鯣烏賊 / 第99話

スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その8

"本日の書きおき、3日目" あの後、俺は16時30分に目覚めた。 頼み込んで了承を貰い、ステゴさんともう一戦交えた。 今度は変な小細工をせずに、「速《ラピッド》+強《ブースト》」の最大速度で突っ込むことにした。 善戦したと思う。 そして、この一戦は、「土塊観音《ツチクレカンノン》」を使われる前に俺の負けになった。 奇襲や小細工の類を一切使わなかったので、当然と言えば当然だろう。 しかしこの一線のおかげで、武装の攻撃範囲や、あの必殺の「土塊観音《ツチクレカンノン》」ではない攻撃パターンをいくつか把握することができた。 おそらく、普段はこれらを使って戦闘しているのだろう。 攻撃範囲は、この庭全体を優に超えるだろう。 俺は二戦目、記憶を残した状態で敗北したが、そのあとステゴさんは地面の砂を弄って、あの美しい庭園を完成させていた。 つまり、あの程度の操作はなんとでもないということだ。 本気を出せばもっと範囲は広くなるだろう。 そして、以下の技名は、俺が独自に呼んでいるものだ。 たぶん本当は、技とかではないと思う。 "砂の刃" 現状、最も頻度の高い攻撃だ。 荒い砂を無数に漂わせ、それを一気に動かすことで擬似的な斬撃を行う行動。 限度としてはサンドブラストなどが近い。 範囲は自由に指定できるようで、小さなものを複数個同時に操ったり、10メートル以上にも及ぶ巨大な斬撃をすることもできる。 威力も申し分なく、正面からチャンバラしようものならこちらの腕がもげそうになる。 武具で対処するなら、防御ではなく「切り裂いて」対処する必要がありそうだ。 二戦目の決まり手もこれだった。 横30メートル近い刃が用意されているのを見て、俺から降参を申し出た。 体を真っ二つにされるのはゴメンだ。 "砂の足場" ステゴさんの行動の根幹を担っていそうな行動。 地面の砂を操って動いているように見える。 砂を固めて足場を作り、変形させたり、飛んで空中を移動させたり....................。 規模の大きなえげつない行動も可能で、地面の砂を全部ひっくり返されたときはびっくり仰天だった。 "岩攻撃" あれはダメだ。 真正面から食らったら半身が弾け飛ぶ。冗談じゃない。 溜めには2秒から3秒かかるけど、最高速度は俺の「速《ラピッド》+強《ブースト》」に匹敵しかねない。 さすがは伝説の男。 これが頬を掠めたときは死を覚悟した。 "砂の盾" 完全な防御行動だ。 周囲の砂を一点に固めて、盾を作る。 恐らくは何かの基準に従って作動している防御行動だ。 二戦目は三回ほどこれを見たのだが、俺が一定以上の距離まで接近したときに、自動的に防御行動を行っているように見えた。 一戦目は使用しなかったので、二戦目から開放した戦術だろう。 防御性能は凄まじい。 「衝《ストライク》+《ブースト》」で全力の一撃を加えても、顔色ひとつ変えずに受け流された。 あれは強度と言うよりも、砂自体が流動的に変化することで衝撃を受け流しているように見えた。 あの様子だと「排撃《リジェクト》」すら防御されてしまいそうだ。 威力以外の場所からアプローチを書けなければならない。 このようにステゴさんは、上の4つを主軸に、アドリヴを混ぜている。 たぶん、これ以外のやり方は持っていないのだろう。 使ってくる攻撃たちは、初見と言うよりも、これらを高度に応用したもののように見えた。 まあ、応用の数と質が凄まじい上に、組み合わせた行動もしてくるんだけどさ。 そして、最大の問題点は次だ。 "土塊観音《ツチクレカンノン》" 全く、わからない。 二戦目は使ってこなかった。 オトズナ邸の書蔵庫の本で調べた限り、「観音」とは仏像や彫刻の一種らしいから、あのような形をしているんだろう。 そうすると、あのときのダメージの喰らい方も納得がいく。 殴られたのだ。それも超スピードで。 俺が感知してから、防御しようという思考にたどり着く前に、その動作は終わってしまった。 最低でも「土塊観音《ツチクレカンノン》」は、準備段階から視認していなければ対処は不可能だろう。 これを攻略しなければならない。 それと、二戦目ではステゴさんに少しでも揺さぶりをかけるために「崩《ホウ》」を使った。 そのとき、「纏《テン》」が四角形になっていたので、ステゴさんは硬化系だ。 けれど、変に三心《サンシン》に頼ろうとしたせいでその他の判断が疎かになり、それで敗北してしまった。 明日までに、三心《サンシン》を無意識的に使用できるようにならなければいけない。 書蔵庫といえば、ここの書物は面白い。 あまりにも量が多いから、探したいものの場所を使用人の人に聞いて、案内してもらった。 この使用人さんは、俺が4日前にこの舘に来たときに俺に「崩《ホウ》」を見せ、ステゴさんのところまで案内してくれた人だ。 ちなみに、書蔵庫にはW.M.S.Fネットワークに繋ぐことができるパソコンもあって、俺にアカウントがあれば、ステゴさんのことを確認できただろう。 土塊観音《ツチクレカンノン》の記述を確認できたから、どれだけ楽だろうか。 また、三心《サンシン》の書物を要求すると、使用人さんは実践に付き合うと言ってくれた。 幸いなことに、夕食で集められるまでには数時間の時間的猶予があったので、お言葉に甘えてお願いすることにした。 また、名前も教えてもらった。 ムトゥガさんというらしい。 ムトゥガさんは凄く強い。 ちなみに話によれば、使用人ではなくボディガードだそうだ。 ボディガードの職につく前はは格闘家だったらしく、中国武術のような戦い方が印象的だ。 無意識的に「呼妖《コヨウ》」「崩《ホウ》」「纏《テン》」を習得しており、人間離れした強さから勘当され、そこをステゴさんに見つけられたらしい。 懐かしい顔をしながら語っていた。 いわく、怪獣討伐の経験はないとのこと。 ペラルさんも強いけれど、対人戦ならばムトゥガさんの方が強そうだ。 彼との模擬戦や、彼からの指導のおかげで、「呼魔《コマ》→崩《ホウ》」の流れを自然化することができた。 去り際、彼はこう言ってくれた。 「あなたはきっと勝てます。 何せ私は、何度かお誘いを受けた旦那様との戦いの中で『土塊観音《ツチクレカンノン》』を見たことすらありませんから。」 どうやらステゴさんは、雇っているボディガードにすら戦うことを提案するバトルジャンキーだそうだ。 これまでも何度か、道場破りのようにやってきた若者を嬉々として相手取り、その全員を叩きのめしたそう。 ムトゥガさんは20年ほどボディガードをしているが、50人ほどやってきた若者の中で、「土塊観音《ツチクレカンノン》」まで追い込んだものは2人しかいないらしい。 俺は最後、ムトゥガさんにまた相手をしてくれるかと頼んでみた。 「もちろん、構いませんよ」と嬉しい返事を貰えたので、たぶん明日以降も、またお世話になる。 ところで、オトズナ家の食事はとても美味しい。 リンさんの作ってくれるような日本食なんだけど、なんかこう、「本家!」って感じがする。 給仕さんにそう言ったら、嬉しそうに返事してくれた。 リンさんのつくる食事も美味しいけどさ。 今日の朝食は、白米にみそしる、ピクルスのような味がする漬け物数種類に、ナットウという茶色い豆。 ナットウは不思議な味と食感で、1口目はあんまり好きになれなかったけど、食べ終わる頃には好きになってしまった。 いわく、海外では嫌われる食べ物だそうで、アメリカでは買えないだろうとのことだ。 残念。 夕食は、21時と遅めだ。 ちなみに、肉じゃがというものを食べた。 具材はシチューに似ているが、スープはただの味付けで、飲まない。 あまじょっぱい味付けでとても美味しいが、芋とご飯を一緒に食べるのはお腹が膨れる。 これもアメリカでは食べない。 みりんという調味料の入手が難しいだろうとのことだ。 あの甘さはたしかに、リンさんの食事では見られない。 そういえば、初めて意識してステゴさんの腕を見た。 茶色い手袋をしていて、よく「ゴキッ」と音がする。 すごく硬そうな手だった。 ちなみにお昼は用意されないらしく、ペラルさんに連れられて外に出て食べた。 ラーメンというものらしい。 そうめんを食べたことがあるが、麺をすするのにはやや抵抗がある。 食べるのに時間はかかったが、美味しかった。 たぶん、また食べに行くだろう。 ショウユラーメン以外にも、シオラーメンやミソラーメン、トンコツなんてのもあるらしい。 すごい食文化だ。 夕飯のあとは寝るまで、三心《サンシン》の修行と振り返りに務めた。 明日こそ、やってやる。 さて、今日はジパングに来てから3日目である。 ミクロさんには、9月の末に帰りの便を予約したと言われている。 残された猶予は、だいたい1ヶ月。 1ヶ月が終わるまでに、「土塊観音《ツチクレカンノン》」を攻略して、怪獣討伐のことを学ばなければならない。 そしてなんだかんだ、新鮮なことも少なくなってきた。 明日からの書きおきは、簡潔にしよう。 それにしても、やることは山積みだ。 寝よう。 時刻、23:17分。 ----- "本日の書きおき、4日目" 5回やりあって、5回負けた。 そのうち2回、「土塊観音《ツチクレカンノン》」を使わされた。 そしてそのうち1回は、「土塊観音《ツチクレカンノン》」の実体を見た。 あれは、土の像だ。 ものの数秒で作られて、それで無数の腕で攻撃してくる。 ひたすら拳を打ち込んで来るだけなんだけど、とにかく「速い」。 打ち込まれた拳はボロボロに砕けて、すぐに新しい拳が作られる。 けどそれひとつひとつの動作が速すぎるから、実質的にただの連打だ。 となるとそれを避けられるかって話になるんだけど、これが結構厳しい。 速度が俺の最高速度と肉薄しているから、少しの判断ミスが命取りになる。 しかし、俺はひとりだが、相手はほとんど無限の手数を持っている。 相手の判断ミスはただのミスで、次に繋げられるが、俺はミスすれば負けだ。 下手したら死ぬ。 どうしようか、とは思っているが、対策を思いついていない訳ではない。 そのために武装をひとつ入れ替えて来たんだ。 策は....................。 ----- "本日の書きおき、5日目" 負けた。 けど、認めてもらえた。

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