鯣烏賊 / 第96話

スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その5

ステゴさんを認めさせる。 言い方とあの態度や行動からして、俺はステゴさんと戦わなければならないだろう。 しかしながら....................。 ここは正直に言わせてもらう。 はっきり言って、勝てる気がしない。 まず、初見で攻撃方法を見破ることができなかったのはすごく痛い。 あのときは呼妖《コヨウ》の維持のためにそちらへ労力をそそいでいたので気づかなかったわけだが....................。 それでも、気がついたときには組み伏せられていたのだ。 まずは、あれを避けなければならない。 それで、その次は? ジャブ感覚で放たれていたあれ以上の攻撃へ対処しなければならない。 何が必要だろうか。 まずは、「呼魔《コマ》」を掻い潜る攻撃を察知できるようにならなければならない。 しかし、やり方がわからない。 そこで今度は、「教えられることは教える」と言ってくれたペラルさんに教えを乞うことにした。 部屋に戻る道中で頼み込んでみると快諾してくれ、今から寝るまでにやれることをやろうと言ってくれた。 場所は、俺に用意された一室。 数分待っていると、自分の荷物から必要なものを取り出してきたペラルさんが、俺のところにやってきた。 「まずベロキくん。義父さんと渡り合うためには、呼魔《コマ》の維持が最低でも30分は必要です。」 おそらくこれは、ステゴさんとの戦闘だけを見据えているわけではない。 対人戦は普通、一瞬で決着がつく。 けれど、怪獣との戦闘はその限りではない。 最低30分というのは、ステゴさんとの戦闘だけでなく、それらも見据えた時間なんだろう。 ちなみに、これまでの俺はどんなに調子が良くても7分くらいだ。 目指すべきゴールは遠い。 「でも、呼魔《コマ》の索敵は掻い潜られてしまいます。」 「そう。それの感知のために庭《テイ》を使う。 庭《テイ》は、呼魔《コマ》を呼妖《コヨウ》を混ぜて使う技術だからね。」 なるほど、段々わかってきたぞ。 ペラルさんやステゴさんが使ってくるあの攻撃を感知するには「庭《テイ》」が必要。 「庭《テイ》」とはおそらく、呼魔《コマ》を呼妖《コヨウ》で広げることで発動できる。 ん、ということは。 「庭《テイ》の逆もあるんですか?」 「正解!蔵《クラ》ね。」 んー、ちょっと待て。複雑になってきた。 複雑になってきたけど、少し考えてみよう。 三心《サンシン》の応用で、「崩《ホウ》」「纏《テン》」「庭《テイ》」「蔵《クラ》」の4つがある。 「崩《ホウ》」「纏《テン》」は、呼妖《コヨウ》を呼妖《コヨウ》で広げたり抑えたりして発動する。 そして、「崩《ホウ》」の殺気による攻撃は、「纏《テン》」でしか防御できない。 そして、「纏《テン》」は、「崩《ホウ》」の防御以外にも、自分の体の周りに集中する行動と解釈することもできる。 つまり、このふたつは実質的に、攻撃と回避の関係にあるということだ。 そして「庭《テイ》」と「蔵《クラ》」は、呼魔《コマ》を呼妖《コヨウ》で広げたり抑えたりして発動する。 そして、「庭《テイ》」は索敵行為。 いやまてよ、さっきの「崩《ホウ》」と「纏《テン》」の関係を考慮してみると。 ....................「庭《テイ》」の索敵は「蔵《クラ》」でしか掻い潜ることができない。 だめだ、さらに複雑になってきた。 おそらく「纏《テン》」をすることで、「呼魔《コマ》」の索敵を掻い潜ることができる。 「纏《テン》」を感知するには「庭《テイ》」が必要。 そしておそらく、「庭《テイ》」は「蔵《クラ》」で掻い潜ることができる。 それでたぶん、「蔵《クラ》」は、「呼魔《コマ》」で見つけられる。 これって....................。 「じゃんけん?」 「あら、気づいたね。」 そう。じゃんけんみたいなんだ。 いや、厳密に言うと、「掻い潜る」側の人が先出しで、「捜す」側の人が後出しのじゃんけんだ。 捜すならば、掻い潜る手段の特定をしないといけない。 でも..........。 「とても怪獣討伐に役立つとは思えないのですが。」 これは対人戦の知識だ。 それも、すごく高度な。 「そうだね。けど、部分的に役立つよ。 崩《ホウ》や纏《テン》は、キミだって学びたいだろ? 折角なら、全部覚えてしまおうよって話!」 うーん、すごく上手く丸め込まれてしまったように思えるけど。 まあいい。 覚えておいて損はないだろう。 俺は自分の頬をぺちぺちと叩いて、ペラルさんに向き直った。 「よろしくお願いします!」 まずは、呼魔《コマ》の維持の特訓からだ。 俺はペラルさんの指示通り、部屋の真ん中に立った。 そこで、呼魔《コマ》を発動した。 --- 「ぷはっ!!」 「そこまで!」 俺は周りのことを何も気にせず、ただ呼魔《コマ》を維持することだけに集中した。 例えるならば、水に潜るときがわかりやすいだろう。 ただ息を吸って潜り続けるのと、クロールやらバタフライやらを泳いでいるときでは、息の持つ時間に差異がある。 呼魔《コマ》も同じで、感知しようとする殺気が増えれば増えるほど使用者への負担も増し、使える時間も短くなる。 今はとにかく目を閉じ、何も気にしないように努力しながら、最大限の時間、呼魔《コマ》を継続させてみた。 「まあまあ、訓練したことがないにしては上出来じゃない?」 「そう、ですか?」 ペラルさんの持つストップウォッチには、「6分5秒」と表記されていた。 なるほど、今日の調子は普通くらい。 いつも通りらしい。 それにしても、だいぶキツかった。 後半の、とくに解除する直前なんかは、頭がズキズキいってしまうから、本能的に倒れ込んでしまいそうだった。 「キツイ?」 「キツイです。」 「おっけー。じゃ、呼天《コテン》だね。」 俺はその指示を受け取ると、俺はゆっくり息を吸いこんだ。 「呼天《コテン》」。 三心《サンシン》の中で、使うために必要な時間が最も長い。 長く深呼吸をすることで、体の不調を取り除く呼吸法だ。 取れる体の不調はそう多くない。 根本的な疲労を解決できるわけでも、怪我が治るわけでもない。 頭痛、腹痛、腰痛、肩こり、二日酔い、乗り物酔い、吐き気、めまい。 このあたりの不調を、ごっそり回復できる。 決定打にはならないけれど、すごく便利だから、是非ともアロ君には覚えて欲しいところだ。 けれど、これの効果を最大限発揮するためには、だいたい5分間くらいの深呼吸を繰り返さなければならない。 しかも、プラシーボ効果的な側面も大きい自己催眠術なので、そもそも自己催眠の心得がなければ確実に失敗する。 しかも、時間短縮はできない。 総合的に考えて戦闘中には絶対に使えない残念な呼吸法である。 でも、こういう戦闘中以外ですぐに体を回復させたいときなどには、すごく便利な技術と化す。 「呼魔《コマ》」を使い続ける訓練なんて考えたこともなかったけど、相性は最高だ。 「終わった?」 「はい。」 「じゃあ、もう1回!」 --- 時刻は深夜の0時。 時計の針がてっぺんを周ったときに、訓練は終了された。 訓練自体は、驚くほど順調に進んだ。 夕食を1時間くらい食べていた時以外は、ずーっとペラルさんにつきっきりで「呼魔《コマ》」の訓練に費やした。 最初は6分から7分の前後をうろうろしていた記録だが、8分、9分と順調に伸びてゆき、だいたい3時間くらい繰り返したところで10分の記録をたたき出した。 そして、寝る直前の現在では最長15、無理しない範囲では14分まで伸ばせるようになった。 本当に、「呼魔《コマ》」を限界ギリギリまで使ったあとに5分間の「呼天《コテン》」を行う、という単純作業。 こんなに簡単なことだったなら、昔からやっておけばよかったと後悔した。 しかしペラルさんいわく、普通は呼魔《コマ》の時間を伸ばすなんて考えないとのことだ。 それを、あまりにも普通のことのように言ってくるので、怪しんで質問してみると、ペラルさんはあっさり口を割った。 もともとこのオトズナ家にいたメイドが、ルキ家出身の、三心《サンシン》の達人だったそうだ。 その人の主導で、家族ぐるみの三心《サンシン》研究が始まったそうだ。 俺はてっきり、ペラルさんがルキ家出身であると考えていたのだが、そこに関してはノーコメントだった。 口から出てくる全ての言葉が出まかせに聞こえてしまうような人物なので、嘘をつかれている可能性もあるけど....................。 いや、まあ実際のところ、嘘はついていると思う。 俺への信用がないのだろうか。 部屋を出ていく直前、ペラルさんにこう言われた。 「早ければ明日、30分を突破できると思うよ。 その後は私と組手ね。呼魔《コマ》を使いながら。」 そして、じっくり眠るように言われた。 それは心得ているつもりだ。 呼天《コテン》は実際に疲れが取れているわけではない。 こんなムチャを続けていれば、いくら俺でもガタが来てしまうだろう。 「明日もよろしくお願いします。」 ペラルさんは俺の部屋を去っていった。 1人になったことでやれることもあるかもしれないが、俺は寝なければならない。 けど、少しでも今日の感覚を明日に残しておけるように、書きとめておくことにした。 スマートフォンのメモ帳に書いてもいいのだけれど、文字にして紙に書くことで得られることだってあるだろう。 丁度よく用意されていたエンピツと紙を手に取り、小さな机に向かって書き始める。 そうだな、最初は..........。 「熱心なヤツだなぁ。」 「はい、少しでも書きとめておこうと。 ....................ほへっ?!」 俺の背後には、俺の手元を覗き込んでいるステゴさんがいた。 「まぁ、そう警戒すんじゃねえよ。」 ブワッと、「崩《ホウ》」が来た。 それを感じた俺は、相対するように立ち上がり、「纏《テン》」を使う。 それに押し潰される前に、自分のものでそれから身を守る。 「ほォ、上手いな。練習したのか?」 「いいえ、さっきぶりです。」 「なら尚更だなぁ。 へっへっへっ、てめぇは鍛えがいがありそうだ。」 しわがれた声でそういうステゴさんは、俺の横を通り過ぎた。 そして、さっき現れたときは聞こえなかったフスマを開ける音ともに、部屋から出てゆく。 「明後日、待ってるぜ。」

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳