の威力にはとても優れた武器なんだけど、極論言ってしまうとそれは剣でも同じようなことができる。だって剣で刺してもリーチ以外はそこまで変わらない。 しかも、また昨日のように攻撃したつもりがてこの原理のせいで振り回されてしまう....................みたいなことになってしまってはそれこそ本末転倒だ。 たとえ敵に傷を与えたとしても傷を与えても、それ以上のデメリットやダメージを負ったり、隙をさらしてしまってはなんの意味もないからね。 ここまでの話を聴いてこう思うだろう。 「いや武器なんか勝手に変えろや」 と。 うん。俺も、そう思う。 でも、武器を変えるからには、武器の形やリーチ、重量までもが変わってくるはずだ。 つまり俺は、検証をしてみたい。 で、だ。 「つまり、槍が使いにくくて別の武器に変えたいんだけれど、試す場所がないから何も出来ない、ということかな?」 「端的に言えば、そういうことです。」 ということでだ。 人が3人か4人集合するとぎゅうぎゅう詰めになる応接室に、ベッドと机以外の自由スペースが2メートル四方存在しない自室。 大量の荷物や段ボールで歩くのも大変な上、両手を伸ばせば左右の壁を塞ぐことができてしまう廊下。 こんな場所しかない事務所で、俺はどこで武器を振り回せばいいんだ?? いや、どこにもない。 ミクロさんは「うーん」と少し悩んだ後、何かを思いついたようにポンと手を叩いた。 「ついておいで。」 「あ、はい。」 俺はさっきまでいたミクロさんの部屋を一緒に出て、事務所の廊下を歩いていく。 応接室をぬけてカーテンを越え、反対側の廊下へと進み、俺の部屋を通り過ぎる。 今はまだ寝てるリンさんの部屋の向かい側。そこには、何のの表札もかかっていないよくわからない部屋があるのだが、ミクロさんはそこで足を止めた。 「ここ開けるのいつぶりだっけ..............................???? うわほこり臭っ。」 ミクロさんがドアを開けると、そこには縦2メートル、横1メートルくらいの謎のカプセルと、ゴツゴツした見た目の白と水色のゴーグル、そしてひと通りの武器がカタにはめられているテーブルがあった。 そしてその他にあるのは、壁に沿うように積み上げられた段ボールの山、難しそうな本が大量にしまってある本棚、金庫がふたつ。 多分ここは、物置だな。 カプセルには扉があって、それは開かれている。 中には人が入れるくらいの穴があって、仮にそこに俺が横たわるとしたら、天井を向くような方向にカプセルは設置されている。 ここは....................。 「物置ですか?」 「違う、ちがーう。」 ミクロさんはカプセルの傍のテーブルに置いてあるゴーグルを俺に投げ渡してきた。 「VRの訓練所だよ。大手だと広い場所でARを使ったりするんだけどね。」 「....................訓練所?」 「使ってないから物置になってることは目を瞑ってくれよ。 僕もリンも武器選びの結論はついてるから、1年と少しくらい放置されてたんだけどね。」 ミクロさんはカプセルを起動しようとし、カプセルの横についている電源ボタンを押す。 ウォン、というくぐもった音とともにカプセルが少し光る。 冷却装置のファンが回る音が聴こえる。 ミクロさんは俺に手渡したゴーグルの側面についている電源ボタンを押し、電源をつけようとする。 だが。 「ありゃりゃ、つかない。」 なにも反応がない。 ボタンを押しても、何回押しても、長押ししても、反応がない。 「うーん充電切れてるのか」 「電気を使うんですか?」 「そう。中古で買った5世代くらい前のクソ古いモデルだから....................ちょっと待ってね。」 ミクロさんはゴーグルの充電コードを探すためにしばらく棚をあさった。 5分経ったか経たなかったかくらいで、がっくりうなだれたミクロさんが戻ってきた。 ミクロさんは「ちょっと貸して」と、俺の手からゴーグルを奪い取る。 そしてすこし外観を確認すると、充電コードを挿すであろう穴に人差し指を入れ込んだ。 「仕方ないかなぁ..............オーサン。 コレがぶっ壊れないように充電マックスにできたりしない?」 『できるわよ』 んえ?なんか青く光る変な奴でてきたんだけど? なにこいつ。 そのオーサン?とやらがミクロさんの方から少しだけ姿を表す。 恐らく女性だろう顔と体つきだ。 が、肌も目も髪も等しく青白く輝き、透き通っているので人間味が薄い。 オーサンが手を伸ばしてカプセルの充電コードを指すところに手を伸ばすと、カプセルが起動音を鳴らして薄く光りはじめた。 「お、出来たか。流石!」 「いやいやいや、思考追いつかないんですけど?!」 『彼が例のベロキくんね。かわいいからちゃんって呼んじゃおうかしら。』 「感情ねえやつが何言ってんのさ....................。」 「あ、ベロキです.........................オーサンさん?くん? どっちですか、ミクロさん。」 『一応生物学的には女でいいのかしら?』 「生物じゃないから生物学が適応されるわけないじゃん....................。」 「わからないことがわかりました。 それよりミクロさん、これの使い方を教えてくださいよ。じゃないと何もできません。」 「オーサン、戻っていいよ。ベロキ、ソイツの使い方はこうだ」 ミクロさんは近くに置いてあった説明書を丸め、説明書を俺に投げつけてきた。 人仕事終わったようにパンパンと手を叩き、悠々自適に部屋から出ていこうとする。 ......................いやいやいやいや?!?! 「....................?せ、説明は?」 「読んどいて、僕忙しいからさ。」 ミクロさんはわざとらしくあくびをすると、ドアノブに手をかける。 引き留めようとしても、「じゃね〜」と言いながら部屋を出て行ってしまった。 「..............................これを読めと???」 俺の手にはおよそ100ページの取扱説明書がおさめられている。 今から、これを全て読むことが義務付けられてしまった。 ----- 【仮想空間に転送します.........................ユーザの体を読み込んでいます.........................読み込みが完了しました..... ....................転送】 俺はなんとかVR空間にはいるまでにこぎつけた。 やく30分かけて難しい言葉の文字列を読み取っていくことでわかったのは、「とりあえずバーチャル空間に入りさえすればその中で説明書を読める」ということだ。 というわけで、一旦全てを読み込む前に空間に入ってしまったわけだ。 それにしても。 「あの人、5世代前とか言いながら現実と差異ないじゃん」 俺は何も無い空間にほっぽり出された。 今立っている床は真っ白、天井は見えないが、空も真っ白。 前後左右の壁もないけど、これも真っ白で、地平線が見えるくらいに広い。 そんな中に、俺一人が立っている。 手を開いて閉じて、軽く足を動かしたりしてみても、ほとんど現実と大差ない。 逆にこれより上のモデルがあるのだろうか、と思ってしまうくらいには精巧に作られている空間だ。 「指パッチン!」 で、デジタルの取り扱い説明書を出せるらしいけど....................あ、出せた。 けど、これは機能のメインメニューだ。 知らない機能が盛りだくさんだけど....................ええと、一番下の取り扱い説明書をタップ。 おお、さっき読んでた紙がデジタルになってる。 さっき読んだところまでスキップし、その先を読み進める。 ええと.....................??? 「指パッチン必須技能なんだ。」 俺指パッチンとかしたこと無かったからちょっと練習したよ。 まあ出来たけど。 なるほど、自分の好きなようにマップや武器を選べるのか....................って、怪獣も出せるの??? すごすぎないか? 「こんな感じ?」 場所は都市(建物の高さと量は抑えめ)にしてみた。 とはいえ、マップは「市街地」「都市」「森林」「草原」「海」の4種類しかない。 この辺を後期モデルで改善してる、ということなのかな、まあ知らないけど。 そして使用武器を決めよう。 まずは「刃武装」かな? おお、種類が「刀系統」「槍系統」「斧系統」「鎚系統」の4つに分けられてるのか。 それぞれ大きさや形状も細かく指定できるみたいだ。 今使ってる「ファルシオン」は軽くて扱いやすいから、とりあえず変えなくてもいいかな。 変えたいのは「トライデント」の部分。 名前からしてレイピアは却下。あんな対人特化の剣は使いにくそうだし。 背反柄に対応してるやつは....................おお、沢山あるじゃん。 刃以外にも銃や篭手などもあるみたい。 銃はリンさんが持ってるし、篭手に関してはもうすぐ「アレ」が届くっぽいから。 まあその話は置いておこう。 とりあえず、刃武装から選ぶことにしよう。 ファルシオンと対極になるようにしたいから、候補は....................。 「ヘビーイカリ」「トマホーク」「ツーバンデッドブレイド」あたりかな。 対戦相手の怪獣は..............................お、この間俺が事務所の近くで叩き切ったアリみたいなやついるじゃん。 丁度よさそうだしコイツにしよう。 アリ....................正式名称「ナイトアンツ」と指定すると少し離れた位置にこの間のアリが呼び出される。 さぁて。 俺は柄を起動させ、ファルシオンを構える。 最初に選択したのはヘビーイカリだ。 「かかってこい!」 実験台になってくれよ? 3時間後。 バーチャル空間から放り出された俺は目を開き、数時間ぶりに現実世界の日光を視界に入れる。 バーチャル空間の日光もリアルに作られているけど、この現実世界には程遠い。 俺はカプセルから体を出し、近くにある、背反柄に入れる武装を編集する机に向かう。 「中型の背反柄に....................入れ替え機能はファルシオンとトマホーク」 自分が使っている背反柄を机のハマりそうな凹みに置く。 ウィーン、みたいな音はならないが、机がなんか、かっこよく光る。 【編集が完了しました】 ダウンロードはものの数十秒て終了し、光っていた机が光らなくなる。 「よし!リニューアルだ」 柄自体の重さは変わっていないが、この柄の中には今まで使っていたファルシオンと、これから新しく使うトマホークが入っている。 これで俺はまた違う動きができるのだ、と、ひとりで勝手にテンションを上げていた俺であった。 都合の悪いことは、忘れるべし。

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