鯣烏賊 / 第11話

殺し屋、娑婆へ舞い戻る その9

猪。 リンさんはバクのことを「猪」と形容していた。 俺がゴリノシシって言ったらすごい顔をしてたし。 うん、猪。 なるほどね、猪。 言いたいことはわからないこともない。 たとえ上半身がゴリラみたいな体つきをしていても、後ろ足の発達の仕方は馬や猪そのものだ。 走っている時や突進攻撃をするときの動きも「あ、腕を使ったパンチよりもこっちの方が得意なんだな」と思わせてくる動きだ。 よくよく見れば、おせじにも目鼻口の形も猿や人間に近いとは言えない。 身体的特徴はよく見れば馬や猪などの四足歩行動物そのものだ。 けど..............けど..............けどさ? 「コンクリートを噛み砕くのは、ちょっと違うでしょーー!?」 バクはコンクリートの壁をゼリーみたいに噛み砕きながら破壊してきた。 俺をの気配を感じたのか、ぐりんと勢いよく首を動かして一瞬で俺のことを睨みつけてくる。 そのまま俺のいる方に方向転換して体ごとこちらに向けてきた。突進しながら。 「まあ確かにこれは猪だねえ!!」 俺はバクを建物でもなんでも、障壁のある方向に誘導し、突進を誘発。 律儀に突進してくるバクに向けてアッカンベーをしたい衝動を抑えながら、そのまま突進をしてくる方向の逆側に大きく飛んで攻撃を避ける。 逆側にある建物の屋上にはリンさんが待機しているのがさっき見えた。 だから、射線誘導しようと思えばできるわけなんだけど....................。 リンさんからは合図がこない。 バクの方を見ると、いま突進した建物の壁に 牙や爪が刺さっていて、頑張ってそれらを引き剥がそうとしている。 フガフガと声を上げながら悶絶している様は傍からみれば滑稽かもしれないけど、戦っている俺からしたらそんな余裕、あったものじゃない。 この隙があれば十分。 俺の排反柄は起動したときに、最初はファルシオンが出てくる設定になっている。 だからコレを使えなかったわけだけど....................。 腕にかかる重量と負荷が多少増えるとしても、俺はこっちを使った方がいいと思う。 「だから起動!排反柄、「入れ替え」トマホーク....................。」 柄が2つにパキリとわかれ、その間を破壊力を持たない極めて頑丈なコスモの結晶がつなぐ。 ちょうど上側に来る方の部分に細めの棒が生えてきた。 その棒の両側には細かい穴がたくさん空いている。 俺はわかれた「上の方」の柄にあるスチッチを押す。 そうすると、細い棒を起点に鋭い切れ味を持つ「おうぎ形」をした刃が両側に作られる。 片側の刃は俺の顔より大きいが、片側の刃は俺の手ほどの大きさしかない。 しかし、これがいいんだ。状況によって使い分けられる武器をふたつ持っていることに等しい。 この間読んだ説明書いわく、大きい方の刃が「主刃」、小さい方の刃が「副刃」という名前らしい。 自分で突進した壁からの拘束から抜け出したバクはこちらに振り向いて、再び突進攻撃の構えをとる。 前足後ろ足ともに力を込め、バッ、と飛び出してきた。 「まったく....................反省するという脳ミソがないのか、君には。」 俺はトマホークの主刃がバクの方を向くように調整し、地面を引きずるような構えをとる。 そして、俺もまた、バクの方向へと走り始める。 俺とバクが正面から接触するまで、余裕で10秒以上はある。 よーくタイミングを測りながら、トマホークを握る手に力を込める。 「ここだ。」 足を止め、腰に力を込める。 足を固定するようにドンと地面に押し付け、さらに体勢を低くする。 弾丸のようにまっすぐ突っ込んでくるバクが俺の2メートルほど前にきたところで、俺は行動を起こす。 「いーち、にーの....................|さーん《相殺》!!!」 バクの軌道まっすぐ....................からは少しだけズレた位置に斧を振るう。 威力の高い攻撃をそのまま相殺することは、今の俺にはもちろんできない。 でも、ショックを与えて止めることくらいはできる。 実際、この斧にたいした衝撃は生み出せない。 けど、しっかりとしたタイミングで、「大きな音」を出すような当て方をすれば....................。 パッシーン!!! という猛烈な音とともに、バクが歩調を乱す。 止まることなんて考えていないような速さだったので、止まった前足に後ろ足が絡む。 そのままステンと転け、衝撃を止めきれずに後ろの家の壁にぶつかる。 「はっはー、馬鹿めっ!」 そうやって同じ行動ばかりするからこういうことになるんだ! けど、この行為でたいしたダメージは生まれない。 大事なことは、隙を作ることだ。 バクがあの状態から脱出する前に、あのとてつもなく硬いゴム質の皮の攻略方法を話し合わないと何も始まらない。 俺は武器をしまい、さっきリンさんがいた位置まで、全速力で走る。 距離で言うと100メートルちょっとくらいだろう。大量の障害物を加味しても、10秒かからずに着いた。 リンさんは、今まで使っていた大きな銃(バズーカ?)よりも一回り小さい銃を担いでいた。 どうやらあのバズーカ、何度も連続で最大出力の攻撃を撃ってしまうとオーバーヒートで大破してしまうそうだ。 「近くで見てたベロキに聞きたいんだけど....................どう、効いてそうかな?」 「衝撃自体はありそうだけど、内部まではダメージが行ってない。」 「そうよね....................。」 ゴム質の皮....................とても厄介だ。 打撃、斬撃を問わず、衝撃にとても強いから防御力がとてつもない。 それにさっきの様子を見るに、実質的な切り札である砲撃はほとんど無効に近い耐性だ。 俺がさっきから執拗に行っている切りつけ攻撃自体も、効果は(たぶん)あると思うけど、かすり傷程度のダメージしか与えられていない。 あの弾きの強さからして、刃を刺すのもさっきので限界だ。 別の方法を探さないと。 そう、何か身体の内側へとダメージを与えないと..............................。 ....................待てよ、体内? そういえばこいつ、さっきコンクリートを噛み砕いた時には、口を開けたはずだよね? まあ実際見えてはいないわけなんだけど。 さすがに、口内までゴム皮な訳ないよね? 味覚を感じたりしないといけないし、唾液などを分泌しないといけないし。 だとしたら。 口内に砲撃を撃ち込むことでダメージ入れられるのでは? 「ねえリンさん、うまく口開かせたらそこにでかい一撃を撃ち込めたりしない?」 「その案には賛成だけど....................開かせるってどうやってやるのよ。」 いや、俺はさっきの噛み砕きを誘発させてそこに撃ち込んでもらおうと....................。 いや、ちょっと待て。 たしかに、さっきの噛み砕き攻撃を誘発させたとしても無意味だ。 多分さっきのは、なにか突破が面倒な障害物があったときにする行動だ。 大きく口を開いても、壁一枚挟んだ状態で狙撃を狙うのは困難か。 「うーん、どうしよ..............................」 《コオオオオオオオオオオッッ!!!》 ん、何、このすごい音....................。 「ベロキ避けて!」 「んえ?」 緊迫したリンさんに言われて、俺は急いでバクの方に振り向く。 そこには、周囲の空気を目一杯吸い込んでいるバクが見えた。 バクは体重を込めて、後ろ足にものすごい力を込めている。 その後ろ足を地面にめり込ませて、後ろに吹っ飛ばないようにしている。 いやいやいやいやぁ....................。 「まさか、ね?」 そんな事ないよね、ある訳ないよね....................??? 肺活量だけでの攻撃なんてね....................??? 《ドバシュウウウウウウウ!!!》 俺は生命の危機を察知し、音が鳴る前に全速力でその場を離れた。 バクの口からはとてつもない高圧で高密度の空気が大量に放出され、周りの瓦礫や石を吹き飛ばし、地面をえぐりながら俺たちのいた場所へと直撃する。 「うっわぁぁ..........!!!!!」 そこそこ離れた場所にいる俺のところにも、凄まじい風圧がかかる。 このままでは暴風雨の日の傘のように飛ばされてしまう。 近くにあった手頃な電柱にしがみつき、なんとか吹き飛ばされないように耐えた。 俺たちがまだあそこにいたら即死だった。 きっと吹き飛ばされて、どこかに叩きつけられてむごい死に方を....................あれ、リンさんは? 「リンさん?!」 「っぶないわね..........! パワーシールドがあってよかったわ....................。」 そこにはほとんど無傷でリンさんが立っていた。 恐らくパワーシールドで攻撃を受け流したんだろう....................。 「ベロキ、今のブレスを誘発させてくれない?」 「えっ、なんで?危ないよ、あれ。」 と、俺としては至極まっとうに返事をしたつもりだった。 しかし、リンさんからの提案は俺の予想を何段も上回っているものだった。 「あたしがパワーシールドであのブレスを正面から受けてカウンターするから。いいアイディアでしょ??」 俺は再び武器を取り出し、トマホークを起動する。 「自分から命を差し出そうとする人なんて、初めて見たよ。」 方針は立った。

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