鯣烏賊 / 第21話

元殺し屋と初心な新人 その6

「お待たせコスモスさん!」 「えっ..........あっ!先輩?!ですよね?!」 俺とコスモスさんが別れてから2分後、俺たちは合流した。 あの後は大変になる....................ハズだった。 実際俺も誘導は大変なことになると思っていたのだが、実際は俺たちの想像よりも状況は安定していたのだ。 コスモスさんが俺に避難誘導を任せた理由は、本人からの説明がなくてもよくわかる。 非常階段に続くドアに人が10人程度も集まって団子になり、列が進んでいなかった。 そのような状態を見たコスモスさんはこう思ったのだろう。 "非常階段の方向にも別のオニドリがいるのではないか" と。 実際この予想は当たっていた。 しかし、その方向にいた2羽のオニドリたちが避難する人達に危害を加えようとすることはなかった。 2羽のオニドリが暴れていたが、そのオニドリは別の人達が相手をしており、その周辺から動く気配を見せなかった。 そりゃ、自分の命を狙われてたら、餌よりもそちらの方を相手するだろう。 当然のことだ。 そして人が進めていなかった理由。 どうやら急ぎすぎてつまずいた人がいたらしく、たった2階を降りるだけの非常階段を人が進めずに団子になっていたらしい。 きっとその人も慌てていたんだろう。 俺はコスモスさんに教えて貰った近くの窓をぶち破って外に出て、転倒した人の元へ向かった。 そして、転んだ人を俺が抱き抱えて、階段を降りた 人達が団子になっているとはいえ、その人数は10人程度。20人には到底満たない。 その上俺たちのいた食堂は2階だから、地下の避難シェルターまでそう遠くない。 つまり、非常階段を降りて1階の建物内に入ってしまえばこの勝負は勝ちとなるわけだ。 転倒した人は、見る限り足首を怪我しているようだったから俺が抱え、後ろの人たちを誘導する形で1分足らずで室内に突入。 中でシェルターへ案内しているここの職員の人達に後を任せ、俺は全速力でここまで来たというわけだ。 ....................ひとまず。 「ここは俺に任せてもらおうかな。」 「えっ、でも。」 俺はまたも来ようとするコスモスさんを手で制止する。 パッと見ただけでもわかる。 彼女の身体の傷は決して軽くない。 今はアドレナリンなどの類がドバドバ出ているけど、数分でとてつもない痛みが襲ってくるに違いない。 吐血しているから、内部のダメージも大きいと見える。 「いいから離れて。巻き添えになっても俺は知らないよ。」 「は、はい..........!」 さっき固有武装を使って地面に叩きつけておいたオニドリは、体を揺すっている。 あの様子だともう数秒で起き上がってくるだろう。 俺とコスモスさんは地上に降り立つ。 コスモスさんに向こう側へ行くよう指示し、俺は左手の"鍵"のダイヤルに手をかける。 そして右親指で、起動のためのスイッチに指を置いた。 俺は今から、身体能力の「鍵」を解除し、扉を開く。 「固有武装(オンリーウエポン)..........!」 スイッチを押し、ダイヤルを一回転。 「跳」の印にダイヤルを合わせる。 起き上がったオニドリが俺に向かって突進してくる。 ところどころの関節が不自然に動いているのが見てとれる。 痛いでしょそれ。 ほうら、おいでよ。 全身の骨をバキバキに折ってあげるよ...........!!! 「"鍵《シュリュッセル》"...................」 オニドリは数歩の助走の後に再び飛び上がって、ある程度の高さのところで滑空する。 そして、地上から10メートル程度のところまで下降したきたところで、俺に向けて突進してきた。 「さっきも見たよ、それ。」 俺は上手い具合に移動し、オニドリの正面方向から少しズレた場所に立つ。 そして、くたばしでダメージを与えようと直進してきたオニドリの体を左に避ける。 そして、すぐ横にあるオニドリの腹を、下から触った。 「弾き飛べ....................跳《トランポリン》!!!!!」 機能の名前はトランポリン。 印の名前は「跳《トランポリン》」。 効果は、コスモで作られた薄い膜をつくること。 そして。 その膜に触れたなにかの衝撃を、そっくりそのまま「反対側に発散」させること。 なお、膜が破れた場合は何も起こらない。 今は正面から攻撃を受けたわけじゃないから、「跳《トランポリン》」の膜は元気ピンピン、絶好調。 つまり。 めっちゃ跳ねる! 真下から「跳(トランポリン)」の膜を帯びた俺のパンチをくらって突進の威力をそのまま返されたオニドリは、真下方向の逆....................すなわち真上方向にボヨ〜〜ン、と飛ばされた。 突然の出来事に状況整理ができていないのか、「クエクエ、クエ、クエ〜〜?!」みたいな素っ頓狂な声を上げている。 「伸びろタランチュラ!」 そして俺は手から長いコスモの紐....................タランチュラをとびきり太くして発射する。 伸びきったタランチュラが、跳ね上げられたオニドリと同じくらいの高度になったところで、タランチュラをすこし曲がらせる。 曲がったタランチュラはオニドリ足首にしっかりと巻き付き、こうなってしまえばちょっとやそっとでは解けない。 「そーりゃ....................。」 俺は片手から出ている紐を両手でしっかりと握り、渾身の力を込めるために姿勢を整える。 そして一瞬に全ての力を込め....................。 「戻って来いーーーーーッ!!!!!」 全力でぐいっと引っ張る! 俺渾身の力を込めて、伸ばしたタランチュラの紐を収納して戻しながら、オニドリに引っかかった足部分をこちらに引き戻す! 空中にいきなり吹き飛ばされた、という事象への脳の処理は終わっただろうか。 終わっていないのだろうか。 はたまた既に次の攻撃に備えていたのだろうか。 いや、本質的にはどれもどうでもいい。 大事なのは次だ。 備えてようと備えていまいと、次の攻撃は俺が対人間に特化して使っているものだ。 やつ程度の知能で対応できるわけがない。 今度は「下に猛烈な速度で引き戻す」という動作でオニドリの脳に再び負荷をかける。 筋力を全て総動員した上で、発勁術を使えば、あの大きさの物体を綱引きのように引き戻すことは簡単だ。 飛び上がったバスケットボールがいずれ落ちてくるように、オニドリがこちらに戻ってくる。 そしてオニドリが降りて....................落ちてくる先にはもう。 「衝《ストライク》!」 準備完了している俺がいる!!! 機能の名前はストライク。 印の名前は「衝《ストライク》」。 能力は、何かに衝撃をまとわせて、それを任意のタイミングで発散すること。 この衝撃は、ただ地面に向けて発散するだけでも、地面をまるで落下させたお皿みたいに割ることができる。 俺は、空中からオニドリが戻ってくる間に取り出していたファルシオンを構える。 ちょうど空中から垂直向きに落下してくるオニドリに対して、剣を真上に突き立てる。 そして落ちてくるオニドリの胴体....................さらに言えば、直線上には心臓がある場所に剣を突き立てる。 「グエエエエエッ?!?!?!」 痛い?痛い?痛いよね。 ちょっと刺さっただけでも痛いよね。 でも、届いかない、 たった1メートル程度のファルシオンの刃では、このまま刺しきったとしても心臓まで届かない。 発散するなら未だ。 「吹き飛べぇぇぇぇッ!!!!!」 俺はファルシオンを更に奥深くまで刺すのと同じタイミングで、「衝《ストライク》」によって刃にまとわせた衝撃を発散させた。 その衝撃はファルシオンの刃の向き....................すなわち縦。 その先にはオニドリの心臓がある! 「ギエエエエエエエッ?!?!?!」 発散された衝撃は、しっかりとオニドリの心臓を刺した。 そして心臓を貫き、皮を突き破る。 鮮血が降り注ぎ、向こう側へ臓物が飛び散ってゆく。 俺の目には塞がれていた太陽光が差し込んできた。

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