鯣烏賊 / 第39話

いざ、試験っ! その4

ディラン君に先程の説明を受けた後、親切なことに寮の案内をしてもらうことができた。 まず、1階が食堂。 受験者が好きなタイミングで食事をとるために、なんと試験期間中は毎日24時間営業。 受験票を注文のためのデバイスに読み取らせることで受付がされ、メニューを指定すると対応したものをロボットが勝手に作ってくれる。 流石に無制限にバクバク食べ続けられるとマズイということで、注文数は1日3回までと制限(飲み物は制限なし)されているらしい。 ちなみに、料理の味は....................。 ディランくんが引きつった笑顔で「好みが分かれる味だな!」と言っていたことから察することとしよう。 次に、2階と3階が全て訓練室。 20メートル四方くらいの大きな部屋がいくつもあり、試しにそのうちの一つの扉を開けるとチェア型のVR機器が4つ並んでいた。 試験説明でも言われた通り、今回の実技試験は4人1グループで行う。 部屋に置かれているこの4つのVRチェアは1つのサーバを共有しているらしく、ここで実技試験に向けた練習をするそうだ。 使用できるのは朝の10時から夜の10時。 受付に使用許可を求めることで鍵が渡され、それを指定時刻までに返却すればよい。 ちなみにこれ以降の各フロアには、受験者が自由に飲めるドリンクサーバーがあるので、飲み物を注文するために食堂へ赴く必要はない。 いよいよ食堂の価値が薄れてきた。 ちなみに、このドリンクサーバーはあくまで勉強の補助のためという役割なのか、炭酸飲料やジュースなどの娯楽的な飲み物は置かれていなかった。 だから、そういうものが飲みたければ食堂へ行け、という事なのかな。 なになにディラン君、え、ドリンクも味が微妙なの....................あ、そう。 そして4階は、たった一部屋の資料館。 試験の運営側が厳選して資料を準備した、「試験勉強のための図書館」だ。 一般的な小説やエッセイ、コミックの類は1冊も準備されておらず、ずらりと置かれている冊子たちの背表紙を軽く眺めてみれば「怪獣」「法律」「武器」「理論」「討伐」などなどイカつい言葉ばかり並んでいる。 てっきりデジタルで処理しているものかと思ったが、アナログな紙の本しかなかった。 どれもこれも分厚くて大きく、どの本も長くて内容が難しそうだ。 この情報量の中から、適切な情報を抽出する能力も問われている、ということなのだろうか。 そして、5階と6階が俺たちの泊まる寮。 各階につき2人組の部屋が40部屋あり、それが2回分で80部屋。そして、向かい側のもうひとつの寮も含めると160部屋。 単純計算につき、約320人の受験生がこの会場にいることになる。 そう考えると、だいぶ規模の大きな試験である。 ちなみに、5階と6階にもドリンクサーバーがあるし、1日1回、部屋には紅茶とコーヒーのティーバッグが置かれることになっている。 本格的に食堂の存在意義が危ぶまれて....................いや、どうせご飯はあそこで食べないとね。 さて、この試験は俺が飛び入りで参加した本日から開始される。 普通は皆、前日に入場するみたいだけど。 一応、もう一度試験内容の確認をしておこう。 日程はミクロさんが言っていた通りに、21日の3週間で間違いない。 14日目の午前中から午後にかけて筆記試験があり、21日目に実技試験が行われる。 筆記試験は今では珍しき古典的な紙に書き込む座学試験(どうやらこの方式が不正行為防止として優れているらしい)。 実技試験は運営側から指定された4人で行うチームでの実技試験。 以上のことを踏まえて、だ。 さて、本来ならば筆記試験の座学なんてみんな頭に入っているから、直前の夜に少し復習を挟む程度で本格的な勉強はあまりここでは行わず、他はチームでの実技試験の練習に時間を割くそうだ。 当然だよね。 初対面のメンバー4人が集まるなら、実戦に近い練習をするよね。 例外を除いて。 「何だと...........?」 「本当にごめん。」 「先程の「勉強しないと」はそういう意味の話だったのか.........................。」 俺だ。 まあ、俺以外の例外が存在するのか、と問われたら微妙な答えを返すしかないけど....................。 さっきのディラン君の説明で「座学の知識を問う筆記試験」の存在を聞いたときに、俺の中でものすごく嫌な予感がしたのだ。 そしてディラン君に質問して、ディラン君にある程度その知識とやらのことを教えてもらったのだけれど.....................。 やはりというか案の定というか当然と言うべきか何というか...........................ディラン君の言っていることが、欠片も理解できなかった。 その文章を理解するために必要な固有名詞があまりにも多すぎる。 今更だが、何でミクロさんは出発する時に筆記試験があることを言ってくれなかったんだろう。 言ってくれたなら.................勉強はできなかったと思うけど、きっとそれでも心の準備くらいは出来たのに。 「とはいえ、あいつらもそろそろここに来るから、会わせないといけないしな。」 「あいつら?」 「先程の説明であっただろ? この試験は4人1組だ。その中の、俺たち以外の2人だ。」 「ああ、そうだったね。」 さっきの説明で言っていた。 この試験の実技試験は4人1組。 同室の2人と、別の同室の2人がランダムに組まれて4人組。 俺たちの場合は、俺とディラン君と、あと2人。 その人たちとも顔合わせをしないといけないのか。 俺たちがいるのは資料室の長机。 ここを集合場所にしているのだろう。 俺たちはその2人を待っているということになる。 「そうだな。ではベロキ、アイツらに会う前にも少しは勉強を始めてもらわないとな。 ........................一応聞くが、参考書は持っているのか?」 「"サンコーショ"は持ってないよ。」 「よし。"参考書"の発音からして参考書の存在すら認識していなさそうだな」 「うん。知らない。」 ディラン君は深ーい溜息をついた。 サンコーショ?とやらは知らないけど、多分試験のために必要なものなんだろう。 じゃあなんでミクロさんは渡してくれなかったんだ、という話になるのだけど、これ以上前のことを振り返っても仕方ない。 ん、ディラン君が何かを本棚から取り出して....................それを持って近づいてきて.........................。 「読め。」 「え?」 「いいから読め。」 表紙には無機質な字で 討伐許可試験受験者の為の"討伐理論基礎"と"討伐理論" と書かれている。 これが恐らく、サンコーショかな。 ええと、サンコーショ?を開いて ここか。 ああ、ここは目次になってるのか。 え?なになに、ディラン君。 一旦読んでみろって? わかったよ。一旦読んでみよう。 ===== 【討伐許可試験受験者の為の"討伐理論基礎"と"討伐理論"】 目次と前書き p1〜4 第1章:討伐者の心構えと、関連する法律 p5〜55 ・討伐者と成る為の心構え ・怪獣討伐に関連する国際法律 ・怪獣討伐に関連する国家ごとの法律 第2章:一般の武装と役割、それぞれに求められる立ち回り p56〜223 ・通常武装 ・補助武装 ・固有武装 ・求められる役割と立ち回り コラム:過去の異物 第3章:怪獣 p224〜403 ・怪獣分類と大まかな情報 ・出現数の多い怪獣と危険度の高い怪獣、その対策法について ・再出現の予想される被害の大きい怪獣 コラム:ヒトガタ 第4章:歴史 p404〜454 ・これまでに起きた被害の大きな怪獣災害 ・怪獣討伐を巡った国際論争 ・公営と私営 後書き p455〜456 索引 p457〜465 ===== 「おい、ベロキ。」 「なに?」 「一旦読むのをやめてくれ。来たぞ。」 俺たちがいる資料館。 その入口に、2人の人影を見かけた。 1人は、まだ顔に幼さが残る印象を受ける男の子。 もう1人は、スラッと大人びた印象を受ける女の人。 「あれがお前の俺以外のチームメイト、ユリとパキケだ。」

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