鯣烏賊 / 第101話

スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その10

ちいかわの映画を観てきました。 面白かったです。
「はっ!!!」 俺は目を覚ました。 場所は、俺のために用意された部屋。 電灯がチカチカ光っていて、自然光が目に入る。 夏なのに、少し涼しい。 冷房はもちろんついているけれど、それ以外にも夕方特有のやや冷たいこの風が心地よいのだ。 ずっと浴びていたいくらいだ。 それにしても頭がクラクラするな。 脳震盪か? それなら動かさないほうがいいのだけれど....................。 戦いは続いているはず。 いや、待て? さっき、俺が室内にいるということを自覚したんだよな。 ということは、もう戦う必要はないのかな? 錯乱しているな。 深呼吸だ。 「すうーっ....................はぁーっ。」 うん、視界が鮮明になってきた。 やはり、上に見える光は電灯で間違いない。 俺がいるのは室内だし、背中に密着しているこのフカフカは、敷き布団だ。 身体の上に手を置くと、掛け布団の存在が感知される。 すこし手が右往左往するが、首の下あたりで布団の端を掴むことに成功した。 そのまま、身体から布団をひっぺがす。 むくりと起き上がると、軽い目眩がする。 すぐに起き上がらない方が良かっただろうか....................いや、起き上がってしまったし。 どうせものの数秒でおさまるのだから、待ってやるのがいいだろう。 ....................。 あの時確かに、ピストルの引き金は引いた。 土塊観音《ツチクレカンノン》はステゴさんの腕を動きの起点にしているようだったから、それを潰してやろうと思ったんだ。 ピストルの弾丸が腕を撃ち抜いた程度の傷ならば、現代医療でも治るからね。 俺は迷いなくそれを行った。 そう、弾丸は飛んで行った。 飛んで行って、それで、それで、腕の中ほどあたりに命中したんだ。 それで血が飛び出るはずだから、その混乱に乗じて、もう一本の腕を狙おうと視線をそらそうとした。 けれど、血なんて出ていなかったんだ。 ただ弾丸が命中していただけで、本当に何も変わっていなかった。 混乱したのは俺の方だった。 人間の腕を銃で撃ったのに、傷ひとつ見えないその様を見て心底焦ったのだ。 それで、次の行動にうつる前に、見たこともないスピードで観音の拳が迫ってきて。 それで。 それで....................。 「よう、目ェ覚めたか。」 「....................。」 目眩が消えた。 そこに現れたのは、見たことがある景色である。 布団に横たわる俺、その横に座っているステゴさん。 この前みたいに、俺が負けたことは覚えているんだ。 でも、今回はステゴさんがものすごくバツの悪そうな面持ちをしている。 ....................なんとなく、合点がいった。 「ひょっとして、全力で殴りましたね。」 「あ、ああ..........すまねェ、な。」 この人は全力を出したのだ。 焦ったのだろうか。 追い詰められたのだろうか。 とにかく、あの瞬間に俺のことを"明確な外敵"と認識したんだろう。 野生動物みたいなものだ。 それで俺は殴られた。 速すぎる。 少しでも速さで拮抗していたと思っている俺が浅はかだった。 あれはダメだ。 物理的に見えてはいたけれど、俺の反応速度の対象外だ。 そんで、痛い。 この間の湿布を貼った痛みとか、もうそんなもんじゃない。 服をめくったら、お手本のような青アザが出てくるはずだ。 俺の体だからこうなっているけれど、被弾直後は骨折していたって不思議じゃない。 「なかなかヒドイことをしてくれますね。」 「ああ、申し訳ねェ。 ....................左腕を弾丸が通り過ぎたときにメチャクチャ焦ってよぉ。 つい、10割全開でぶん殴っちまった。」 口を尖らせて文句を言う俺に対して、ステゴさんはこう答えてきた。 しかしやはり、俺の目論見は上手くいったようだ。 10割は奥の手の、さらに奥の手だったはず。 それを出させたんだ。 それに、腕を撃たれて焦ったということは、カラクリが腕にあるのは確定だろう。 最後の一撃は、俺に近い右側の拳じゃなくて、左側の拳から放たれていた....................気がする。 攻略自体はできたと言ってもいいのではなかろうか。 めちゃくちゃ痛いけど。 「出来てました?攻略。」 「あぁ。オイラが焦って10割拳なんか出さなきゃ、右腕も攻撃できてただろ? てめえの判定勝ちだぜ。おめでとう。」 やった。 俺は小さくガッツポーズをとってみた。 うん、結構、心地の良いものだ。 それにしても、不明点はある。 それの質問くらいはさせてとらうことにしましょう。 そう、知りたいことはたったひとつ。 「ステゴさん、あなたの腕って、土塊ですよね?」 「ほぉ....................。」 ステゴさんは、目を釣り上げて俺を眺める。 その顔はまるでお手本のような笑顔で、感動に満ちている。 いや、あの、怖いです。 そんな俺のことを取って食べるみたいな目で俺のことを見つめないでください。 まるで猛獣と犬っころです。 怯えてしまいます。 「正解だぜ。よくわかったなぁ。」 ステゴさんは、左腕を使って、右腕の服の袖をめくった。 左腕が、治っている。 間違いない。 そして、回答は俺の目の前に現れた。 「これは..........。」 「へっへっ、すげぇだろ?」 見事な義手だった。 とても砂を操って作ったものとは思えない、堅牢な腕だった。 砂や土と言うよりも、石に近いだろう。 触ってみるとカチカチと音を鳴らすほどに硬いが、人間と同じ場所に作られた関節はすごく柔軟だ、 俺は関節を狙って撃った。 この硬さならば、銃弾で傷をつけることができるだろう。 関節以外の場所は無理じゃなかろうか。 「土塊観音《ツチクレカンノン》はな、ラジコンみてえなモンだ。」 「ラジコン?」 「この腕がコントローラーだな。 この腕に意識を送って、それを観音に再現させる仕組みだ。 まあ、オイラが勝手に使ったモンだがよ。 オイラ以外のヤツらがこの武装を使っても、土塊観音《ツチクレカンノン》は再現できねえだろうよ。」 やはり、腕を壊すのは正解だったみたいだ。 腕の破壊で、そこに対応した観音の動きが停止させられる。 だから、左の観音は止まった。 「ちなみに、あの観音は、わざわざ観音の形まで作る必要があるんですか?」 「痛えところをついてくるな。 答えはノーだ。別に作りたくなきゃ作んなくていい。」 「では、なぜ作るのです?」 「ハッタリだ。いきなりあんなのが出てきたら、てめえもビビるだろ?」 なるほど。 俺はまんまと策にはまったわけだ。 実際、観音を見たとき、それはそれは怖かったね。 人間と戦ってると思ったら、いきなり怪獣もどきが襲ってきたんだ。 ....................はて。 ステゴさんは乱打戦しかしてこなかったよな。 けど、一撃に魂を込めれば、俺の反応速度なんて易々と上回ってきてしまう。 10割はおろか、俺は7割にさえ反応できなかった。 ステゴさん次第だけど俺、ひょっとして完封される? あー、うん、 確実にされるだろうな。 もうテレポーターとピストルの手は通じるわけがない。 他にもいくつか案があるけれど、成功率は低いし、初見で見破られそうだし、それはもう散々だ。 「はぁ..........。」 「どうした?」 「なんか、完敗した気分です?」 「ハハッ、そうかぁ。オイラぁ顔から火が出そうなくらい悔しいけどな。 こーんな若造に全力出しちまうなんてよ。全く全く、衰えたなぁ。」 本当に完敗だな。 うん、やっぱりそうだ。 ちょっとやそっとじゃ、このお爺さんを抜かすことは出来なさそうだ。 尊敬しよう。 この人はすごい人だ。 まだ何も教えて貰っちゃいないし、これからどんな授業が待っているかも知らない。 けれど、死ぬ気でついて行こう。 この人はそれだけの責任を持とうとしてくれているんだ。 俺にわざわざ必殺の一撃を見せて、あまつさえそれを攻略させて。 生意気な口を叩く俺を寛大な笑い声ひとつで許してくれて。 しっかりと俺を強くしようとしてくれている。 ああ、十分だ。 十分にわかったんだ。 三心《サンシン》のことなんて無意味だと突っぱねようとしていたけれど、この事が実感できたのなら、大きなことだ。 狙っていたのだろうか、それともただ、三心《サンシン》を教えたかっただけなのか。 いいや、俺が感じれたならいいじゃないか。 「ステ..........いや、先生。」 「ノーノーだぜ、師匠って呼びな。」 心の中でフッと笑う。 うん、気持ちが楽になった。 「お願いします、師匠。」 「オイラの修行はちと厳しいぜぇ?」 俺の1ヶ月は、きっとここから始まるのだ。 ----- 「この愚息が。ちっとくらいは連絡しやがれ。」 「あー、そうだな。想定よりはだいぶいいぜ?一桁台の経験で看破されるたぁ、年端もいかねぇガキにしちゃ見事なモンだ。」 「..........そのことか。オイラぁ、チェンソーを使わせるつもりだ。 はァ、値が高ぇだぁ? 確かに高ぇが、アイツぁいいモンだ。そのくらい買い与えてやれ。」 「ところで、そっちは? ああ、ドラゴンのことだぁな。」 「あー、3ヶ月か。オイラぁ、行けそうにないな。オイラの身内も、ムリだ。 悪ぃがこっちも、タイタンウツボの発情期なんでな。」 「ああ、間に合わせてやる。必ず。」
ひとくちメモ ステゴの親分は戦闘狂

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