鯣烏賊 / 第37話

いざ、試験っ! その2

試験会場は、俺の最寄り駅から特急列車を使って数時間の場所に位置する駅にあった。 全く人気のない無人の駅だ。 持ち合わせていた電子きっぷの読み込みを済ませて改札を出る。 改札も俺の腰くらいの丈しかないから、やりようによっては無賃乗車が出来てしまいそうだ。 ....................こんなやさしいセキュリティで大丈夫なのかな。 ジャリ、ジャリ.................... 端的に言うと、ここは乾燥した場所だ。 ホームから地上へ降り立つと、そこは一面、砂、砂、砂。 さっきの駅のホームにも砂が飛んできていて、歩くとジョリジョリした音が鳴っていた。 砂場にあるような小粒の黄色がかった砂ではなく、赤黒く大粒の砂だ。 一面が砂だから乾燥しているのだけれど、この砂を手に取ってみる限りでは、中にある程度の水分を含んでいそうだ。 ぽつりぽつりと見える雑草やサボテンのような植物たちは、この水分を生活のあてにしているのだろう。 きっと。 「はぁぁぁぁ....................座り疲れたぁ。」 駅のホームから出た俺は、青空に向かって両手を伸ばし、思いっきり背伸びをする。 凝り固まっていた血液がじわじわと全身に回っていくのを感じる。 とても気持ちの良い感覚だ。 普段はこんな長時間座るようなことがないから、いつもは感じない種類の疲労を感じる。 肉体的疲労というより....................精神的疲労、なのかな? まあ深く考える事でもないよね。 俺は会場へ向けて歩みを進める。 場所はわからないが、ミクロさんから建物の外観か写された写真をもらっている。 ミクロさんいわく、「行けばわかる」とのことだ。 たしかに目を凝らすと、少し遠くにミクロさんに見せて貰った写真に似通った形と色をした建物が見える。 多分....................いや、絶対あれが例の会場だろう、という絶対的な確信を持って、俺は歩き始めた。 あまり遠くないから、そこまで時間はかからないだろう。きっと。 約3分後。 俺は試験会場の入口へ到着した。 会場は、俺の想像とは違う、異様な雰囲気を持つ場所だった。 「何コレ、牢獄????」 まず、鉄の格子が敷地の周りを囲っている。 鉄格子の上には金属製の糸が張り巡らされているのだが、あれは恐らく電線だろう。 俺は知っている。 あの種類の全然に触れてしまってこんがり肉になってしまった人を何人も。 一応駐車場があるのだが、現在は数台の車両しか止まっていない。 それに、駐車場として使われているスペースもごくわずかだ。 本当に、試験の関係者しか中に入れるつもりがないんだろう。 建物は鉄筋コンクリートだ。 無機質で簡素だが....................耐久性を重視するのならこれ一択だよね、という作りをしている。 力技でこの壁を突破するのは極めて困難だろう。 そう。 俺はこの景色を何故か知っている。 というのも、俺がついこの間まで住処としていた刑務所に似通ったデザインだ。 色々と思い出しちゃうんだよなぁ....................。 右隣の部屋の名前も知らない強盗殺人犯は今頃どうなったんだろうか。 反省の「は」の字すら知らないような外道だったから、まあ死刑だろうな....................。 いや、思い出しても仕方がないか。 さーて、中に入ろっと。 「あのー、すみません。」 「....................ハイハイハイハイ、お待ちくださいねぇ〜〜。」 随分とテンションの高い看守....................違う違う、受付だ。 奥から出てきた受付の女の人は、派手な模様のピンク色の服とアフロの髪型というなんとも独特な格好をしている。 「兄(あん)ちゃん兄ちゃん、名前は?」 えーっと、普通に挨拶するだけじゃ入れてくれないから、確か....................。 背中に背負っていたボストンバッグを下ろし、中に入れている電子端末を取り出す。 いわゆる、タブレットと言われる製品だ。 このタブレットは、我が事務所のメンバー全員に配布されるもので、それぞれの機器同士で1つのサーバを共有している。 資料などをここで管理することが目的....................なのだが、そもそもうちの事務所は依頼がほとんど来ない。 この程度の依頼数でどうやって経営してるんだ、と疑問に思うほどだ。 その上、我が事務所に来る依頼は、何故か紙を使っての依頼が多いので、データ共有などしたことがなく、俺はこのタブレットをあまり使ったことがない。 強いて言うなら、戦闘中に使う通話アプリはこの端末のサーバで使用している....................。 でも、これも主戦力となっているのは耳元につけているイヤーカフだ。 まあつまり、このタブレットはその程度の運用でしか使わない、ということが言いたいわけだ。 電源を入れて.........ええと、このタブレットのパスワードは確か「396396」だったな。 そして俺はメールアプリを開き、「micro」から送信されているメールボックスを開く。 そしてそこに貼り付けられた画像を受付に見せ....................そして、ミクロさんに"この通りに言え"と言われた通りの言葉を喋る。 「レスパさんからの推薦で受験しに来ました。ベロキです。」 「ハイハイハイ..........確認しますね〜〜。」 受付の人は手元のパソコンを何やらカタカタやった後、俺に1枚の樹脂製の札を渡してきた。 受験票だ。 「確認が取れました。 受験番号:-00004番のベロキ様ですね。 寮のお部屋は最上階に登った1番右の部屋になります〜〜。」 「わかりました。ありがとうございます。」 俺はその札を受け取り、部屋の場所を確認するために受付においてあったマップを見る。 そのマップによれば、どうやらこの施設は4つの建物に分けられているらしい。 寮として使われる建物が2つ、講堂が大きな建物が1つ、試験会場として使う体育館が1つ。 そして他の場所はだだっ広いグラウンドと通路だ。 パッと見ていちばん大きく見えるのは、俺から見て左手に2つある寮の建物だ。 それぞれが隣合っていて、集合団地みたく佇んでいる。 試験会場として使う建物はそこまで大きくない。小さくは無いけれど、特別大きいかと言われればそうではない。 普通の体育館、という感じだ。 俺が行くのは、2つあるうち、向かって右側の寮の建物の最上階だ。 行くべき場所が分かったので俺はその場所に向かうため足を進めようとする。 しかし、歩き始めようとしたところで、再び受付の人に呼び止められた。 「当試験は、許可されたシチュエーション以外での武装使用は禁止だよ。 固有武装を回収しますね〜〜。」 「あ、はーい」 かくして、俺は固有武装の「鍵」を受付に置き去りにして寮へと向かった。 ----- 「名を名乗れ。」 「手、離してくださいよ。 ....................離さないと殺しますよ?」 いや、なんで? まず、部屋に入ったら、ものすごく良い体つきをした男の人がいた。 そして「この人と生活することになるのか」と思った俺は、その人へにこやかに挨拶をしようとした。 そうすると俺は、いきなり首根っこを掴まれてしまった。 すごい力だ。ちょっとやそっとでは外れることはなさそうだ。 身長は....................185cmくらい。 体重はどのくらいだろうか。 服が厚着なせいで測れない。 多分、この人は俺のことを侵入者だと思ってるんだろうな。 なんの前触れもなく部屋に知らない人が入ってきたらそりゃ驚くだろう....................。 まあ俺は部外者などではなくて、受験者である訳なんだけど。 というわけで俺は誤解を解くためにポケット、へと突っ込んでいたさっきの受験票を取り出して、彼に見せた。 彼は片手でその受験票を俺から奪い取ると、それの確認をした。 「俺、受験者なんですけど。」 「....................どうやら本当らしいな。」 彼は俺の首を離すと、頭を下げて謝罪をしてきた。 首根っこを離された俺は床に膝をつき、首に手を当てる。 俺の感覚としては痛くも痒くもないのだけれど、思わずのどぼとけの辺りを触ってしまうのは、人間としての癖なんだろうか。 改めて見上げると、まあ、とても大きい。 背丈、肩幅、ウエストも、目の前にある太ももも、見下ろすと目にすることができる靴のサイズも、俺よりはるかに大きい。 ミクロさんの身長も175cmくらいあるけれど、あれよりも数段大きい。 背丈だけ大きい人なら、もっと大きい人をいくらでも探せるだろうけど、こうも整った筋肉を持っている人だとなかなかいない。 「すまない。ろくな確認もせずに。」 「いや、当然ですよ。こんな肌も髪も白い人間がいきなり入ってきたら怪しみますよね。」 「敬語はいらん。 俺はディランだ、よろしく。」 「ああ、ベロキです。こちらこそ」 ディラン君が手を差し出してきたので、俺は快く握手に応じた。 ............握力が強い。 薬漬けの体をしている俺とはまた違った、天然のパワー。 恐らくものすごい鍛え方をしているんだろう。 多分、鉄のパイプくらいなら、生身で軽々と曲げれられるんじゃないだろうか。 「今日の朝、朝食から帰ったらこの通り、ベッドがひとつ増えていたからな。 なぜかと思ったんだが、お前が原因か。」 「ああそうだね。俺は今日から参加だから。」 「それにしても当日参加か。珍しいな。 こんなこともあるのか。」 珍しい..........のか? 調べた限りでは、ギリギリまで申し込みを待って飛び込みで受験する人は少ないと聞いているのだけれど。 「そんなに珍しいの?」 「当たり前だろう。これは特別推薦試験だぞ?」 「....................トクベツスイセンシケン?」 「お前、知らないのか..........?? ....................自分の受験番号がマイナス表記なことに違和感を持たなかったのか?」 「受験番号がマイナス?...................確かに。マイナス表記になってる!」 ディラン君は俺の回答を受け取ると、近くのベッドに腰掛けておでこに手を当てるポーズをとった。 この仕草は、すごく困った時にやるものであると知っている。 なにか、困らせてしまっただろうか? 「お前、一体何者だ?」 「しがない田舎の個人事務所の者だけど....................。」 「なら、なぜ..................この受験票にはレスパ長官のサインがあるんだ?」 「え?」 俺の受験票に記されている、「ミクロ」と「レスパ」の文字。 直筆のサインを電子データに置き換えたものだが、元となっているのは正真正銘の手書き文字だ。 俺がこの名前たちの意味を知るのは、この試験が終わってずーっと経ったあのとき。 もはや今の俺からすると、この頃が懐かしい。 歯車が決定的に廻るその日まで、3週間と3時間。

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