鯣烏賊 / 第24話

夜闇を覆うは漆黒の霞、現るは歯車を廻す皓き者 その2

「っ、っぷっ....................!」 飛行機に乗ってから、アロ君が15分おきくらいでビニール袋に顔を突っ込んでいる。 まだ実際にゲ....................リバースしたわけではないけれど、それでもかなりきつそうだ。 「アロ君..........大丈夫?無理してない?」 「アロのそれはいつものことだから気にするな、ベロキ。アロもも慣れてる。 だろ?」 アロ君は袋に顔を突っ込んだまま、首をガクガクと縦に振っている。 本当に大丈夫なのかなあ....................? 「はいはい、3人ともその辺にしといてください。 空港、見えてきましたよ」 『バタバタバタバタバタバタバタバタ!!!』 俺たちを機体に乗せた小型のオンボロ飛行機が、山の間をぬって、目的地であるモンゴルのとある空港に着地した。 俺たち以外には誰も乗っていないガラガラのこの飛行機は、フラフラとした安定感の欠片も感じない、かなり怖めの運転で無事(?)に任務を終えた。 正直、この飛行機にはかなり不満がある。 椅子の耐久度が心配だった。 だって、離陸のときに、俺たちが座っているもの以外の椅子の背もたれが全部、「ガタン!」と大きな音を立てて起き上がってたんだもん。怖いよ。 嫌な予感はしたけれど、さっきの着地のときに「バタン!」と全ての背もたれが倒れたことには少し、いやかなりの恐怖を覚えたけ。 それに空調もガッタガタ。すごく寒かった。 今だって俺の膝の上にはタオルケットが置いてある。 さも当たり前であるかのように機内食は提供されなかったし、窓も軽く小突いただけで割れてしまいそうなくらいに薄いガラスで作られていた。 いくらなんでも酷い機体だ。 いや、別に怒ってないからね、うん。 まあ、エンジンがガソリンじゃなかっただけ良かった。 そこだけは褒めてやる事にしよう。 「ミクロさん、なんでこんなに安物のオンボロ飛行機なんですか? ....................モンゴルにも大手の飛行機会社の便くらいはあるでしょう?」 「そう言ってやるなよ。 かさ増しだ。こう見えてウチは結構資金やりくりカツカツなんだぞ?」 なるほど。 つまり、W.M.S.Fの方から補助金がたくさん出ている。 その補助金と使用金額の差額を少しでも事務所の懐におさめるために、大手の信頼できる飛行会社ではないけれど、安いけど信頼は出来ない飛行会社にしたわけだ。 いや、最低じゃん。 いろんな意味で。 もうこんなことは二度とごめんである。 と、そんなことを考えていると、飛行機のドアから係員の女の人が案内に入ってくるのが見えた。 俺たち4人は席から立ち上がった。 その後はとても大変だった。 危険物を見つけるために使う金属探知ゲートをくぐった直後に、アロ君が乗り物酔いで限界を迎えて脱落。 俺はリンさんの指示で、急いで乗り物酔いで死にかけてるアロ君のために水を2、3本ほど買ってきて、アロ君に飲ませた。 背中をさすっても何をしてもアロ君の気分は晴れないようだった。 それでも何度も何度と吐きそうになるアロ君をミクロさんがトイレの個室に連れて行き、10分くらいでさらに青白くなってアロ君が帰ってきた。これは間違いなく吐いたな。 それでも乗り物酔いが全く覚めなかったアロ君のためにリンさんが酔いに効く薬を懐から取り出して..............................。 いやいや、いくら何でもアロ君、乗り物酔いに弱すぎるでしょ。 そんなことをしていると30分近くが過ぎ、ようやくアロ君が人類らしい二足歩行を取り戻すまで回復した。 逆に言うと、アロ君がまともに立ち上がって歩けるようになるまで30分もかかったということだ。 いや、30分で済んだだけいい方なのかな? アロ君が復帰したことで、俺たちは町長さんが待っているらしい出口へとようやく向かうことができた。 もともとここは、食堂、コンビニ、トイレ、エアポートがそれぞれひとつずつある程度の、そこまで大きい空港だ。 当然、俺たちが使える出入口もさっきからずっと見えている正面玄関ひとつだけなので、そこにはすぐに到着することができた。 「お待ちしておりました。スターダスト御一行様..........。」 出入口から外に出ると、いかにも「偉い人です!!!!!」という顔と身なりをしたご老人が待っていた。 背はあまり高くないし、腰も曲がっている老人だけど、とても高級そうな服を着ている。 それに、装飾の凝った杖を携えていたり、左右にいかつい風貌のガードマンがついていたりと格式高く見える。 彼のしわがれた顔から発せられたその言葉は、予約制の店や宿でよく聞くものだった。 「御一行様」なんて丁寧で上品な対応をされてしまうと、こちらも少し身構えてしまう。 それに、アロ君の吐き気があったから、しゃれにならない時間待たせてしまっている。 俺に「お待ちしておりました。」というその言葉は、ずいぶん重たく聞こえた。 「こちらこそお待たせいたしました。本日より数日、よろしくお願いします。」 「そんなそんな滅相もございません。お願いをするのは私等のほうです。 ....................ささ皆様、お荷物はこちらに」 老人のそんな言葉を合図にしてガードマンが俺たちの荷物を奪い取り、トランクケース3つと俺のトートバッグ、予備の武装の入ったケースたちをすべて、車の中に突っ込んでしまった。 老人たち3人と俺たち4人が乗っても、まだまだ潤沢にスペースがあまるほどのとても広い車内に案内され、そばに置く荷物もない寂しさを感じながら席に着いた。 車は何の音も立てず発進し、数秒で空中に浮かんで空路をゆく。 事務所にある車とは大違いの性能である。 田舎の小さな空港の上空に辿り着くと、自然に囲まれた街が見えてくる。 「あそこです。」 老人が窓の外を覗きながら案内をしてくれる。 ....................いやいや、それにしても近すぎるでしょ。 この距離ならば徒歩でも行けるじゃないか。 それに、本当にあの小さい街が疫病に侵された街だって言うのか.......................? 街というよりも、集落、住宅街? そのあたりの言葉が正確だろうか。 パンデミックと聞くと大きな街が想像されるけれど....................いや、逆か。 そこまで大きくない場所からこそ、この短期間で聞いたとおりの状況までに追い込まれたんだ。 場所広くないということは、普段から会う人も限定されていく。 会う人が限定されていると、ひとりが感染して場合の、その感染がどんどんどんどんと広まっていく。 まあ、仮説だけれどね。 俺たちを乗せている車は、少しずつ高度を下げていき、地面に近づいていく。 地面に近づいていくと、段々と車内からでも街の様子が見えるようになっていく。 すると、どんな構造をしてるのか、などがわかるようになってくるのだ。 ....................ああ、そういうことか。 俺は直感で理解できた。 街中には、病院がたったのひとつしか見えない。 しかも、その病院だって、大学病院みたいに特別大きいわけではない。 まあ、たしかに街全体の規模感から見ても妥当な大きさの病院ではあるのだけれど。 聞いた話によれば、疫病にかかった人は合計で数百人単位でいるらしい。 たとえば。 風邪を病院に行こうとしても、病院のキャパシティが足りなくて受診できなかったら? もしもその風邪が、今までに知らない、見たこともないような恐ろしい症状だったら? その風邪の症状は放置しているうちにどんどん悪化していって。 終いには..............................。 あまり病気にかかることがない俺だって怖い。 ためしにに怪我に置き換えて考えてみるだけでも、その恐ろしさの理解は簡単なものだった。 実際に体験していなかったとしても、考えるだけでも、とても怖い。 車はいつの間にやら地面へと降り立ち、その大きなドアが開けられる。 開けられたドアの隙間から、眩い日差しが目を刺すように襲ってくる。 俺はその眩しさに思わず片目を閉じ、前が見えにくい状態で車から降りる。 もさっとした芝生に足裏がつき、自分が地面に立った事を確認して目を開ける。 「..............................。」   俺たちは街のはずれにいた。 俺たちはガードマンから後ろのトランクにしまっていた自分たちの荷物を受け取り、肩に下げたり地面に置いたりする。 全員の準備がある程度整ったところで、タイミングを計ったようにご老人が俺たちに向けて声をかけてきた。 「まずは、我らとともにあちらにある病院へと行っていただきたいです。 実は本日お会いする予定だったものも侵されてしまいました故....................私は代理の人間なのです。」 「承知致しました。」 アロ君が代表して返事をし、俺たちは病院へと足を運び始めた。 なんで病院まで車で行かないのかって? なんで車を、歩くのが面倒なわざわざ街のはずれに停めたのかって? 答えは簡単だ。 街を少し歩けば嫌でもわかる。 見ただけで誰だってわかる。 わかりたくないけど。 ....................道中には倒れて動けない人が沢山いる。 年寄りから子供まで。 犬や猫でさえ、衰弱してその場に倒れ込んでいる。 車で行ってしまっては、彼ら彼女らを轢いてしまうからだ。

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