鯣烏賊 / 第97話

スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その6

翌日は、全てを呼魔《コマ》の時間延長訓練に費やした。 朝ごはんを食べて呼魔《コマ》、水を飲んで呼魔《コマ》、トイレに行って呼魔《コマ》。 一に呼魔《コマ》、二に呼魔《コマ》、三に呼魔《コマ》。 朝日がのぼって、頂点に達して、日が暮れて。 それで昨日と同じ0時になるころには、最長時間は45分にも達した。 当初の目的の30分の、なんと1.5倍である。 俺としてはかなり大きな進歩だと思っているが、ある程度のセンスを持っていれば誰でもこうなるとのことだ。 ちょっと悔しい。 折角なら、1時間くらいまで伸ばしたいものだ。 ちなみに、去り際にはこう言われた。 「最長時間が長ければ長いことに超したことはないから、できる時は継続的にトレーニングしてみてね。」 とのことだ。 自分にすごい才能がとは思わないけれど、それでも怠るなということだろう。 肝に銘じておく。 そして、今日。 ステゴさんに明後日と言われての今日である。 つまり今日なのだ。 皆まで言うな。 その事は昨日、ペラルさんに伝えておいた。 そして、今日一日を使って、死ぬ気で「庭《テイ》」と「蔵《クラ》」の習得をすることになった。 「崩《ホウ》」と「纏《テン》」は、練習せずともできるだろうとのことだ。 つまり、残りふたつさえ学んでしまえば、あとは切り替えを練習するだけだ。 ....................果たして本当に間に合うのだろうか? この後に備えられている、ステゴさんとの戦闘までに。 ----- 俺は、不思議な部屋に連れられた。 すごく広い部屋である。 壁には木製の剣が何本も置かれている。 大きな大剣のサイズから、ナイフやダガーのような小ぶりのものまで。 形や素材がまるきり違うが、これらが刃武装たちをモチーフに作られていることに気づくのにそこまでの時間は必要なかった。 その木刀を持ってみると、思ったよりもすごく重いつくりになっていた。 中に鉄芯でも入れられているのだろう。 振り回した感じも、木の棒というよりも、実際の刃武装の重量に近い。 重心バランスも下の方に調整されており、よく考えていると思う。 部屋の広さは、だいたい30メートル四方。 天井までは10メートルくらいある。 パッと見で、すごく頑丈な作りをしているのがわかる。 壊すのには一苦労だろう。 ....................いいや、壊さないよ? 窓もほとんどなく、天井の換気扇を使って換気をしているらしい。 とことん、乱闘に耐えるための作りにされている。 そんな広い空間に、俺とペラルさんが、たった2人だった。 「今から、「庭《テイ》」の練習をします。 一旦の目標範囲は、この部屋の半分です。」 ペラルさんは、庭《テイ》の軽い説明をしてくれた。 俺の予想通り、これを使うことで纏《テン》を感知することができること。 纏《テン》の看破以外にも、効果範囲内にいる生物の位置や大きさを詳細に把握することができること。 本質さえわかってしまえば習得は簡単で、最初のトライでもかなりの範囲を庭《テイ》で巻き込むことができるであろうこと。 すごく便利だ。 特に、効果範囲内にいる生物の大きさや位置を把握できるというのは魅力的だ。 何にも代えがたい便利さを感じる。 ぜひとも習得したい。 「15メートルくらい出来ればいい、ということですか?」 「それは最低条件で、一旦は高さも6、7メートルくらいほしいかな? 本当はこの屋敷を包み込むくらいになって欲しいんだけどね。」 ここ2日間、ペラルさんにあれこれ教えてもらってわかったことがある。 彼女はいい師匠だ。 決して全てがわかりやすいわけでもないし、親身に接してくれるわけでもない。 まあ、態度と言動だけはまるで俺のことをよく考えているように振る舞っているけれど....................。 すごくうさんくさいという印象は変わらないが、それでも余りある利点を持った師なんだ。 とにかく、彼女は強い。 武装ありの戦闘ならばまた別の結果が導かれるかもしれないけれど(そもそも、俺は彼女の戦法を知らないが)、正面から殴り合えばまず負ける。 仮に、今ここにある木刀で10戦したとしたら、8回は俺が負けるだろう。 強いというのは大事なことだ。 時折見せてくれる手本が、これ以上ないくらい参考になる。 手探りでやっていたものの前に、完成品が提示されるのだ。 技を盗んでいるような気分になってやや申し訳ないが、それはそれ、これはこれだ。 せっかく教えてくれると言ってもらっているのだから、存分に吸収させてもらおう。 「ベロキくん、庭《テイ》の原理はわかる?」 「呼妖《コヨウ》の集中を呼魔《コマ》に向けて、その範囲を広げる....................ですか?」 おそらく、「庭《テイ》」は索敵技術で、「蔵《クラ》」は隠密の技術だ。 やり方は「崩《ホウ》」と「纏《テン》」に近いだろう。 「できそう?キミならきっと出来ると思う。」 「やってみます。」 俺は呼魔《コマ》を発動させた。 45分も維持できるようになるまで、この動作は何度も何度も繰り返した。 もうそれこそ、普通の呼吸を使うこととさほど大差はない。 発動自体は、簡単にできた。 俺の視界には、俺とペラルさんの殺気が映っている。 ペラルさんのものは、ピクリとも動かずにその場に留まっているが、俺のものはユラユラと動いている。 俺はまず、呼魔《コマ》を維持した状態のまま、呼妖《コヨウ》の応用である纏《テン》をしてみた。 すると、俺の周りに漂っていた殺気がピタリとおさまり、俺の体のラインに張り付く。 よし、呼魔《コマ》と呼妖《コヨウ》の並行使用はできている。 このまま、これを広げる....................。 すると、俺の足元に小さな円が作られた。 いや、この円が現実に存在しているわけがない。 呼魔《コマ》で見ているだけだ。 「合ってるよ。それを広げてみて!」 一旦、円の拡張だけに意識を向けてみる。 他のことは考えずに、呼妖《コヨウ》による集中を呼魔《コマ》の拡大に向ける。 そう、そうやってぐんぐん伸ばしてゆくんだ。 きっとできる。 崩《ホウ》が出来たんだから、庭《テイ》が出来ないわけが....................。 「..........あれ?」 目を開けてみても、円の範囲がそこまで広がっていない。 せいぜい、半径2メートルくらい。 ただ伸ばしてゆくだけじゃないか。 もっと大きく、大きく....................。 「....................えーと、えーと。」 あれ?広がってくれないな。 崩《ホウ》はすぐにできたっていうのに。 むしろ、崩《ホウ》ならできるっていうのに。 やり直してみよう。 広げ切った円を全部戻し、自分の周りに収束させる。 これはきっと「蔵《クラ》」だ。 ここから、もっと広く。 そうだな、軽く3メートルくらい....................! 「そこまで!」 結果は、さっきの2メートルが限界だった。 待てど暮らせど、考えうる限りの工夫をしてみても、広がってくれる気配がしない。 庭《テイ》は、纏《テン》の感知以外にもたくさんの使い方がある技術だ。 きっと、俺の仕事でも役に立つはずなのだ。 なのに、なんで....................。 「真似してやってみて。」 いつになく真剣な表情で、ペラルさんが俺の目の前に立った。 呼魔《コマ》の時間拡張のときは、驚くほど順調に事が進んだ。 崩《ホウ》と纏《テン》だって、ステゴさんとの面会のときにその場でできてしまった。 今も、蔵《クラ》はできていたのだ。 ペラルさんだって、そこの指摘はしてこない。 しかし、どうにも庭《テイ》だけが出来ない。 俺は呼魔《コマ》の継続させつつ、ペラルさんの庭《テイ》を見させてもらう。 綺麗な円が、惚れ惚れするように広がってゆき、数秒でこの部屋全体をすっぽり覆うくらいになった。 「私は目を閉じてるから、ベロキくんは適当な場所に移動して。」 その指示を受けて、俺は明後日の方向に移動する。 さっきの場所から2メートル程度右へ、そのまま背後へ5メートル程度後ろへ移動した。 「さっきの所から2メートル右、5メートル後ろの場所。」 当たり前のように、完璧に言い当てられた。 これがさっき言っていた、"効果範囲内の生物の大きさと位置を詳細に把握できる"ということなのだろう。 これができたとしたら、すごく便利だろう。 そう。 できたとするならば。 結果、ここから夕方まで、俺の「庭《テイ》」がこれ以上広くなることはなかった。 ----- 「そりゃ、才能が無いんだな。」 午後4時くらいにやってきたステゴさんに、あっさりとこう言われた。 どうやら俺と戦いに来たらしく、すごく気合いの入った表情だった。 しかし、どうにも「庭《テイ》」を広げられずに悩んでいる俺と、どうにも言葉をかけられていないペラルさんを見て何かを察したらしかった。 真面目な表情はそのままに、顔から殺気が消えたような気がした。 「庭《テイ》の才能を持たねえ奴なんぞ見たこたぁねえがよ。ソイツを無理して伸ばす必要はねえわけだ。」 ステゴさんは俺の手を握り、外へ向けて歩き出す。 「来な。」 何をされるのかもわからないし、これで解決の兆しが見えるのかすらもわからない。 けれど俺は、強烈な安心感を抱いてその小さな背中について行くことにした。

運営おすすめ

週間ランキング

全ランキング

反応スコアランキング

もっと見る

PV・ブックマークランキング

もっと見る

更新された連載作品

すべて見る
読み込み中…

新着短編

すべて見る
読み込み中…

作品一覧

読み込み中…

作品ダッシュボード

作品全体の公開状況と、読者からの反応をひと目で確認できます。

作品パフォーマンス

選択期間のPVが多い順

上位5作品
ライブラリ

作品の公開状況と構成

最近の更新

最後に編集した作品

要チェック

公開前に確認したい項目

プレビュー
読者に表示される見た目

表示設定

文字サイズ
100%
背景色
縦書き表示
リッチモード
目次
読み込み中…

キーワードを入力して作品を探しましょう

アクセス解析
アクセス解析データは 5分おき に自動更新されます
読み込み中…
ランクイン記録
通知
通知はありません
地形ブラシ
25
スタンプ
ツール
装飾
表示
100%

世界地図

100%

REACTION SCORE

反応スコアの内訳