鯣烏賊 / 第42話

凍峰に沈む街にて その1

遡ること13日前。 俺が会場に来てから2日目の午後14時前後。 俺は初めて訓練所に橋を踏み入れた。 3階の一番端の部屋。 そこが俺たち4人に用意された訓練所である。 部屋に入ってまず目につくのは部屋の右側に集中して置かれている4つのベッド。 ベッド...........................うん、まあ、表現としてはベッドが一番適切だ。 とにかく、人間が寝転がるためのオブジェクトが設置されている。 そのベッドはパッと見ただけでは箱とカプセルを足して2で割ったものに思える。 なかにはフカフカのクッションと2つのボタン、そして指紋を読み取るための機械があった。 そしてベッドの壁がやけに高く、おそらく開閉できるような仕組みになっている。 これは.....................。 「VR機器?」 「その通りだ」 凄いね。これ。 うちの事務所にあるあのオンボロとは大違いだよ。 このVR機器をベッド型VR機器と呼ぶことにしよう。 ちなみに俺がここに初めて来た時の第一声は、 「ああ........................... 5世代前ってこういうことね」 である。 ちなみに、このセリフを言ったとき、他の3人は困惑していた。 まあ、5世代前のVR機器なんて見たことあるわけないよね。 見たことある俺ならすぐに分かる。 だって外見の質感から違うもん。 ベッド型VR機器以外に何があるかという話だが、次に目に付くのは大きなテーブル。 丸型で、近くに椅子が4つある。 4人が囲うように座ってもかなり余裕が生まれそうな大きさだ。 場合によってはここのテーブルを使って勉強する、なんてのもありだろう。 と思ったのだが、わざわざ鍵を取りに行くのが面倒くさいので却下らしい。 あとは、比較的ものが少ない左側を見ると、大きめのドリンクサーバーがある。 パッと見た感じでも、ボタンの数が有料の食堂ドリンクの数より多い。 ..............................いや、食堂の存在意義は? 「えーと?受験番号が書いてあるから対応する番号を持つ人が機器を使え............だそうだ。 ユリ、受験番号書いてあるか?」 「あるわね。 これは-00004って。」 「-00004ってことは、俺のだね。」 「あ、おれの見っけ!」 開閉できるであろうこの壁には、ガラスの窓が貼ってあって、 その窓の近くのところに、受験番号の刻印がされている。 1番右奥の機器が-00001、その左側が-00002、手前右が-00003、そしてその左側が-00004だ。 「どうする?これからVRに入るの?」 「そうだな.....................このなかで固有武装《オンリーウエポン》を持ってる人、挙手」 「はい」 「はい」 手を挙げたのは俺、パキケ君、そしてディラン君の3人だった。 「じゃあ読み込みをしないとな..................受験票を渡してくれ」 俺とパキケ君はディラン君に受験票を渡した。 ディラン君は俺たちから受験票を受け取ると部屋から出ていき、5分ほどで戻ってきた。 手に持ってたのは.....................。 「鍵《シュリュッセル》..................?」 「|蒼く光る尾《アステロイド》.....................?」 黒い腕輪。 俺の固有武装、鍵《シュリュッセル》だった。 あとは、さっきまで持っていなかったチョーカーを首につけているのと、なにやら細長い棒を持っていた。 「さて。これらは個別に読み込みを済ませないと使えないからな。 これを持ってVR機器の中に入ってくれ。 どうやら中で読み込みをしてくれるらしいからな」 と言い、ディラン君はそれらを俺たちに渡してきた。 「では、中に入るか」 その合図で、俺たち4人は自分の受験番号が刻印されたVR機器の前に立った。 俺は中に入る前に、いつも通りに「鍵《シュリュッセル》」を腕につける。 そして機会の中に入り、起動ボタンを押した。 微量の機械音とともに両扉が降りてきて、俺の体の周りを金属が覆う。 そして視界が遮られたかと思ったら、耳元...........................いや、そう感じるだけで多分脳内に、アナウンスが流れる。 【ユーザの体を読み込んでいます..........................読み込み完了....................固有武装《オンリーウエポン》を検知。データをダウンロードします.................................転送】 ----- 視界が眩い光に遮られ、俺は思わず目を両手で覆う。 光に目を焼かれるような感覚は10数秒で消え、いつもの瞬きしたときの視界にもどる。 「.....................こんな感じだったっけ?」 目を開けると、何も無いけど広い、そんな空間に放り出された。 地面には.........まあ、一応あった方がいいか、程度にタイルのような模様が描かれていて、タイルな間は緑色に光っている。 反面、壁や天井のようなものは見当たらず、本当に「何も無い」という表現が適切だ。 まあ、うちの事務所のVR機器は虚無空間に転送されるから、それよりは何倍も凝ったデザインだと言える。たぶんね。 「あら、早いのね」 「........................そんなにかな?」 「みんなそれぞれの固有武装《オンリーウエポン》や|過去の遺物《レガシーウエポン》のダウンロードに時間がかかっているのよ」 後ろを振り向くと、ユリさんが立っていた。 俺もそうだけど、訓練VRの中では戦闘のための服装になるので、 現実世界のユリさんとは服装か違う。 それにしても、ダウンロードか。 右腕を見ると、しっかりと黒い腕輪がはまっている。 ダイヤルもしっかり回るし、棘が体に刺さる感覚もある。 「ダウンロードのアナウンスはあったよ。 ほら、今腕にはまってるからダウンロードもできてる。」 「だとしたら容量が軽いのね。」 「あー、やっと終わった!」 俺に続いて仮想空間に入ってきたのはパキケ君。 あの細長い棒を背中に背負っていて、刀みたいに思える。 服装は俺ともユリさんとも異なるデザインと色合いだ。 「ベロキは早かったんだね」 「ユリさんにも言われた」 そしてさらに数分後あたりに、ディラン君が入ってきた。 服装がユリさんと全く同じだから、やっぱりこの2人は以前から互いに知っている関係だったんだね。 多分。
ベロキの読んでいた本の目次に書かれていた「コラム」のうちひとつ、「ヒトガタ」の内容について。 外見が非常に人間と似通っている、人間とは相反する生物。 人語を操る場合が多いが、出現した地域の言語圏と一致しない言語を使用する場合も多い。 しかしその言語レベルは非常に高度であり、なんの違和感を持たずにコミュニケーションを取ることもできる。 しかし、その存在は大抵の場合、ヒトという生物に種族単位の大きな被害をもたらす場合が非常に多い。 ヒトガタは共通して極めて高い身体能力を持ち、それに加えて個体ごとに特異な固有能力を持ち合わせる。 能力はヒトガタの個体ごとに全く別々であり、千差万別であるが、どの能力も「傷」の再生に利用できる能力であることが知られている。 なお、これに例外はない。 ヒトガタは一般市民をしてみるとほとんど現れない希少な怪獣の種であるが、その実の出現頻度は世間の認識ほど低くはない。 おおよそ1年に1度程度の間隔で、世界に一体程度の討伐報告が挙がる。 しかし、大怪獣のような大々的な報道を受けるほどに強いヒトガタは極めて少ないため、世間的な知名度は非常に低く、末端の討伐隊者にも知られていないことさえある。 UMAやモノノ怪の類の方が広く知られていると言える。 しかし、深く怪獣のことを勉強すれば、このヒトガタの異常性と不気味さには否が応でも向き合うこととなる。 ここで、過去のヒトガタについて一例を紹介しよう。 「セラフィム」と名付けられたそのヒトガタは、ベロキたちの生きる時代より約10年ほど前に発見された。 戦闘開始直後ではやや背の高い人間と同一程度のサイズであった。 しかし、傷つけても傷つけても周りの何かしらの「物質」を取り込んで傷を回復してしまう。 さらには周りの深くをさらに取り込んでゆくことでサイズは段々と大きくなってゆき、最終的には絡めとった瓦礫をまるで外殻のようにまとい、「瓦礫の巨人」と呼ばれるまでの大きさに変貌した。 この戦闘は戦力の追加投入により半日程度で決着がつけられたが、一連の流れは全世界にSNSやメディアを通じて拡散され、強力な個体のヒトガタの危険性を世間に知らしめる重要な出来事となった。 しかし。 ヒトガタは本編開始時点での年度以降、一度も発見されていない。

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