鯣烏賊 / 第100話

スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その9

なんと、今話にて、数字上は100話目の更新となりました。 実際のところ(物語的な意味では)まだ100話目ではありませんが、この投稿が100回目の投稿であることは紛れもない事実です。 あとがきを、ぜひご覧下さい。
滞在5日目。 午前11時ジャスト、庭園にて。 俺は、老齢の英雄を前に立ち塞がっていた。 「なかなか早ぇ時間帯じゃねえの。オイラの寝ボケでも狙ってんのか?」 「いいえ、俺、いま..........。」 言おうとして、やっぱり言葉に詰まった。 なぜか、「今なら勝てると思う」なんて言う気になれなかった。 相対して再実感させられたんだ。 勝てる気がしないと。 けど、やっぱりそれは嫌だ。 「すごく仕上がっているんです。」 言いたかったこととはやや違うけれど、まあいいや。 もうここまで来ちゃったしね、後には引けない。 朝ごはんは食べた。 ウォーミングアップもした。 昨日の復習もした。 そして、武装もひとつ、入れ替えた。 いける。やるしかない。 「いいのか?準備はよ。」 なぜ聞くのか。 まあ、雰囲気作りのためなのかな。 わかっているんだろ?あなたなら。 わかっていないわけがない。 ただ、このあとの俺との喧嘩が楽しみなだけなんだろ? 「....................強《ブースト》。」 「オイラに言われるまでもなく済んでるってか。」 ふう。 やることは変わらない。 昨日の一番"惜しかった"パターンを繰り返して、そこにもう一手加える。 失敗したらまあ、そのときはそのとき。 大人しく敗北を受け入れよう。 腕輪を、少し回す。 滑らかに回る腕輪のダイヤルは、俺の手によってある一点で固定される。 「速《ラピッド》」。 それを反映させた瞬間に、俺は目の前へ駆け出した。 ----- ステゴは油断していた。 心の底から慢心していたのである。 彼にとってベロキとの戦闘は、遊戯のひとつであり、数知れない戦闘経験のうちの一欠片にすぎない。 客観的に見てベロキという人間が強い存在であり、全体としての上澄みであるという事実は存在しているが、ステゴにとってはあまり関係なかった。 "自らの喉元に刃は届かない"という事実だけがそこにあったのだ。 そしてそれは、たった数日で克服されるものではない。 ベロキが数ヶ月、数年の修練を積むことで、ようやく自分のいるステージにたどり着く。 どんなに早くても、5年はかかるだろうとタカをくくっていた。 ステゴの誤算はいくつかある。 ひとつめが、ベロキの経験豊富さ。 ベロキは怪獣討伐を始める以前から無数の「実戦」としての対人経験を積んでおり、自らを遥か上回る強さを持つ敵への対処法も確立していた。 ステゴほど実力の離れた人物と戦うのは初めてであったが、ベロキは少しずつ適応して行っていたのだ。 ふたつめが、自身の体の衰え。 ステゴはその強さゆえ、体の衰えなど考えても見なかった。 ベロキの最高速度が見えないのは当然のことであり、それに付随して、彼は自分の「土塊観音《ツチクレカンノン》」の拳を視認できない。 しかし、ここで重要な衰えは視覚ではなかった。 反応速度である。 ステゴはベロキが横を通り過ぎるのを実感した。 実感したのだが、それは次で対応すればいいと合理的な判断を下した。 しかし、ステゴが体にほんのり痛みを感じたときには、すでに彼の肩のあたりから血が吹き出していた。 「なっ....................。」 ベロキが振り向きざまに斬ったのだと自覚するまで、コンマ数秒の時間を要した。 その判断のわずかな時間に、もう一撃を食らった。 大した一撃ではないが、ステゴは自分という存在が知覚することなく攻撃されたということに大きな恥じらいを覚えた。 つまり、大人気なくも、悔しかったのである。 「この餓鬼ィ....................。」 しかし、心は震えていた。 歓喜と感動に満ちて。 絶叫したいほどのポジティヴな感情が、ステゴの心を満たしたのである。 目の前の若者が、ここまで自分を焦らせることに成功したのだと。 それは、ステゴの心に火をつけた。 その火はまたたく間に 燃え広がり、彼の心とやる気を燃やした。 この瞬間、彼はこの状況を心の底から楽しんでいた。 そして、ステゴ最後の誤算。 ベロキという人間は狡猾であった。 最適な行動を取ってなお、まだ何をも怠っていなかった。 ステゴを本気にさせることに成功はしていたのだが、この程度で「土塊観音《ツチクレカンノン》」を使うまでには追い込めないこともわかっていた。 事実、ステゴはこの程度で「土塊観音《ツチクレカンノン》」は開放しない。 今のステゴは師匠だ。 弟子の成長のために必殺の択を出し惜しみにするという理性がある。 ベロキという優秀な弟子を持った気分なのであった。 しかしベロキは理解していた。 目の前の老人は、極めて短絡的で、バカである。 たった一言で、タガなど外すことができる。 教育者のヴェールを引っぺがし、戦闘者としての牙を引き出す。 そうすることで、本来は引き出すことすら骨の折れることだったソレを、無理やり引き出す。 体力も気力も有り余った状態で、ソレの攻略に手をつけられる。 「使わないんですか?土塊観音《ツチクレカンノン》。」 「カカッ..........いい度胸だなぁ。」 ニヤリと笑ったステゴの背後に、何かが現れる。 それは段々と形を帯びて、像となる。 目を閉じ、慈愛に満ち溢れた顔をした、無数の手を持つ観音像。 大きさは、高さ20メートル以上にもおよぶ巨大なソレ。 「土塊観音《ツチクレカンノン》。」 ベロキが次の一歩を踏み出すよりも遥かに速く、放たれた。 土塊の拳が。 ----- 初撃は"見えた"。 ステゴさんはやはり冷静だ。 俺の視界を、やや斜め方向に塞ぐような方向で拳を打ち込んでくる。 そうすれば、俺はどう足掻いても次の拳を見ることができない。 そう。 俺は昨日、そうやって負けた。 土塊観音《ツチクレカンノン》を見たはいいけれど、次の攻撃が見えなかった。 もちろん抵抗はしたさ。 けれど、「強《ブースト》」をかけた「跳《トランポリン》」の防御なんて最初からなかったみたいに、紙皿をナイフでぶち破るみたいにしてぶん殴られた。 加減なんてなかったから、全身打撲だ。 俺の体じゃなければ死んでいてもおかしくない。 しかし、対策は考えてきた。 さらばだトマホーク。 君はどうせこの戦いの後に別のなにかに変えられてしまうから、本当に今生の別れだ。 さようなら。 そして、キミもだ。 たぶん、この戦いが終われば一生使うことはないだろう。 一発屋でいいのだ。 だから、今回だけでも頼むぜ。 ----- ステゴは混乱した。 いつも通りニ撃目を撃ち込んだそこに、標的が存在していなかったのだ。 まず、なぜだという思考が脳内を支配した。 そして、背後に気配を感じたことで、全てを理解した。 早い話が、ステゴはジャンケンに勝利したのだ。 ベロキは「纏《テン》」をしていた。 しかしステゴは「庭《テイ》」をしていた。 背後からの凄まじい殺気に瞬間的に怯えたステゴは全身全霊の力を持って背後に振り向いた。 振り向き始めると同時に、観音が動いた。 なぜだか背後に立っていたベロキに向けて、無数の拳を打ち出した。 ステゴらしからぬ雑な乱打戦であるが、正面から走ってくるベロキを止めるのには最適な方法だった。 (テレポーターか....................。) ステゴは正解を見つけていた。 ベロキが駆け出したその足元には、灰色の皿のような物体が置かれていた。 たった一つしか置かないテレポーターなどステゴは見たことがなかったが、それでもベロキは、この行動を取るために、わざわざ枠を一枠食いつぶしてこの行動を取っているのだ。 「悪くねぇアイディアだ!」 視界封じの手を突破されてなお、二人の力の差は大きかった。 土塊観音《ツチクレカンノン》の乱打は正確無比で、強力な威力で、そして速い。 ベロキは全霊でそれを目前に立ち向かった。 攻撃を避けながら、ジリジリと迫ってゆく。 ステゴはこれではいかんと思い直し、さらに観音の出力を上げた。 ベロキに余裕がなくなるが、未だに立ち向かえる現状には変わりない。 現在の土塊観音《ツチクレカンノン》の出力は4割程度である。 大した数字ではないように聞こえるが、ステゴが長期戦で使用できるのは5割までである。 6割以上の観音は、コストが大きすぎる。 ベロキに初めて使った観音の出力は7割であるが、あれは一発きり。 乱打となると、5割が限界だった。 しかしステゴは、迷いなく出力を上げた。 4割でもジリジリと推し勝てるが、それではつまらないというのが主な考えだった。 そう、出力を上げるその一瞬。 その一瞬を、ベロキは欲しがっていたのだ。 ----- ムトゥガさんに頼み込み、土塊観音《ツチクレカンノン》攻略のヒントを教えてもらった。 彼自身もステゴさんからあまり言い過ぎないように言われているのか、多くは教えてくれなかった。 しかし彼が言うに、観音は意外と、乱打戦に弱いらしい。 俺が初めてと二度目で食らったあの不可避の一撃のような出力は、今の衰えたステゴさんの体では乱発できない。 乱打となると、"5割が限界である"と。 そして、その出力を上げるには、ほんの一瞬の、瞬きにも満たない隙間があると。 半信半疑だったが、俺は存在を確認した。 二度、二度出力が上がり、その度に隙間が見えたのだ。 しかしその二度は、距離が離れすぎていた。 しかし、今は大丈夫だ。 距離は近い。 届く。 「くっ!」 苦肉の策だった。 トマホークの枠をコレに替えて、コレの存在を隠すために、生命線的な機動力を持つタランチュラまで捨てて、テレポーターを使った。 しかし、ここまで来ればもう成功だ。 俺が取り出したのは、ピストルだった。 手のひらサイズのハンドガン。 驚くほど軽くて、弱い。 しかし、撃鉄を引く速さ、取り出す速さ、狙うものの強度を考えれば十分だ。 狙うは、腕。 俺は三度目の土塊観音《ツチクレカンノン》で見たのだ。 観音の動きは、ステゴさんの手の動きで制御されている。 だから、手を動かさなくする。 罪悪感がないといえば嘘になるけれど、本気で来いと言ったのは彼だ。 「いっけええええええええ!!!!!」 弾丸は飛んでゆき、観音の腕たちをすり抜け。 そして。 そして。 ステゴさんの腕を。 「え....................?」 観音の拳が、俺を撃ち抜いた。 俺の意識は途切れてしまった。 俺は負けた。
ところで、視点を変えながらの戦闘というものに挑戦してみました。 違和感などありましたでしょうか。 書いている私としてはすごく楽しく書けましたので、今後の対人戦はこのような流れになる可能性もあります。 温かく見守っていただければ幸いです。 『三又尾の白龍』 「概要」 全高70メートル、全長120メートルの大型怪獣。 その名の通り付け根から三又に別れた非常に長い尾を持ち、見惚れてしまうほどに美しい純白の鱗を持つ龍型怪獣。 背中には巨大な翼を生やしていたため、飛行能力を持っていたとされるが、それが確認されることはなかった。 事実上、初めて人類の前に姿を表した怪獣であり、対策が存在していなかった時代であったことも含めて、歴史上でも最大級の被害をもたらし、文字通り天災となった。 なお、史実をもとに作られた資料には大量の写真が掲載されており、その見た目が"カッコイイ"と人気を集めることもある。 「戦闘能力」 その圧倒的体躯から繰り出される質量攻撃は、一撃一撃が弾道ミサイルほどの被害をもたらすものだった。 当時の高層ビル程度なら木の枝のように片腕でへし折り、地面を本気で踏みつければ足場が崩れるほどの隆起をもたらす。 また、当時の人間と戦争するための武具程度では傷をつけることすら困難であり、核兵器の使用が躊躇われるほどだった。 しかし"口内"という明確な弱点も存在し、そこを攻撃することで怯ませることも可能だった。 「特殊能力」 アイランゲェのような大怪獣というのは特殊な身体能力を持ち合わせることがほとんどである。 この白龍は体内に膨大なエネルギーを保有しており、また、それを体内で温めることも可能であった。 そのエネルギーを口や尾から放出する攻撃を、戦闘期間中に数十回行った。 体力を消耗する行動であると予測されており、実際、これを使った直後の白龍は目に見えて動きが鈍くなっていたとのこと。 レーザーと呼称されていた。 レーザーは紫色であり、性質は炎に近かった。 着弾先が燃える物質であれば周囲に燃え広がり、燃えない物質であれば、その物質を"切り裂く"性質を持っていた。 高層ビルや戦車、飛行機やミサイルなどもこのレーザーひとつで破壊された。 リスクを覚悟で、レーザー発射前の口内に攻撃を加えれば、体内で爆発を起こすことができたが、これは1度しか行われなかった。 「戦闘」 2274年8月28日午前11時20分前後(※推定)。 上海市南部の排他的経済水域の海底にあったと予測されている大地の血管出入口から浮上。 午前11時26分。 上海市南部の排他的経済水域にて、泳いで移動している最中を、武装していた巡回空母によりその姿が視認される。 司令により接近した空母へ尾の一本を向け、一度目のビームを使用。 この一撃で空母は大破、乗組員の9割ほどが死亡。 午後13時05分、中国の領海へ侵入。 攻撃が行われるが、全てを受け流して悠々自適に陸地へ接近した。 午後13時30分。 上海市上陸。 7日間に及ぶ戦闘が開始された。 損害は空母5隻、弾道ミサイル数百発、汎用型の戦車数百台、軍の死亡者1万人以上。 市民の志望者を含めれば10万人を越えた。 避難は迅速に行われたが、シェルターは未曾有の災害に対応しておらず、避難シェルターごと死亡した市民も数知れず。 7日後の午前10時24分に最終作戦決行。 午前11時には海洋への誘導が完了、海洋で執拗に攻撃を加えての戦意喪失を狙うという投げやりな作戦であった。 結局、白龍に手傷を負わせることはできず、白龍の気まぐれによる撤退により戦闘は幕を閉じた。 また、この戦闘により先進国が数種の条約を締結。 第三次世界大戦は回避され、かの巨大生物への人類単位での対策が求められる時代へと変遷して行った。 「備考」 1.他の個体について 「大地の血管」調査隊は数度派遣されているが、その大地の血管内部でも三又尾の白龍の別個体は確認されていない。 「1層」から「4層」までの調査しか進んでおらず、一体何層まで存在しているかがわからない状態の調査であるが、少なくとも「5層」以降の層に生息していると考えられている。 2.もし現在に現れたら 討伐困難である大怪獣であることに変わりはないが、「|過去の遺物《レガシーウエポン》」を投入すれば討伐は不可能ではない、と見るのが定説。 むしろ、討伐して生態を研究すべきという声もあるため、再度出現した際は討伐作戦が結構されると見て間違いない。 3.当時の最適な行動 では、当時にどのような作戦を取るべきだったのかであるが、液体窒素を用いて凍らせることにより無効化するのが最適だったと言われている。 過去の怪獣映画から着想を得たこのやり方は、実際も提案されたものの、失敗した際のリスクなどを考慮して断念されたとのこと。 「目撃情報」 皆無。 であったが、数年前にグランド・キャニオンの洞窟内地下室にて⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎......................。 この地下室は⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎をするために作られたものであるとのこと。 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎はこれについて否定しており、洞窟中であるという特殊状況から、幻覚を見たのではないかと主張している。

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