鯣烏賊 / 第44話

凍峰に沈む街にて その3

「失礼しまーす.....................」 講堂棟の地下室。 ここが試験会場であるかを忘れさせてくるような........................なんというか冷たい場所。 四方八方がコンクリートに覆われていて、 天井からは上層階でガンガンにかけられているエアコンの影響からか、水が滴り落ちている。 歩く道には乱雑にものが散りばめられていて、足の踏み場を探すのでも大変だ。 ダンボール、発泡スチロール、よく分からない小さな金属部品、割れた樹脂製の何か、明らかに壊れているコスモ制御装置、エトセトラエトセトラ....................。 電球の交換をさぼっているのか、ときおりチカチカと照明が消えかかっている。 「ホラー映画かな?」 リンさんが週に1回くらいの頻度で見ている映画を思いだす。 どうやらホラーというジャンルだったらしく、チェンソーを持ったゴーストや、髪の長い顔の隠れた女の人、ニコニコ笑顔で迫ってくる殺人ロボット.....................こんなのから逃げ回る映画を見て絶叫していた。 当然、そんな状態で寝れる訳もなく、そういう日はアロ君を除いた3人で映画鑑賞をしていた...........................。 べ、別に怖くはなかったけどね。 その過程で俺がポップコーンとコーラという最高の組み合わせを知ったのはまた別の話。 一旦置いておく。 そんなホラー映画ゾーンには数十メートルおきに鉄の扉が設置してあって、それぞれ「倉庫1」「倉庫2」などの部屋名が書いてあるプレートが引っ掛けられている。 ここじゃない。 ここでもない。 ブツン! 「うわっ」 ジジジジ........................パツンッ.........! やめてくれないかなぁ、こういうの。 怖い怖くないは置いといてビックリするからさあ? やめようよ........................。 べ、別に怖いとかそういうのじゃないよ?! 「あ、ここかぁ」 長い廊下を歩いていくと、突き当たりの扉に到着した。 そこには鉄ではない金属で作られた頑丈な扉に、 【技術開発室】 の文字が書かれた金属製の小さな看板が吊り下がっている。 そして、看板の左下半分には、知らない言語の筆記体かと見紛うほどの悪筆で (修理、改造承っています) と書かれていた。 さて、なんで俺がこんな場所にいるのか、という話をする。 昨日の練習中が終わったあと、ディラン君にこんなことを言われた。 「ベロキ、もっと速く走れたりはしないの か?」 「えーと、寝言は寝てから言ってくれないかな」 そんなことできるわけない。 だって「鍵《シュリュッセル》」で出せる最大速度は「速《ラピッド》」での5歩目である。 まあ、暗殺に使ってた発勁術とかを組み合わせればもう少し出るけど、その程度じゃ焼け石に水。 多分ディラン君の求める速さで動くことなんてできるわけがない。 そう思っていた時期が俺にもありました。 「お前、「強《ブースト》」とかいう機能がある、と言っていたよな。」 「うん。」 「じゃあ、改造してもらってきたらどうだ?」 つまり話はこうだ。 この試験会場には武装の調整をするための技術者向がいて、その人に改造してもらって機能を併用できるようにしたらいい。 そんなことが可能なのか...........................と、俺は思った。 当然の疑問だ。 まあでも。 「あれだけ念押しされたら行くしかないよなぁ」 まあディラン君は真面目そうだから、詐欺師に騙されるようなことはないだろうし。 とても、あんなガタイのいい人に詐欺を仕掛ける根性を持った詐欺師がいるとも思えないし........................。 ここはディラン君を信用することにしよう。 「ん?」 ドアにはさっきの悪筆で 【ノックはせずにどうぞご自由に出入りしてください】 の文字が。 ....................................こういうのって普通はノックするべきなんじゃないのかな。 でも、中からは時折大きな金属音や火花が散る音がしている。 たしかに、とてもノックが聞こえる環境には思えない。 仕方ないね。 俺は意を決してドアノブに手をかける。 そしてドアノブを捻り、ドアを押す。 きっと失礼じゃないと思う、多分。 キキ.........ギィィ..................... 長年手入れされていないのか、錆びた金属部品が擦れ合う音がする。 そんな音とともに目の前を覆っていた金属が左にずれ、部屋の中が見え始める。 そこには。 「あのおー、すみませんー」 「.................................」 背中半分を覆うほどに長い髪の毛をした女性がいた。 ゴーグルをつけ、何やらガチャガチャといじっている。 周りにはレンチやらバーナーやらが転がっていて、近づくのも危険そうな雰囲気を醸し出している。 かといって、話しかけても返事がないのなら仕方ない。 「わぁ!何??!!」 俺は足元に気をつけながら彼女に近づき、肩に手を触れて自分の存在をアピールした。 振り向いた顔は............なんというか若い。 身長は多分、160cmないと思う。 髪はまるで「そんなものには興味が無い」とばかりに括られていて、顔は煤で黒く汚れている。 手にはそれはそれは頑丈そうな手袋をつけていて、下半身はカーゴパンツ、足にはゴムブーツを履いている。 いかにも技術者、専門家と言った風貌だ。 研究とかをする人ってみんな身なりに気を使わないものなのかな。 どことなくアロ君に似た雰囲気を感じる。 「改造をお願いしたいんですけど」 「見せて」 俺は受付に申請を出して一時的に手元に戻した「鍵《シュリュッセル》」を腕から外し、デスクの上に置く。 机に置かれた「鍵《シュリュッセル》」を一目見て彼女は興味を持ったみたいで、 すぐさま観察を始めた。 「これは.....................多機能型の固有武装《オンリーウエポン》? .....................珍しい...............分解したい」 そのゴーグルは拡大の倍率を調整できるらしく、彼女はゴーグルの横についているダイヤルを回しながら「鍵《シュリュッセル》」をまじまじと見ている。 それにしてもプロってすごいね。 見ただけで「鍵《シュリュッセル》」が多機能の武装であることを見抜いてきた。 それならならきっと話は早い。 「機能の並行使用をできるようにしたいんですけど...........................。 どうですかね?」 「敬語は要らない。」 「あ、そう。」 「改造はできるよ。 .......................................でも、いろいろやってみたいこともあるから明日まで待って。 ..................部屋番号は?」 「002番部屋だよ。」 部屋番号を伝えると、彼女はもう何も話さなくなった。 目の前で「鍵《シュリュッセル》」の分解を始めて、その作業に没頭してた。 世の中には変人がいるものだなぁ、と思った俺は部屋から出て行った。 「.................................こわい」 そして、現在時刻が夜の22時であることを思い出し、ゴーストに会わないよう心の底から祈るのだった。 こ、怖くなんかないからねっ! ひえっ
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