鯣烏賊 / 第5話

殺し屋、娑婆へ舞い戻る その3

"第2無期懲役制度" 裁判なんてほとんど覚えていないが、どうやら俺はこの判決を受けたらしい。 ではこの第2無期懲役制度を、ミクロさんの言葉を借りて説明しよう。 この第2無期懲役制度というのは、囚人が素性を隠し、再び社会の役に立つための制度だ。 裁かれる犯罪者のバックボーンや、同情の余地が一定数に達した場合、もしくは権力の影がちらついたときに適用される。 俺の場合はどうやら後者だ。 もともと自我のなかった戦闘マシンに同情の余地があるかと言われると........................................ね? つまり無期懲役は他のものとは少し勝手が違い、「上」からの無言の圧力が伴った要請があれば監獄から出ることが出来るらしい。 今回の場合、「上」を指すのは国営の怪獣討伐隊である、とミクロさんから聞いた。 国営の討伐隊がメッセンジャーとしてミクロさんを使った理由は謎だけれど、そのお陰で俺はここから出ることができるわけだ。 正確に言うとこの制度は他の囚人にも設けられているのだが、他の囚人は外に出られる期間が「1ヶ月」や「3ヶ月」などと決められている。 俺の場合は外に出れる期間に制限が設けられていないらしい。 なんかすごく優遇されてない?俺。 当然の話だが、外に出た程度で犯罪者のレッテルは消えない。 当然罪を犯せばもう一度監獄に戻されるわけだ。 ちなみにこの「罪」の基準は一般人と同じらしい。この辺りに理不尽はないみたいだ。 いや、思ったより緩いか。 そしてこの制度のもうひとつの特徴が「監視者」の存在である。 この監視者は俺たち犯罪者のことを厳格に監視することが求められる。 具体的にいえば「態度」「社会貢献度」を監視することだ。 態度は、まあわかりやすい。 俺たち犯罪者がもう一度犯罪を犯さないかどうかをしっかり監視する、それだけだ。 もうひとつの社会貢献度。 これがかなり難しい。 今から外に出る俺だが、その目的は「社会の役に立つこと」だ。当たり前だけど。 そしてこれから俺のする行為には、いちいち評価がつきまとう。 どれだけ周りの役にたったのか、どれだけいい印象を持たれているのか、どれだけ経済にいい影響を与えているのか。 それが点(ポイント)として絶対評価される。 この点(ポイント)は俺たち犯罪者には開示されず、監視者だけが知っている状態。 そんな中で点(ポイント)が1000に達しなかった場合、俺は監獄に戻される。 つまり、娑婆に出ることを許された犯罪者は、通常の人間よりも多く善行や社会貢献をしなければ外での生活を続けられない。 「でも、ベロキみたいに制限が無いヤツらは1000点(ポイント)に達したら意味ないじゃん」と言われると思う。 しかしこの点(ポイント)は、半年ごとにリセットされる。 だから俺はこれから一生、点(ポイント)に縛られて生活することになる。 ハイ、解説おしまい。 ----- 翌日、別に持っていける荷物も持っていない俺は手ぶらの状態で待合室にいた。 朝早い時間に睡眠を邪魔されて看守に連れていかれたにしては長い時間を待つ羽目になった。 なにもない..............................椅子と机と時計以外は本当になにもない待合室の椅子にちょこんと座らされ、両脇に看守2人というかなりの警備の元、俺はミクロさんを待つことになった。 「あのぉ...............................」 「静かにしろ」 「あ、ハイ。」 暇つぶしの道具はないの?って聞こうとしただけなんだけどなあ..............................。 ま、仕方ないか。 足をぶらぶらさせたり、手遊びをしたり。 時計を逐一確認しながら30分は待った。 「やあやあやあ、どうもどうも。」 ようやく、ミクロさんが別の看守に連れられてひょこりと顔を出した。 荷物はほとんど持っておらず、片手に小さめのハードケースを持っているくらいだった。 ミクロさんの挨拶に、腰を九十度に曲げた看守たちが定型文で返す。 前後左右にいる看守が全員腰を折ったため、俺も雰囲気に呑まれワンテンポ遅れたタイミングでぺこりとお辞儀をする。 顔を上げるとミクロさんも軽く会釈をして、手招きをしてきた。 看守の方を見上げると、「早く行け」というように唇で指示してきたので、指示に従ってミクロさんの方に歩いていく。 ミクロさんが立っているので流れで俺も立とうとするが、方を掴まれて椅子にちょこんと座らされた。 「では、今日より期限は無期限、ってことで。」 「ええ。点(ポイント)のおおまかな裁量は先日お送りした資料を元にしてください。 そちらに書いていない場合はあなたの裁量におまかせします。 こちら、外出許可証になります。絶対に紛失しないようお願いいたします。」 「はいはいこれね、了解....................。」 サイズはA4と呼ばれるやつだ。 でかでかと「外出許可証」の文字があり読む気も失せる量のきまりごとが書いてある。 そして1番最後には責任者の名前とミクロさんの名前が記されていた。 ミクロさんは俺の外出許可が記載された外出許可証を受け取ると、ハードケースを開け、その中にしまってあるクリアファイルに収納した。 「んー、指紋どこにやればいいですか?」 「こちらに。」 「オーケー、オーケー。これでどうです?」 「確認致しました。」 ほとんどデジタル化した社会だからこそ、こういう大事なものを紙にしているのかな、と思いつつ、ミクロさんたちのやりとりの終わりを待つ。 「他になにか、疑問点があれば」 「んー、では単刀直入に。 お預けしたアレはいつ頃届きますか?」 その言葉に看守は一瞬考えると、ミクロさんの耳元に寄って話し始める。 俺に聞かれたらまずいのかなぁ、まあ読唇できちゃうから関係ないけどさ。 という訳で、俺は目を逸らす。 ちなみに後から教えてもらったけど、こう言っていたらしい。 『ウチの技術者が興味を持ってしまいましてね........................................勝手にオーバーホールして弄っているようで。 本来ならばここでお渡しするようレスパ長官より命じられていたのですが。 すみません..............................1週間程度時間を置いてのお届けになります。』 当時の俺には何を言っているのかサッパリだったが、その言葉にミクロさんは満足そうに微笑むと、「んじゃ1週間後は誰かが応対できるようしておきます」と返した。 そのままミクロさんは俺の手を引いて出口ドアに向かうとぺこりとお辞儀をした。もちろん俺も後を追ってお辞儀した。 どうもジパングの慣習には慣れない。 そして出口ドアを開けると、ドア前に待機していた案内役の看守に連れられて、この建物を後にした。 さっきまでいた監獄から出ると、ミクロさんは俺を車の所まで案内した。 俺はあまりその辺には詳しくないけれど、多分、最新型..............................ではないと思う。 かと言って古臭いわけでもない。 よく空路で見れる飛ぶクルマだ。 地上を走る車と戦闘機を足して2で割ったような見た目のもので、横に着いている扉の下から翼が生えてくるタイプだ。 馬力と燃料コスモの容量問題から大陸間飛行はできないはずだけど、2、3度の燃料補給で北米大陸を横断できることをウリにしているモデルのはず。 いわゆるエントリーモデルというやつなんだけど、ナンバープレートの色が普通のやつとは明らかに違う。 「エンジン、入れ替えてます?」 「馬力はざっと2倍ってとこかな?」 ミクロさんはトランクにさっきまで持っていたハードケースをしまう。 トランクの中にはおびただしい数の金属ケースがしまってあり、中身はおそらく武器。 火薬系は..............................匂いから察するに無いっぽいな。 「さあ乗った乗った!」 俺を助手席に乗せるとミクロさん自身も乗り込み、ドアを閉める。 俺が肩にシートベルトをかけたことを確認すると、カードキーをかざして出発の準備をはじめる。 「ほんじゃあ、出発しよか..................................ま、二十分ぽっちで着くけどさ。」 コンピュータが静かな音を立て、車の電源を入れる。 ミクロさんが操作をはじめると車は重力に従ってゆっくりと浮上し始める。 二十分....................いや近いな?! 歩いても行けるじゃん。 「仕事以外で乗るのは初めてか?」 「そうですね。一応運転もできます」 「さっすが。 ....................まあ決まり的に車で送迎しないといけないんだ。少しばかり我慢してくれ。」 「いえいえ?全然。」 駐車場の出口から景気よく車が飛び出すと、外は真っ暗だった。 ネオンサインのせいで満点の星空、とはいかないけれど、よく見る街の景色、ってとこだ。 時刻は..............................まあ、8時とか9時とか、ってところかな。 空に引かれた線を基準とした道路を走り、ビル間を駆け巡っていくと、徐々に住宅が集合した場所になってくる。 「事務所に着いたらまずはお前を部屋に案内するよ」 「部屋なんてあるんですか?」 「ウチ住み込みだからさ、あと一部屋余ってるんだ」 「ありがとうございます」 「あと、武器もあげるよ、好きなの選びな」 何から何までフォローされてるな。 案外といい職場を見つけたんじゃないかと思いを馳せる。 給料は知らないけど、住み込みで、武器ももらえて、ご飯も多分食べられて。 「あとね、同僚が2人いるから。 1人目はこれまたアジア系の女。彼女も僕みたく髪を染めてるからわかりにくいけど、顔立ちでなんとなくわかるかな? 白髪でメガネをつけてる。あと我が部下ながら面(ツラ)がいい。 ま、陽気な子だから向こうから話してくると思うよ?」 ふむふむ。 「もう1人が研究者のヤツなんだけど..............................アイツは向こうから話しかけてくると思うから、その時に応えてやってくれ。 一応、ヒョロガリでゴーグルを常につけてる、って言っとく。」 そのとき。 突然、爆発音がした。 「うおっと、このタイミングで来るかぁ。 もうすぐそこなのに。」 「怪獣ですか?」 ミクロさんは「多分ね!」と言いながら車を旋回させ、地上に近い位置に向かう。 「ありゃあ何の変哲もない虫型だな。君も対処法くらい知ってるでしょ。」 「ええ。」 たぶん、あれだ。 思い当たるやつがいくつかある。 ミクロさんが足元をガサゴソ漁り、ふたつの機械を取り出して俺に見せてきた。 「さあて新人くん、初仕事だ。 ....................銃と剣ならどっちが好み?」 俺は質問の意図を理解し、勢いよくドアを開け放つ。 下の方を見ると、炎上する車の上に跨り、シャアー!と周りの人間たちに威嚇している巨大な蜘蛛の姿が見える。 俺は身を乗り出して左手を後ろの方に伸ばし、一言答えた。 「剣!」 返答と同時に俺に向かって投げられてきた柄を受け取り、そのまま飛び降りる。 そして飛び降りながら柄にあるボタンを押して剣を起動。 蜘蛛みたいな形をしているけど、脚は4本。 頭部の手前で爪が2本生えているのでこれで6本足。昆虫だ。 はは、馬鹿め。 そんな上からの攻撃に無警戒な体勢をとっちゃダメだろ....................?? 着地の直前に上手いこと剣を振りかぶり、足を1本切り落とす。 初めて怪獣の足を切るけど意外と柔らかくて、すんなりと足を切り落とすことができた。 凄い形相..............................まあ表情が見えてる訳では無いけど、とにかく怒りまくった蜘蛛が爪で俺を攻..............................。 「いやバレてるから、それ。」 爪で攻撃すると見せかけて、腹部のトゲで俺を刺そうとしてるのがバレバレだ。 トゲの中身は毒かな?まあなんでもいい。 俺は爪のフェイントを無視して横に体を持っていってトゲ攻撃を避け....................。 腹部から身体の本体に向けて串刺しにするように剣を突き刺す。 虫ってこんなに大きい声出たんだ、と感心しながらこの巨体の蜘蛛の断末魔を聞き終わる。 身体が粒子のように消え去る蜘蛛を前にしていると、ミクロさんに肩を叩かれる。 「さて、うちの事務所にようこそ」 ミクロさんが親指で指す先には小汚い雑居ビル。 距離にして100メートルないから、本当に近かったんだ。 そして【スターダスト事務所】の比較的新しく見える。ビルの外見にそぐわずあんまり汚れても錆びてもない。 あの場所で、俺の新生活が幕を開ける。

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