鯣烏賊 / 第91話

プロローグ:ラフラ・イェーガー

「"|不確定な未来《アポロン》"、アタシの吉の方向はどっち?」 《2時ノ方角、デス。行動完了後、11時の方向、デス。》 「アイツの凶の方角はどっち?」 《8時ノ方角、デス。変化ハ、御座イマセン。》 「オーケー、完璧ね。」 女は、茂みに隠れていた。 茂みとはいえど、ただの茂みにあらず。 この草木のほとんどない不毛の地、グランド・キャニオン・ウッドバレーの谷沿いに点在している枯れ木のなかの茂みである。 少しでも足を引っ掛ける場所を選択し損ねたり、力加減を間違えてしまうと、谷底へ真っ逆さま。 即死である。 しかし女は慣れた動きで茂みに隠れ、枝に足をかけ、幹に体を預ける。 まるで"このようにすれば、決して落ちることは無い"とでもわかっているかのように。 その手には、1本のライフルが握られていた。 音もなく冷徹に構えられたその銃口はただそこに佇み、谷の方を狙いすましていた。 銃口の直線上にいるのは、翼竜のような見た目の怪獣。 本来ならばこの地よりも南に生息しているはずの、人尾を襲う事もある危険が翼竜。 ....................と、女は把握していた。 だが、この怪獣は翼竜ではない。 オニドリの「無毛種」という特殊な個体である。 そう、女はこの翼竜は知らないのだ。姿かたちが似ているとはいえ、オニドリとの判別もつかない。 見たことも触れたこともないのだ。 しかし、そんなことは彼女には関係ない。 だからこそ、女は撃鉄を引いた。 女は仕事は、そういう仕事だから。 しかし、その弾丸は明後日の方向に飛んで行ったように見えた。 その翼竜なんていない、下の方向へ。 けれど女は迷いなく発射を確認すると、隠れていた茂みから外に出て、すぐ脇....................11時の方向に設置されている谷底へのエレベーターへ乗り込んだ 床と柱、それと行き先を選択するボタンだけがつけられたその工業用エレベーターが"ガシャン!"とお粗末な音を立てて動いたのを見つけたオニドリは、エレベーターへ向かってこようとする。 「..........変化は?」 《先程通リ、御座イマセン。》 「あっそ。アタシの勝ちね。」 数刻後、オニドリの喉が弾丸に貫かれ、その翼竜のような怪鳥は谷底へ叩きつけられた。 ----- -数時間後- 女は、集落の外れにある民家に足を踏み入れた。 門の扉を開くと独特なベル音が鳴り響き、何者かが家に入ってきたことを知らせる。 ドタドタと、家の中からやかましい足音を立てながら少女が姿を表した。 「ラフラ姉ーー!!!」 「ちょっと、アプル!夕飯の準備の手伝いをしなさい!」 女のことを"ラフラ"と呼んだ少女..........アプルは、ラフラに向けて全力のダッシュをかました。 そして大きく飛び上がり、ラフラの胸に向かってダイヴする。 ラフラは手に持っていたオニドリの死体を地面へ落とし、妹からの攻撃を正面から受け止めた。 「うわーぁ!!!」 遠慮ゼロのスピードで突っ込んでくるアプルを抱きしめたラフラは重心を崩し、後ろに倒れ込んだ。 そしてドシンと背中を地面に打ち付けた後にアプルを抱きしめ、少女たちはふたりして笑った。 母親に呼び止められ、夕飯の準備の手伝いを命じられる瞬間まで、ふたりはじゃれ合っていた。 女の名前はラフラ・イェーガー。 この物語の、ターニングポイント・メーカー。 彼女が物語に関わるのは今から少しだけ先のこと。 しかし、気が遠くなる未来でもない。 歯車は、意図せず廻っているのだから。 レガシークエスト part.2 奇妙な世界の諧謔曲《スケルツォ》

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