鯣烏賊 / 第38話

いざ、試験っ! その3

ええーと....................。 つまり、俺を試験に推薦するサインをしてくれたレスパさんという人は、公営怪獣討伐隊の長官....................? つまりめっちゃ偉い人、ということ。 公営の討伐隊って確か、国連が組織している税金で運営されているやつだよね。 いわゆる、W.M.S.Fってやつだ。 それで、俺は地域のおじさんやおばさんに認知されている程度の事務所の下っ端戦闘員。 つまり、レスパさんは、しがない私営怪獣討伐事務所の俺なんかとは比較にならないほどに立場が高い人、ということで....................。 いや、俺がそんなスゴい人のことを知っているわけないよね。 そもそも俺は世間と隔絶されながら罰されるべき仕事をして生きてきて、そのまま刑務所に放り込まれてその中で半年を過ごして、その後に決して都会とは言えない場所にあるスターダスト事務所という場所に転がり込んで....................今に至る。 一般常識は人間として知っているつもりだけれど、俺の周りにいる人たちには積極的にニュースの類を見る習慣がないので、これまでの生活の中で俺に世間の情報が回ってくることはなかった。 信じられないが、本当に何も知らない。 最近人気の映画とか、音楽とか、最近のビッグニュースとか、起こった事件でさえも。 俺がネット上などでニュースを見る習慣がないのが悪いのだが、そのせいで本当に何も知らない。 そもそもの話、俺は刑務所の外に出てからあまり人と関わっていない。 食料や日用品の買い物はほとんどリンさんたちが済ませてくれるから、店員さんとも話さない。 毎日のように行っている近くの銭湯では券売機から券を買ったら、スキャンするだけで人と会話せずに中に入れる。 依頼人の応対や後始末はミクロさんがほとんどやってくれる。 この間の遠征から帰る時の手続きや挨拶のことはアロくんが全部やってくれたし....................(これは大変そうだったから俺も手伝おうとしたが、アロくんに突っぱねられてしまった。)。 こんなにも人間と関わらずに生活してきた俺が、W.M.S.Fの....................しかもそんな巨大組織の長官との面識なんてあるわけがない。 W.M.S.Fの中で面識がある人なんて、たった1回ご飯を食べて一緒に戦ったコスモスさんくらいだ。 「はぁ....................お前は本当に何も知らないんだな。」 「じゃあいちから説明してやる」と、ディラン君は話しはじめた。 「まず、この試験は今からの受験本番よりも、受験資格が与えられるまでの過程の方がよっぽど大変なんだ。 いや、もちろん受験本番だって気は抜けないぞ。 ....................とにかく、この試験を受けるのには"監督者"と"推薦者"の2人の直筆サインで承認される「推薦状」が要る。」 「スイセンジョー?」 「スイセンジョーではなく、推薦状だ。 お前の名前と、推薦者の名前と、現在の監督者の名前が書かれた証明書だ。 受付で紙かデータかのどちらかを見せただろう? その受験票にも同じ人からのサインが記されているぞ。」 ここで俺は、受付で見せたあの画面を思い出してみる。 俺も詳しく見てないけれど、 ・俺の名前 ・ミクロさんの名前 ・レスパさんの名前 が大きな文字で記されていたことを覚えている。 他に書いてあったことといえば、小難しい内容の文章たちだ。 ディラン君の話を聞く限り、あれがその「推薦状」なんだろう。 ....................ミクロさん、もうちょっと説明してくれてもよかったのでは。 「どうやら心当たりがあるようだな。 ともかく、その推薦状は単なる「私はこの人を推薦します」と意思表示をするだけのものではない。 特殊な受験をするための....................いわゆる「暗号」としての役割も兼ねているんだ。 「暗号?」 「その推薦状と一緒に受験者自身が自分の名前、推薦者の名前を受付に伝えることで、受付の方で確認がなされる。 そして確認がとれると、「マイナス表記」の受験番号が与えられ、特殊な試験を受けることができる。 これを"特別推薦試験"と言うんだ。 俺の場合は-00001番だな。」 「俺は-00004番って言われたよ。」 .................................ミクロさんってそんなにすごい実績があるのかな。 いや、別にミクロさんのことを馬鹿にしている訳でないんだ。 単純に俺がミクロさんのことをあまりにも知らないだけだろう。 あの人ってよく分からない人だし、あの人も何か話してくる訳でもないし。 「まあ、特別推薦試験についての説明はこんなところだな。」 「うん。ありがとう」 「ちなみに、日程や試験内容は把握できているのか?」 「...........................えっと、試験時間が長いことだけは知っているよ。」 「なるほど、わかっていないことがわかったから説明しよう。 仮にもチームメイトだからな。」 「チームメイト?」 「わかった。そのことも後で説明しよう。 まず日程のことだが、今日から3週間、俺たちはこの敷地内に缶詰だ。」 「うん。それは聞いてるよ」 「さて、この後のことだが、 まず2週間後の昼11時から15時の間で筆記試験が執り行われる。 そしてその1週間後、今から3週間後のこの日に、丸一日をかけて実技試験が行われる。 ここまではいいな?」 3週間の間をこの敷地で過ごすけれど、一発目の試験は2週間後。 日に直すと14日間、時間にして実に336時間。 流石に336時間フルで使うようなことは無いとして、ここまでの時間を用意されている、ということは......................。 「ちゃんと準備しとけよ、と言うことなのかな?」 「そうだな。その間でふたつの試験の準備をしておけ、ということだ。 ....................まあしかし、筆記試験は皆、ここに来る前に対策を済ませる。 この3週間の時間を使って、即席のチームを作らせるのが狙いと言えるな。」 「なるほど。」 ....................おっと、雲行きが悪しくなってきたぞ。 「では、試験内容の説明に入る。 筆記試験だが、これは公営の討伐隊が制定している「討伐理論基礎」と「討伐理論」が試験範囲として出題される。 試験時間は4時間で、一問一答、思考力問題、論述問題などが出題される。」 「じゃあ、これからの2週間でしっかり勉強しないといけないんだね。」 「いや、2週間で勉強するのは、普通には学べない特別な知識たちだ。 ここの図書館には一般にはなかなか出回らない珍しい蔵書もあったりするから、それを調べる時間を含めての2週間だ。 過去問から分析するに、ここでしか知りえない知識が、得点の約3割分ほど出題されている傾向にある。」 「なるほど。」 ちょっと待て..........? 俺はその特別な知識たちはともかく、普通の勉強すらしたことがないぞ....................。 これはマズイかもしれない。 「それで、実技試験だが、これはランダムで2部屋がチームとして組まれる。 それでその2部屋...............計4人1組で試験を行う訳だが、 俺たち推薦受験者は推薦受験者4人でチームだから、このことは忘れていい。」 「へえー。」 「肝心の内容だが、これもまた千差万別だ。 俺が聞いたことのある中だと、 1.与えられた初見マップの調査 2.勝利の厳しい相手からの撤退 3.人命救助 4.試験官のサポート 5.怪獣の討伐 この辺りだな。 まあ、この試験内容は始まるときにアナウンスされるらしいから、それを聞けばいいだろうな。」 「ちなみに、この中で1番難しいのは?」 「難易度か.................................一概に言えるものでもないが、人命救助か討伐のどちらかだろうな。 俺たちは推薦された実力のある者であると見なされているから、十中八九、この当たりが試験の内容になるだろうな。」 「ふーん....................。」 正直な話をすると、最後の方の話はほとんど頭の中に入ってこなかった。 俺の前には、今までに学んだことのない新たな学問が立ちはだかっている。 本当は今すぐにでも言わなければならなかったのだけれど。 「頑張ろうな。 改めて、俺はディランだ。よろしく。」 「あ、あはは..........よろしくね。」 曇りなき眼で俺に「よろしく」と言ってくるあまりにもいい人なディラン君に対して、中々そのことを言い出せない俺であった。

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