鯣烏賊 / 第94話

スーパー・ウルトラ・サンドジジィ! その3

俺は邸内に入ることを許された。 とはいえ、俺は傀儡のように道案内を受けるのみ。 普段の精神状態ならば、周りを観察したりとか、邸内の構造を覚えるだとか、案内してくれている使用人の人に話しかけてみるとかができただろう。 けど、今の俺は普通じゃない。 目の前に大量の謎か提示されていて、普通になんかなれるだろうか。 目下の謎ひとつめ。 ペラルさんが使ってきた、呼魔《コマ》の索敵をものともしない攻撃。 これはどうやら、殺気が見えていることには違いないのだ。 けれど、その殺気がピクリとも動かない。 ペラルさんは「見えているだけ楽」と言っていたけれど、それの意味も分からない。 殺気が見えていないのではなく、見えている殺気が動かないことを特定できただけで進歩であるが、それはそれ、これはこれ。 理屈が全くわからないのだ。 俺も真似できるものなのだろうか、それとも出来ないものなのか。 そもそも真似すべきなのか。 対人戦ならともかく、怪獣討伐を続けてゆく上で習得すべきなのか。 うーん、わからない。 目下の謎ふたつめ。 殺気を増大化させる技術。 ペラルさんやさっきの使用人の人、包括的には、シロも使ってきたのを覚えている。 これは是非とも習得したい。 あの、威圧されてしまうやつだ。 逃げ出したい衝動に駆られて、「こいつはどうやって俺のことを殺そうとしているんだ」という被害妄想を繰り返してしまうやつ。 殺気で他生物を威圧できるなら、戦闘の時間短縮に繋がる。 それに、これを使って敵の強さを測るなんてことも出来そうで、すごく便利に思える。 ただ懸念点もある。 あれは「呼魔《コマ》」で見ている殺気とは全く違う別物だ。 つまり、あの威圧感は現実として「存在」していることになる。 一体どういうことなんだ? これまた理屈がちんぷんかんぷんだ。 目下の謎みっつめ。 昨夜のペラルさんが口にした、「テイ」とはなんなのか。 言い方からして、俺にはできて、 ペラルさんにはできる。 ミクロさんや、ミクロさんのお父さんもできるんだろう。 果たしてこれは何なのか? ....................知らない固有名詞の特定って不可能じゃないかな。 いいや、一旦冷静になってみよう。 冷静なると物事に進展が生まれることは、昨日散々理解した。 だから、客観的に俺がどのような状況に置かれているかを整理してみたい。 第1の謎。 全くの不明。手がかりすらなし。 第2の謎。 不明だが、なにかが掴めればすこし探究が進みそう。 だけど、その"なにか"は不明。 第3の謎。 意味不明。 現状何をすればいいのか? 不明。 「なんだ、不明だらけじゃないか。」 「ベロキ殿。何か?」 「ああ、いえ、なんでもないです。ごめんなさい。」 独り言を謝りつつ、ふと思ってみる。 いや、何もできないじゃないかと。 こんな不明だらけの報告書を書いて、俺自身に提出したところで、なんの進展もありゃしない。 こういうのは、詳しい人に聞くべきなんだ。 だって、いまから、詳しい人に会おうとしているんだもん。 自力で気づいてみたい気持ちで溢れていることは否定したいけれど、俺がゼロから結論を導き出すのには、気が遠くなる時間がかかってしまいそうだ。 でも、ヒントはちりばめられているんだ。 ペラルさんは意味深な発言を繰り返すし、さっきの使用人の人だって、数秒俺に殺気を見せたら、満足そうな顔をした。 なんでだ?俺がなにかしたのか? しかし、普通には振る舞えないにしても冷静になってみれば、周りが結構見えるものだ。 俺はジパングに来たのが初めてだから、この国における普通の建物がどんなものなのかはわからない。 住宅街を通ってきたのを思い出すと、他国と大きく違うようなわけではなさそうだけど。 でも、この家は、なんか凄く「雰囲気」がある。 建物内に金属やコンクリートがほとんど見えないし、ドアノブを引いて開けるようなドアも見られない。 余分な電子機器の類を、可能な限り排除しているように思える。 これまでに通ってきた所にあった木や庭の茂みはこれ以上ないくらい整頓されている。 しかも、地面の砂にはなにやら模様が描かれている....................? それにしても、すごく広い庭だ。事務所の近隣の公園よりも広い。 「おやベロキ殿。庭園に興味がおありで?」 「興味ってほどではないですけど....................。 すごく整ったお庭なんですね。」 「ええ。旦那様の趣味にございます。」 「へぇ〜..........。」 歩いている廊下は、右側だけに部屋が作られていて、左側には何もない。 一定の距離ごとに小さな階段があって、そこから庭に降りることができる仕組みらしい。 ....................もっとも、あの綺麗な庭を踏み荒らす気にはなれないので、降りないけど。 歩いていると、途中で女の人が数人現れて、俺とペラルさんの荷物を奪っていった。 中には、泊まりに備えるための着替えや日用品たちが入っているものだ。 それにしても広い屋敷だが、終わりが見えてきた。 見えるというよりも、感じられてきた。 壁一枚隔てたそこには、なにかすごいものがいる。 そう俺の感覚が言っている。 野生の本能に近いだろうか。 「旦那様、お連れしました。」 「おうよ。」 中からしわがれた老人の声が聞こえる。 落ち着いた声だ。 たったそれだけでも、歴戦の猛者であることを感じさせてくる。 「ベロキくん、呼魔《コマ》。」 「え?ああ、はい。」 ペラルさんが耳元で、一瞬囁いてくれる。 意図はわからないが、従っておいたほうがよさそうだ。 彼女がうさんくさい人でも、言っていることが間違っていたことはない。 俺がひと呼吸したのを見ると、使用人の男の人は、壁のへこみのような場所に手をかける。 そして、俺の目の前にある2枚の小さな壁が、両側へ開いた。 なんだこれ、すごいな。 見たこともない仕組みの扉だ。 まるで窓みたいだ。 「旦那様、私はこれで。」 「おう。」 使用人の人は、それだけ言って出ていってしまった。 「"フスマ"を知らねえか。」 俺はそう声かけられて、初めて老人の方に視線を向けた。 身長も低く、髪の色素が抜けきった銀髪の老人。 服装が少し特徴的で、ドラマや映画で見るみたいな着物を着用している。 あぐらをかいて座っており、ただこちらを見ている。 それだけだ。 しかし、俺は咄嗟に背後へ飛ぼうとした。 「動くな。」 背筋の震えそうな怖い声でそう命じられたことで、俺の判断が鈍る。 隙を見せてしまったことで、背後へ飛び出す選択肢は実質的に消滅した。 「いい反応だなァ、才能がある。 まあ座れ。てめぇも慣れておいたほうがいい..........。」 椅子もないのに、どうやったら礼儀正しく座ることができるだろうと思ったが、後ろのペラルさんの座り方を真似することにした。 いわゆる、正座ってやつだろう。 「へっへっへっ、そこまでオイラにかしこまらなくてもいいんだけどなぁ。 まぁ、オイラを見た奴ぁ、皆こうなる。」 だめだ。 さっきからずっと、逃げたい衝動に駆られている。 けど、逃げてもダメな気がする。 ペラルさんにしていたみたいな被害妄想が、極度に肥大化している。 「ところでだペラル。オイラぁコイツのことを変則系だと思ってんだが、どう思う?」 「私もそう思う。」 「ハッハッハッ、だよなぁ。」 変則系?急に何を言い出しているんだろうか。 ペラルさんも何事も無かったように賛同している。 これは、質問していいやつなのか?しちゃダメなやつなのか? うーん....................。 「あのぉ。」 迷ったならば、試してみる他ない。 「その"変則系"ってのは、なんなんですか?」 「ふむ。」 どうやら質問しても大丈夫らしい。 老人は少し考えてから、俺にこう言った。 「まぁ、性格診断みたいなモンだ。 ホントは小難しい機械に指を突っ込んで判定するんだがぁな....................。 オイラたちはめんどくさがりだからよ、こうやるわけだ。」 ああ、間違いない。 この人はミクロさんの父親だ、と俺はこのときに確信した。 まるで、次の質問に誘導するために用意したかのような回答だ。 色々と答えてくれたように見えて、何も答えてくれていない。 そもそも系統ってなんなのか? 判定とはなんなのか? めんどくさがりでもどうやったら判定できるのか? まるで、俺が次にする質問を予想するゲームをされているみたいだ。 気分がいいんだか悪いんだか。 でも、折角の機会だ。 お言葉に甘えて聞きまくってやろう。 「まず、"〜系"という名前だということは、何かの系統の話をしているということでよろしいですか?」 「ああ、その認識で問題ねぇ。」 「それは、なんの系統なのですか?」 「コスモの"手癖"だ。コスモ系統って呼ぶ。」 コスモの手癖、か。 意味のわからない文言だけど、噛み砕いてみると真意が見えてくる。 お酒に強い人や弱い人がいるように、そういうものがあるんだろう。 「ミクロのやつから説明を求められてっからな。1から10まで教えてやるぜ。 いいか?これは大まかに、3つに分けられる。 ひとつめは「開放系」。 ふたつめは「硬化系」。 最後が「変則系」だ。」 「その中で、俺は「変則系」だと。」 「ああ。ミクロと、それからそこにいるペラルも「変則系」だ。 オイラは「硬化系」。 リンと、あとてめぇが会ったことがあるやつだと、トケラが「開放系」だ。」 「なるほど....................。 ところで、ミクロさんと父のあなたの中で、コスモ系統が違うのはなぜですか?」 「遺伝子はあんまし関係ねぇ。 酒の強さとか、ガンになるかならねえかとか、その辺は遺伝するらしいがな。 こいつぁ別モノらしい。」 「俺がなぜ変則系だとわかったのですか?」 「そいつぁ後で説明してやる。」 ふむ。 上辺だけのことを聞きすぎるのも良いことではないだろう。 うん、その辺を知るのは後でもいい。 今はこれを学ばないといけないのだから。 俺は、だいたい30分くらいの時間を使って、目の前の老人に教えを乞うことにした。 「よろしくお願いいたします。」 「ああ、ドンと任せな。」

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