鯣烏賊 / 第36話

いざ、試験っ! その1

...................なるほど、なるほど。無免許ね。 無免許っていうのはつまりその免許を取らないと行ってはならない行為を免許を取っていない状態で行っている、という意味を現す言葉だ。 ここで「無免許」という言葉が出てきたということは、どうやら怪獣の討伐にはそれ専用の免許が必要らしく。 俺はそれを持っていなかった、と。 無免許ってつまりアレだよね。 「....................俺、犯罪者だったんですか?」 またかよ! 自首とはいえ....................殺しの罪で刑務所へ投獄されて、約半年間の獄中生活を目一杯満喫(?)したところで釈放されて、この事務所に来て。 この頃、なんだかんだ楽しくなってきた所でまた投獄されるのか、俺。 なんだよもう....................またかよぉ。 かくなる上は目の前に立っているミクロさんの首筋をかっ切って逃亡、はまず不可能に近いから、全速力でここから逃げて....................。 いや、まず。 「滅殺....................!!」 「物騒なことを言うもんじゃない。 ....................厳密に言うとベロキは違反とかをしてたわけじゃないんだ。」 「....................?」 わけがわからない。 なんで今から免許をとるための試験を受けに行くというのに、俺は今まで免許所持の違反をしてないんだ? わざわざ免許をとるために試験に行くってことは、その免許は試験を突破しないと発行されないってことになる。 ハッ、まさか! 「まさか偽の免許で俺を....................!」 「違う違う。仮免許だよ、仮免許。」 「仮免許?」 「そう。仮免許だ。 いろいろと訳あってベロキをここに連れてくるときに仮免許の発行許可が降りてね。 こんなこと滅多にないんだけど、ベロキはその仮免許で生活できてた訳だよ。 ....................ちなみになんだが、この仮免許は丁度ひと月後に期限が切れる。」 「なんだ。期限切れまで意外と時間あるじゃな..............................。」 「いいや、許可試験の試験時間は明日から21日だ。」 「じゃあ丁度、期限切れのタイミングで試験があるんですね。」 21日後に試験か....................それならば少しは余裕を持って試験に臨めるじゃな...............。 ん? 試験「開始」が21日ではなく、試験「時間」が21日? 「違う違う。21日後に開始されるんじゃなくて、試験時間が21日間だ。 つまり、明日からちょうど3週間の間で試験が行われることになるね。。」 へえー。 21日間で試験が行われるんだ。 それはつまり、えーと、その。 ...........................いや、いくらなんでも長すぎない? 人生の中で試験らしい試験を受けたことがないような俺でも、その言葉の意味くらいは知ってる。 試験っていうのはアレでしょ。 何かの資格や称号を取るために勉強して受験して、合格したらその資格や称号を貰えるっていうやつ。 それが、3週間? そんなに長いものなのか....................? それにしても、なんでこんなにも長いんだ....................? 「あー、とにかく。 今日は明日の準備して早く寝な? 会場まで直通の特急リニア・モーターカーの切符は手配しておくからさ。」 翌日。 着替えの服、ヨシ。 風呂に入った時のためのタオル、ヨシ。 事務所で使ってる電子端末、ヨシ。 通信機、ヨシ。 制御装置と武装、ヨシ。 鍵、ヨシ。 その他もろもろ(ミクロさんに持っていけと指示されたものたち)、ヨシ。 ある程度の現金、ヨシ。 「よし、準備オーケー!」 ミクロさんに用意された、いつもより心なしか大きめのボストンバッグの中に必要なものたちを目一杯詰め込む。 平坦だったボストンバッグの形は、内側の荷物たちから押し返されるように膨らんでいる。 俺は財布らしい財布を持っていなかったので、それなりのお金....................具体的には100ドルのお金を、台所からひとついただいたジップロックに入れる。 冷蔵庫近くの棚に置いてある軽食を2、3個と、ボトルに入れられた水を手に取る。 軽食は着ている上着のポケットに入れ、水のボトルはボストンバッグの外側についている水筒を挿すためのポケットへ入れ込む。 「ひとつ食べるか。」 俺はポケットに入れた軽食の袋をひとつ取り出し、封を切って中身を口へ放り込んだ。 ぎゅっと圧縮したパンのような食感をした物体を飲み込み、水と胃に流し込む。 よし。 「行ってきます」 時刻は朝の5時。 朝早く、俺以外には誰もいない室内。 虚空に向けて出発を示す挨拶をした俺は、事務所を後にする。 何が起こってもいいよう、日常的に履く靴ではなく、戦闘にも対応しているいかつい見た目の靴に履き替え、部屋を出た。 ドアを閉め、手動の鍵を閉める。 オーケー。これで防犯もバッチリ。 外に出ると、やや肌寒い朝特有の空気感が俺にまとわりついてくる。 スターダスト事務所の階段を降りて、歩道(※)へ立つ。 時刻的な問題か、人の影はない。 上の空中道路を見上げても、車両はごくたまに、ぽつりぽつりと現れる程度だ、 さて、事務所を飛び出して俺は気がついた。 「試験って、何か勉強した方がいいのかな。」 ----- ベロキが出ていってから約2時間後。 そこにいるのは、ベロキの次に早く起きたアロと、やっと起床したミクロだった。 ミクロは台所で目を覚ますためのコーヒーを淹れるための湯を沸かし、自分のデスクに腰掛ける。 そして、手元の紙に目を通し始めた。 紙といえば、このスターダスト事務所は特殊な仕事が多いその関係上、電子端末で情報をやり取りしていない。 電子端末でのやりとりは、それが一般的になったこの時代において、匿名性を保つための方法としては全く適切とは言えない。 虚無。 2人は互いに何も話さなければ、互いに干渉しようという気概すら感じられない。 互いに、それぞれのやるべきことをしている。 普段なら、お騒がせ師のリンがぬくぬくと起床してくるまで2人は無言だ。 しかし、この日に限っては違った。 「結局、あのことは言わなかったのですね。」 静寂を破ったのはアロだった。 「あのことってのは、どのことだ?」 「はあ....................分かってるくせに。全くもって、人が悪い。 ベロキを客寄せパンダとして使いましたね。」 「ジパングのことわざでねぇ。 敵を騙すにはナントヤラ、ってのがあんだよ。 お前も知ってるだろ?」 「また日本語ですか。 日本語の習得は、言語という学問全体を俯瞰して見ても難易度が高いので、あまり話題に出さないでほしいです。」 「そりゃ悪かったな。 でも、ベロキに免許をとっていて欲しいのは本心だぜ?」 「でも、たかが誘き出し目的のためにベロキの命まで危険に晒すのは共感できません。」 「ああ。その点は安心しろ。 ベロキは死なない。あとから僕も会場へ行くからな。」 「....................ほう?」 「奴さん、もうベロキの行方を嗅ぎつけやがったからな....................ここいらで誘き出して殺す。」 「............クロをですか?。」 「いや?あの仮面黒子ヤロウはどうせ出てこない。 どうせ出てくるのはシロだ。 シロにはベロキが個人的に殺意を抱いている。役に立ってくれると思うぜ。」 そう語るミクロの目は何を見据えているのか、アロには予想もつかなかった。 アロは元来、人の感情を読み取ることが非常に得意である。 目の動きや話し方のトーンの変化など、様々な要素から予測ができる。 しかし、目の前のミクロという男の感情だけは、理解しかねるものがある。と、アロは普段から思っている。 日常会話程度なら問題はないのだが、彼ら2人が共通の目的としていることが話題となると、話が変わってくる。 彼が殺意を抱いているのか、それとも半ば諦めているのか。 普段、飄々としていて感情を表に出さないからこそ、数年の時を共にしているアロでさえ時々、ミクロが何を考えているのかが分からなくなることがある。 笑顔で「これからお前を殺す」と殺害予告をするし、無機質な表情でコロリと人を見捨てることもある。 いつものように飄々としているときでさえ、目に精気が灯っていないことがある。 「じゃあ何を....................。」 「アロ。 もう僕らは本格的に動かなきゃいけねぇんだよ......................。」 ミクロは椅子をゴロゴロと後ろに下げ、デスクの上に足を乗せるような姿勢を取る。 その手にはビニール袋が握られている。 その袋の中には、先日の「ペスト」と名付けられた動物性プランクトン種の怪獣の栄養源としていた物体の中より発見された小型の機械が入れられていた。 何日も経ったことでそれのバッテリーは流石に空っぽになっているようで、ただの金属が機械の形を取っているだけのガラクタと成り果てていた。 しかし、それは彼らにとって...................、 「さぁて始まるぜ?前哨戦がよ............。」 アロはゴクリと唾を飲み込んだ。 アロはよく、感情の薄い冷たい人間であると言われる。 しかし、アロからすればその主義主張は間違いである。 目の前の男、ミクロの方が、よっぽど感情の薄く、他人を自分の駒として利用できる"いかれた人間"である。 やつはただ飄々してテンションを高く保っているだけである。 と、そうアロは考える。 ミクロの目は入り込む朝日を反射するレンズとなり、歪みなくアロの顔を写している。 しかしそれは物理的な話。 ミクロは実際、何を見据えているのか....................? この独特の緊張感は、この後リンが起床するまで続くのだった。
※ ある程度の都会なら、車道は地面に残っておらず、ほとんどが空中道路です。 田舎の方面ならば地上道路を目にできます。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳