鯣烏賊 / 第45話

凍峰に沈む街にて その4

ジリリリリリリ! 「???」 ジリリリリリリ!、ジリリリリリリ! 俺は参考書から目を離し、部屋に設置されている電車時計に目を向ける。 時刻は、午前3時半。 外はまだ太陽が出る気配すら感じられず、周りの部屋の人も皆睡眠に勤しんでいる。 窓を開けたら虫の声が聞こえてきそうだ...........................なんて考えてみたけど、よくよく考えればこんな乾燥地帯のど真ん中に虫なんてそうそういないか...........................。 誰かの目覚まし時計かな、とか思ったけど、俺は目覚まし時計をかけていないし、ディラン君がこんな時間帯に起床するような不健康な人物だとは思えない。 と、すると。 (電話の呼び出しベルだね..................。) 狭い部屋の中、かなりの大音量で電話の呼び出しベルがなっている。 流石に隣の部屋までは漏れていないと思うけど、それにしても大きな音だ。 リンさんがホラー映画を見ながら絶叫するときのdB数に匹敵するんじゃなかろうか...........................? この奇妙な現状をしばらく把握できずに変な考え事をしていると、隣のベッドの人物が使っている掛け布団がモゾモゾと動く。 そこから、少し怒ったような、イライラしたような、そんなディラン君の声が聞こえた。 まあ、掛け布団のせいで声がモゴモゴしているように聞こえちゃうけどね。 「ベロキ...........................起きているのか?.................................... 頼むからその騒音を早く止めてくれ...........................。」 俺が夜更かしして勉強していることを察知するなんて。 この暗闇でマトモに目が見えるわけないから気配で俺が起きているのを察知したなんて流石ディラン君....................................じゃなくて。 「よいしょっと。」 俺は参考書を閉じてヌクヌクとした温度に保たれた布団を自ら剥ぎ取り、起き上がる。 そうでもしないとこの幸福な空間から外に出られる気がしない。 ベッドから降りて床に足をつけ、受話器とお菓子が置かれているテーブルに足を進める。 受話器が置かれているテーブルの前に到着すると、俺は相手に多少の怨念を込めて電話をとった。 「はいはい、こちら002番部屋...........................」 「渡してくれた固有武装《オンリーウエポン》の改造作業が終わったから取りに来て。」 ブチッ。 「....................................。」 あ、切られた。 要件を手短に言われただけで切られた。 いまの時間がめちゃくちゃに失礼な時間帯だってことくらい、俺もわかる。 何をしたらいいのか分からず立ち往生している俺に対して、ディラン君が語りかけてくる。 「電話の内容は..................? 俺たちに関係のある内容だったのか..................?」 俺はその声で再び我に返り、ディラン君のほうに振り向く。 拳をこれでもかと握りながら、こう返したのだった。 「地下室に行ってくるね。」 「....................................????????」 寝起きだったとはいえ、あのいかにも「俺困惑してるんだけど」みたいな表情をしたディラン君は結構面白かった。 ごめんねディラン君。 多分一生忘れない。 俺はハンガーにかけた防寒用のウインドブレーカーを着てパジャマ姿を隠し、外に出ていく時に持っていった方が良さそうなものを一通りポケットに突っ込む。 そしてカードキー代わりなっている受験票を扉にかざしてロックを解除。 かなり頑丈に作られているため重たくなっている扉を開け、外に出る。 そして扉を閉めて、受験票を使ってロックをかけ直した。 ----- 俺は今訓練室にいる。 え?時を飛ばしすぎだって? ではさっきまでの俺の行動を懇切丁寧に説明してあげよう。 まず、俺は研究室に行った。 あのホラー映画ゾーンを突破して研究室の扉に手を触れたとき、俺の思考は 「舐めた態度とってきたら殴る」 という猿同然のものだった。多分。 そして扉を開けると、待っていましたと言わんばかりに「鍵《シュリュッセル》」が飛んできた。 意味わかんないでしょ? 大丈夫、俺もだから。 答えは単純。 彼女が俺に鍵を「投げて」渡してきたからだ。 流石に、彼女に一言か二言文句を言ってやっても良かったんだけど、 作業に没頭して大声にも反応しなかったところを見ると、もはや俺には怒鳴る気力すら残っていなかった。 しかし。 俺は彼女を怒る気になれなかった。 鍵にはどこをどう改造したのかの説明書もつけられていた。 それは、 ・全体のメンテナンスをしたので、出力が向上 ・機能の並行使用を可能にした ・こちらで開発していた武装を「排撃《リジェクト》」の機能として新たに搭載 (一番下に悪筆な字で、「面白いものを見せてくれてありがとう」と書かれていた。) と書かれた紙だった。 まず、注文通り機能の並行使用がなされていたので、俺は大満足だ。 それに加え、全体のメンテナンスもしてくれたなんて、彼女はなんて良い腕を持っているのか。 この2点でさえ、俺はさっきまでの奇行を十分に許せるほど上機嫌になってしまった。 しかし、本題は3点目だ、 「へ....................................「排撃《リジェクト》」を新たに追加....................................?」 え、なにそれ。 まず機能の追加とか可能なのか....................................いや、実際にしてもらったから可能なのは間違いがないんだけどさ? 一応、「排撃《リジェクト》」という機能の説明もされていた。 "使用者が受けた衝撃を蓄積し、好きな時に「発散」することができます。 高速移動の風圧や、相手から受けた攻撃、また歩いた時に感じる微細な風圧でさえ、機械が判断して衝撃を蓄積します。 また、この機能について、蓄積は自動でやってくれますが、実際に発散するときは「音声認識機能」を採用しています。 ダイヤルを「排撃《リジェクト》」に合わせていただき、機能名を口に出せば発動してくれます。" 読んでいるだけでワクワクしてくる。 こんなにも面白そうなものを見せられたら興奮してしまうのが人間の性。 さっそく部屋まで全力疾走し、訓練所の鍵をとって今訓練所に来た、というわけだ。 俺はVR機器の中に入る。 はてさて、どんな進化具合を見せてくれるのかな...........................? ※ちなみに、訓練室の使用時間を破って使用してしまったので、ディラン君にあとからめちゃくちゃ怒られました。

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