鯣烏賊 / 第95話

スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その4

【コスモ系統】 「さて、系統の説明をする。 本当ならな。いまから説明するやつをじっくり聞いて、系統の判定をして、そんでそれに合った武装をじっくり選ぶモンなんだ。 遅えかもしれねえがよ、しっかり聞いてくれや。 そんじゃまず、変則以外の他の二系統を手短に言おうか。」 「はい。」 「まずは開放系。 こいつを深く考える必要は無ぇな。リンのやつの戦闘を思い浮かべろ。」 俺はリンさんの戦闘を思い浮かべてみる。 バズーカ片手に、砲撃だけで敵をなぎ倒してゆくさまがありありと目に浮かぶ。 「ああいうのが得意なのが開放系だ。わかりやすいだろ?」 「そうですね。」 リンさんだけではない。 トケラさんもそんな感じだった。 詳しくは見ていないけれど、上空に大量の槍みたいなのを作り出して、それを落とそうとしていた。 まあ、あのふたりは....................とくにトケラさんはニンゲンの限界の天井を叩いていそうだから極端な事例かもしれないけれど。 イメージしやすいのはいい事だろう。 「んで硬化系。話によると、てめぇの身の回りにこいつぁ一人もいねぇな。」 「そうなんですか?」 「まあ簡単に言うとだな。コスモを一点に留めるのが得意だ。 てめぇが見たことあるかは知らねえが、大手私営事務所のシールド隊なんてのは、ほとんどが硬化系だ。」 「へぇ..........。」 「ピンと来てねえな。まぁいい。次行く。」 シールド隊かぁ。 俺の周りに大手の私営事務所はないから、見たことがないな。 後で検索してみるのも良いだろう。 「それじゃ、次は本題だな。 変則系....................こいつぁ細かく説明する。なにせてめぇのこれからに大きく関わっちまう内容だからな。」 「はい。」 俺は再び座り直し、姿勢を正した。 真面目に聞かなければならない。 誰も教えてくれなかったけれど、すごく大切な気がするから。 「..........なんで誰も教えてくれなかったんだろう。」 「あぁ、その話かぁ。試験のときは当然、てめぇがわかってる前提だったろうよ。 けどなぁ。」 しまった、話の腰を折ってしまった。 けれど、俺の心の中からこぼれた独り言を聞きとった彼は、こう答えた。 そして、バツの悪そうな顔で頭の裏をポリポリかく。 やはり、このあたりの動作はミクロさんに似ている。 「ウチのバカ息子はなぁ、"めんどくさかった"って言ってた。」 「え....................。」 「ホント、面目ねぇな。あとで叱っとかねぇとならん。 ....................すまねえが、続けるぜ。」 俺、そんなに軽く見られていたのか。 うーん、そんなに無能な人材なのかな。 すごく有用な人材だという自負はないけれど、ちょっと悲しいな。ちょっと。 話は続けて欲しいので、俺は返事をして続きを促した。 「ンで変則系だ。 こいつぁ、コスモを変える。」 「変える?」 「変えるっつっても、無からカエルとかウメボシを生み出せるわけじゃねえ。 ほんとに、ちょっとしたことだ。わかりやすいのは、話に聞いてるその「速《ラピッド) 》」なんかが得意だぜ。」 それはつまり、速さのことだろうか。 その理論で考えると、「滑《スケート》」や「透《カメレオ》」、ついでに「強《ブースト》」も変則系の得意そうな機能だ。 逆に、「衝《ストライク》」や「排撃《リジェクト》」は開放系が得意。 「守《ガード》」は硬化系だろうか。 この予想を伝えてみると、こんな返答が返ってきた。 「多分だがな、「排撃《リジェクト》」が得意なのは変則系だ。 ムダなモンを変換させてるんだからな。最終的にはすげぇ威力になるらしいが、そこまでの過程は変則系のお得意分野だろうよ。」 なるほど。 けっこう複雑な仕組みになっているのか。 でも、それ以外の指摘が無かったということは、予想的中ということだろう。 まとめると、こういうことだ。 1.人間のコスモの癖は三系統に別れ、それぞれが「開放」「硬化」「変則」となる。 2.開放系はコスモの放出や増強が得意。 3.硬化系はコスモの固定が得意。 4.変則系はコスモの変化が得意。 5.それに合わせた武装選びをしなくてはならない。 6.ミクロさんとかいう人はなんの説明もしてくれなかった。詐欺師。 7.俺の武装選びは合っているのか? 「俺の武装って知ってます?それって俺に合ってそうですか?」 「ああ。見させてもらったぜ。 ..........概ね問題ねぇがよ、"トマホーク"はやめとけ。たぶん限界が来る。」 「なるほど..........。」 トマホークは耐久性に優れた斧だ。 結構便利な武装だけど、たしかに今の説明を聞いていると、これは硬化系の専売特許に思えてくる。 他のものを、探してみるか..........。 「あとは、特異体質だな。」 「特異体質?」 「ペラル。」 老人がペラルさんに話しかける。 その目は、まるで何かの合図を送っているように見えた。 ペラルもそれを見て頷き、そして。 「《なに?》」 と、返答した。 「?!」 びっくりした。 女性にしては低音だったペラルさんの声が、一気に数オクターヴも高くなったのだ。 たった一呼吸おいただけなのに。 「《俺に何か?》」 次の一声は、まるで男性のように低かった。 さっきのオクターヴ上昇は、特技の範疇で説明がつく。 しかし、これは説明がつかない。 まるで声帯がまるきり入れ替わってしまったみたいだ。 「ま、こんなもんかな?ベロキくん。」 「なんですか?それ。」 「ふっふー、私の特異体質なのです!」 俺は助けを求めて、老人に視線を向けた。 彼は待ってましたと言わんばかりに説明を開始した。 「コスモ系統にも具合ってもんがある。 三角形みたいなモンだ。たとえば「変則」と「硬化」辺の中間なら両側がちょぴっとずつ得意だし、「変則」の頂点だったら変則だけが得意だ。 そんでその得意が大得意で、超得意で、行き過ぎると....................。 こうなっちまう。」 「それはつまり..........。」 「お察しの通り、ペラルは変則系に天賦の才を持ってる。 コイツの特異体質は、発した声を自由に変化させる能力だ。ま、詳細は本人から直接聞いてくれ。」 「わかりました。」 ----- 【三心《サンシン》について】 「端的に、てめぇはどこまでわかる?」 「三心《サンシン》は全部できます。 けど、ペラルさんがやってきた呼魔《コマ》の索敵を掻い潜る攻撃や、殺気を増大化させる技術はできません。」 後半は習得したいことだが、前半はショックなことだった。 呼魔《コマ》は時間制限こそあれど、実質的な未来予想ができるやり方だ。 敵がどんな搦め手を使おうとしても、殺気が当てられる場所には攻撃が来る。 しかし、何故あれを掻い潜れたんだ? 「したら、庭《テイ》が出来ないわけか。 よしわかった。オイラがもういっぺん、さっきのをやるそれを動かず耐えてみろ。」 「なぜですか?」 「いまにわかるぜ。」 殺気が、来た。 押し潰されそうだけど、指示通りに必死で我慢してみる。 本能に抗って、ただ、相手を見つめる。 必死に、必死に、必死に....................。 この場に留まることだけに集中して。 「出来てるぜ、呼魔《コマ》で見てみろ。」 「えっ?」 俺の体に、なにかがぴっとりと張り付いているのが見えた。 そう、これはあれだ。 空港のカフェテリアでペラルさんを観察した時に見つけて、疑問に思ったあれだ。 しかしこれは、何なのだ? 「さて、コイツの理解のためにはよ、呼妖《コヨウ》の本質を知ってなきゃならねえ。」 「本質?」 「ああ本質だ。」 彼は、いつの間にやら持ってきていたホワイトボードの方に目を向ける。 すると、ホワイトボードペンが空中に浮き上がり、文字を書き始めた。 「これは..........?」 「わかるぜ、いずれ。」 ペンの動きは止まった。 そこには、さっき説明された三角形が書かれていた。 「これは?」 「復習。」 ..........掴みどころのないひとだ。 「さて。てめぇ、呼妖《コヨウ》の説明をしてみろ。」 「ある一点への集中を、極度に高める呼吸法です。」 「ほぉ..........。」 老人は眉をしかめた。 お気に召さない回答をしたかと不安になったが、直後に言葉を続けた。 「悪くねえ解釈だが、満点じゃねえ。 ここで大事なのは、殺気は集中だってことだ。」 さらに続く。 「相手に集中するから、殺気が生まれる。 たとえば、オイラはそんなに上手くねえが、居合抜刀をするとして、その集中は手と刀に向く。 そして、そこにはどう足掻いても殺気が生まれる。」 「....................。」 「ここで集中イコール殺気と考えてみるとアラ不思議。 呼妖《コヨウ》は、殺気を操る技術ってことになるわけだ。 ここでてめぇに質問だ。 てめぇが聞いてきたふたつのことの原理を説明しろ。」 持ったこともない視点だった。 まるで、今まで使っていた公式の理論を知った時のような。 何気なく使っていた言葉の語源を知ったときみたいな。 もうわかった。説明できる。 これは、「陽炎《カゲロウ》」を使うのに似ているんだ。 あれの集中も、本質的に殺気だと考ええみれば難しいことじゃない。 理屈がわかったのなら真似できそうだ。 「その代わりに、ここでやってみても?」 「構わんぜ。」 俺は目を閉じる。 ただ、集中してみた。 これまでは抑え続けてきた"それ"を、解放することだけに。 持ったことのない視点だから少し戸惑ったけれど、コツはすんなり掴めた。 ドアノブは握ることができた。 これを開ける! 「くっ!」 「ほぉ..........。」 ちょっと変な声が出たけれど、おそらく成功した。 それは彼の様子を見ればわかる。 すごく嬉しそうに、気分良さそうにしているんだから。 「いいな、てめぇ。やっぱり才能あるぜ。」 「さっきのは、これの逆でしょう?」 「へっへっへっ、花丸満点だぜ。」 彼は満足そうにそう笑ってくれた。 すごくいい顔だ。ミクロさんがたまに見せるような。 しつこいかもしれないが、やっぱり2人は親子だ。 「ちなみに、呼魔《コマ》でも同じことができる。 呼魔《コマ》と呼妖《コヨウ》を混ぜて使う。」 「なるほど..........。」 「ちなみに今の殺気を広げるやつは、「崩《ホウ》」、その逆は「纏《テン》」。 混ぜるやつは「庭《テイ》」だ。」 「そういえば、俺が変則系だとわかったのは、なぜですか?」 「ヒトに崩《ホウ》をかけると、そいつは無意識に纏《テン》をする。これは絶対だ。 そのコスモの留まり具合でわかるんだぜ。 コンロの火みたいになってたら開放系。 ソイツの周りに四角く固まれば硬化系。 なんの変化もなければ変則系だぁな。」 ここにきてようやく"テイ"の謎が解けた。 原理が分かってみれば、イメージもつく。 修練を重ねれば、出来そうだ。 「ちなみになのですが。」 「お、貪欲な姿勢は嫌いじゃないぜ?」 「俺の出自は知っていたり?」 「俺と、それとペラルも知ってるぜ。」 「それならば話がはやいです。」 なるほど。 ミクロさんは少なくとも、この2人には根回ししているらしい。 さすがに知らない人の前で犯歴をバラしたいわけじゃないからね。 ここならば遠慮せずに話せる。 「三心《サンシン》のルーツの出身の俺が、崩《ホウ》・纏《テン》・庭《テイ》を知らなかったのはなぜですか?」 「ああ、そのことか。 そりゃあ、そのみっつはオイラたちの研究のたまものだからだ。 いわゆる、独自技術ってやつだぜ。」 「でも、聞いたことありません。」 「だよなぁ。 ....................オイラはことある事に宣伝してるんだがよ、なぜだか有名にならねぇんだ。 危ねぇ過激スピリチュアル集団だと思われてやがる。」 彼はそう肩をすくめた。 そういえば、この老人の名前を聞いていなかった。 俺だけ自己紹介をせずとも名前が知られているのに、俺は相手の名前を知らないなんて少し不公平じゃないか。 「ところで、お名前を教えていただいても?」 「いいぜ、ステゴだ。オトズナ・ステゴ。」 ----- 【俺は何をすればいいのか?】 「ああ、それか。すげえ簡単だぜ。」 「え?」 そうステゴさんが呟いた途端、俺の隣を風が吹いた。 頬をなにかザラザラしたものが掠め、血が垂れ落ちる。 俺が気がついたときには既に、四肢を"砂"の塊によって固定され、動けなくされていた。 何が起こったのかまるきりわからないが、とりあえず、ステゴさんに負けたことはわかった。 「簡単だ」 ステゴさんが、軽い足取りで近づいてくる。 すごくしなやかで、鍛え上げられた動き。 70代の老人には見えなかった。 「オイラを認めさせれば、次の段階へ進めてやる。」 ステゴさんはそれだけ言って、広間から出ていってしまった。 砂の高速から開放され、頬から血を垂らす俺。 そんな俺を見て苦笑するペラルさん。 「私も、キミに教えられることは教えるよ?」 ああ、すごく助かる。 と、言いたいところだけど、あんな化け物に何をしたら勝てるだろうか。 はっきり言って、シロや氷蛇のとき以上に勝てる気がしない。 対策を練るどころで、何とかなるだろうか。 それ以外にも、何かしなくてはならない。 けど一体、何をすればいいというんだ....................? とんでもないことが始まってしまった。

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