鯣烏賊 / 第10話

殺し屋、娑婆へ舞い戻る その8

怪獣がどのくらいの頻度で出現するのか、俺は全く知らなかった。 マンティスと命のキャッチボールをした後に、ヤル気を出して武装の厳選とかをしてみたもの、怪獣はおろかイノシシすら降りてこず、一日中のんびり紅茶を飲んでいてもいいくらいに暇な日もあった、 基本的には、地域をパトロールする。 これはほとんど俺の役目。 リンさんは事務所で難しい仕事をしている。 パトロールと言っても怪獣がいるか否かを調べるだけなので、俺にとっては街の構造を覚えるだけの探索に近い。 しかし、ここは職場。 当然(殺し屋時代にそんなものはなかったが)、休暇が与えられる。週2日。 休暇をもらった俺の感想。 「暇!!!!!!!」 今を持て余した俺は....................とにかく暇だった。 暇すぎたので、ある日は一日10時間、バーチャル内で特訓をしてみた。 そして見事に、体調を崩した。 リンさんいわく 「一度に使いすぎると三半規管がイカれて大変なことになるわよ」 とのこと。 興味を持った俺は何時間まで使えるのかを試してみた。 結果、俺は6時間までなら余裕で耐えられる。 常人なら2時間半で限界が来るらしいので、俺の三半規管はめちゃくちゃ強いことがわかる。 ちなみに、リンさんにはドン引きされた。 他にしていたことと言えば、映画というものを初めて見た。 リンさんは週2日で与えられる休暇の日の1日を使って外に出て、もう1日は室内で過ごすみたいだ。 リンさんは、約2時間の映画3本で構成されるシリーズものを1日で制覇しようとしていた。 暇だった俺もそれに参加し、「映画2時間+休憩1時間×3」の式から求められる9時間で物語を制覇した。 とてもいい話だった。 最終盤で主人公を守ってヒロインが死ぬシーンで、リンさんが近所迷惑なんじゃないか、ってくらいに号泣していた。 あ、ファンタジー映画とかかと思った? 残念。 ホラー映画でした。 まあそんなこんなで1週間が経った。 アロくんという人とは会うことがなかった。 たぶん、俺が外に出てる時に会う機会があったんだろう。 1週間後の出勤日。 時刻は午後の20時。 「酷い暴れようだねー」 事務所に電話がかかってきた。 パトロールから帰ってくる途中だった俺はリンさんからのコール1本で勤務解除が延長され、残業が決定。 『ゴリラみたいな奴が暴れてるから助けて!』 というあまりにも中途半端な情報の怪獣と戦闘を行うことになった。 前回、マンティスと戦った方向とは別の方向にビル伝いで向かう。 10分くらい走ったところで、事務所を経由してリンさんと合流。 やはりリンさんのエアウォークを見て羨ましく思う。 エアウォークはリンさんが自分で買ったものらしいから、俺もリンさんみたいに今度の休みに有り金をはたいて移動系の武装を買ってみようかな、なんて思う。 その後10分経たないくらいで、電話で言っていた、今回暴れている怪獣がいた。 「あれはバクね。」 リンさんが、形と長さを自由に変えられる双眼鏡(いいなあ、俺も欲しくなってくる)で相手の種類を特定してくれた。 俺は敵から30メートルくらい離れた場所の路地のかどから顔を出し、相手を観察する。 「バク?」 「ゴリラにしか見えないけど....................骨格的には豚とか猪が近いらしいよ」 「じゃあゴリノシシか....................ごめんごめん、冗談。」 バクの体は確かにゴリラに似ている。 発達した前足に、四足で拳を地面につけながら歩いている。 かと思ったら急に立ち上がって、家の生垣に植えられた木の果物を手に取ってムシャムシャ食べ始めた。 うーん....................。 「後ろ足が発達してるんだね。」 「そうね。あと、肺が極端に発達してるから、物凄い勢いで息を吐いて攻撃してくる....................らしいわ。」 「なにそれこわい。」 走り方も恐らくはゴリラより馬が近いと思う。あの形状だと。 しっぽも大きくて、反り返っているから目立たないけど、放っておいたら地面についてしまいそうなくらい長くて、太い。 上半身はゴリラ、下半身は馬、そして尻尾だけがトカゲ。 まあ哺乳類なんだとは思うけどさ? 「違和感しかなくて気持ち悪いね。」 バクの通ったであろう進行方向の周りには、何人かの人が倒れている。 老人と、男女2人。 家族っぽいから逃げ遅れたのかな。 頭から血を流して倒れているし、ピクリとも動く気配を見せない。 あれは、多分死んでるね。 周りに人は1人もいないし、みんな逃げたのかな? 「バクは全身をゴム質の皮で覆われてて、たぶんだけど、砲撃が効かない。」 「え、砲撃効かないとかそれ大丈夫なの?」 「それも含めて試すから。 あたしも知識として知ってるだけで、実際に戦うのは初めてよ。撃つ時は言うから適当に陽動してくれない?」 「オッケー、わかった」 ....................ゴム質の皮となると、半端な斬撃は弾かれてしまうだろう。 一瞬、タランチュラで突撃して攻撃しようと思ったけど、それが効かなかったとしたら、くしゃっと握りつぶされて本当に死にそうだからやめておこう。 抜き足、差し足、忍び足。 決して走らず、ゆっくりと近づいていって、できるだけ音を出さないように排反柄を取り出しす。 バクの背後約5メートル地点に到達したところで排反柄を起動、ファルシオンが姿を見せる。 バクがゆっくりと顔をこちらに向ける。 起動音で俺の存在にに気がついたみたいだ。 けど。 「先制攻撃だよ!」 俺は全力で接近し、その威力を乗せた状態でバクの片後ろ足の付け根あたりに刃を突き立てる。 すると、「ガキン!」という、刃でものを切ったときには絶対にならないような音と感触が伝わってくる。 「....................硬い。」 効かなかった訳じゃないけど、すこぶる手応えが悪い。 木の幹を切りつけて外皮だけ剥がれても、内部の場所にダメージが通るわけがない。 俺は痛みじゃなくてダメージを与えたいんだ。 流石にここまで時間が経つと、バクが振り向いてくる。 すごく殺意のこもった目で俺を見ている。こいつは感情がありそうだ。 バクは振り向きながら拳をギュッと握って振りかぶり、力を込める構えを撮っている。 あ、これは殴ってくる動きだ。 えーと....................。 「右っっっぎ腕!」 バクは思いっきり右手を突っ込ませてきたので、俺は左側に向けて体を倒し、避ける。 そして、左手からの追撃が来てもいいよう準備しようと、バクの左手の動きを警戒する。 そのとき。 バッコーン! 「....................ほえ?」 一瞬リンさんがバズーカを撃ったのかと思ったが、違う。 だって連絡が来てないもん。 ということは....................。 嫌な予感がしたので後ろを見る。 電柱がポッキリ折れて、倒れてきていた。 え、マジ?何この威力冗談じゃない! はっとバクの方を見ると、今度は左手を大きく振りかぶっている。 「っぶな!」 後ろに避けてもどうせ追いつかれる。 だから、右に避けたあとに全力で右側へジャンプ。 バクから距離をとる。 俺が距離をとって構えを直すとバクが接近してくる。 そして、大した溜めをせずに、拳をふりかぶってくる。 その迫ってくる拳に対して....................。 ガン! 力が分散するように刃を押し当て、拳が向かってくる軌道をズラす。 またしてもゴムの皮を攻撃しただけだから、大したダメージは入っていない。 しかし、攻撃の起動をずらすことに成功。 そしてそのまま....................脇腹を刺す。 切ってだめなら、刺してみる。 多分そしたら....................。 「ビンゴ!」 刃がぶすりと刺さった、 この刺し攻撃は効いたみたいで、すごい剣幕でジタバタして俺を振りほどこうとする。 お望みらしいので、できるだけ痛くなるように刺していたファルシオンを抜いてさしあげた。 大分効いているのか、バクは俺が剣を抜いて下がっても少し痛がっている。 さて、結構大きい隙を作ったけど....................そろそろ来るよね? «撃つよ!バックジャンプ!» 「はい来たオッケー!」 さっきのようなコンクリートが割れる音ではなく、単純に物が爆散し、衝撃の伝わる音がする。 弾丸は命中したみたいだし、バクの周りに煙がモクモクと立ち上る。 さあて、と。 «ごめん!やっぱり効いてない» 「ですよねー」 モクモクした煙の中でバクが動いている。 ん、方法はわからないけど、こっち側に狙いをすまして..........。 突進だ、横に避けなければ。 バクがケムリの中突進してきた。 俺は横方向に突進を避けて、そのまま後ろ側にある塀の向こうに隠れる。 高さは2メートルくらい、厚みは30センチもありそうな分厚く頑丈な塀だ。 さて、排反柄の変形には結構、時間がかかるんだ。 そもそもコレを実践で使うのは初めてだし。 多分だけど、変形すれば俺の攻撃でもある程度のダメージを通せる。 だから、少し俺のための時間稼ぎくらいはしないと....................。 ぼごっ!ガラガラン! 「ふぉへ?」 さっきの2種類の音とは違った、割れるでもなく爆散するでもない音がする。 これはそう。 硬いものが木っ端微塵に潰されて、砕けたみたいはな音がする。 「木っ端..........微塵..........???」 またもや嫌な予感がして後ろを見ると、硬い石で作られている塀をゼリーみたいに食い破っているバクの姿があった。

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