鯣烏賊 / 第62話

不倶戴天の不協和音 その2

「おう、ちょっと待てやそこのガキ。」 アカは、ただひとり歩いていた。 とある場所へ向かうために、ただひたすらにまっすぐと。 まだ誰とも出会っておらず、むしろこのまま、誰とも出会わずに目的を達成する。 ....................算段であった。 「....................な〜に?」 「おっと意外に良い面ァしてやがる。ガキっつったことは撤回してやる。」 アカは焦っている訳ではなかった。 しかし、絶対に接敵することがないと高を括っていたが故に、やや困惑していたのである。 アカたちは「テトラファント」という大型怪獣を中心とする、怪獣たちの群れを率いて来ていた。 怪獣討伐を生業とする人間どもは、きっとあの怪獣たちに気を取られて、自分たちの本当の目的など気づくわけがない。 と、そう思っていた。 しかし、目的の場所。 ...................講堂の地下階につくられている生体研究室までの唯一の通り道である、講堂の裏口前にて、とある男に呼び止められたのだ。 その男は身長180センチ程度。 金と黒の入り交じった頭髪を身にしているアジア風の男だった。 (まさか、ボクたちのことをピンポイントで狙いに来た....................? いやいや、そんなはずはない。) アカはその男のことを見たことも知ったこともなかった。 しかし、彼らにつけられた「機能」のたまものというべきなのか、アカの認知機能は目の前の男に対して非常に大きな危険信号を発していた。 「そうかぁ、てめぇは僕のことを知る必要がないんだったな....................。」 「ボク、急いでるんだよね〜。邪魔しないでくれるかな?」 アカ本人もよく分からぬことであったが、彼女はここから逃げ出したい気分で心が満ちていた。 一刻も早くこの場から去り、目的を達成してここから逃げてしまいたい。 しかしどう考えても、目の前のこの男を無視することは不可能である。 アカは人知れず、指の先から糸を出し、臨戦態勢に入っていた。 じっくり、確実に、目の前の脅威を解除するため。 「そうだなぁ、てめぇの首をチョンパする前に1個だけ質問があるんだ。」 男がアカの「首を切る」意志を見せたことで、アカは密かに右手の指に出していた無数の、見えないほどに透明で細い糸たちを、男に向けて発射した。 男を包み込むように、横からふわりと。 いくつもの障害物の後ろに隠れるようにして展開されたその糸は、男に向けてヒュッと寄り始めた。 目隠しとしていた障害物に糸が触れると、その「物」は全て、糸に触れた部分で両断された。 上下左右四方八方、数え切れないほどに多く撒かれたその「糸」に触れたものが、一斉に崩壊をはじめる。 周囲の壁、柱、窓ガラス、電柱、地面など..............................全てのものが細切れにされたかのように倒れ、男に向けて迫る。 そしてそのガレキたちに隠れながら、鋼鉄程度のものであれば容易く切り裂くことができるその糸もともに。 「全く、僕のことを知らねえか....................いや、それともあのときから外見を変えすぎているから気が付かなかったか....................?」 男は、まるでこの攻撃を予知していたかのように落ち着き払った態度で話を続ける。 男は鞘に入った刀武装の取っ手をつかみ、しゃがみ込む。 「まぁ、名乗っても意味ねえか。依然としててめぇを殺す結末に変わりは無ぇ。」 「1、2、3....................」と、迫ってくるガレキの数と....................そして、迫ってくる鋭い切れ味を持った無数の糸たちの位置とおおまかな方向を確認する。 そして、鞘から僅かに刀を抜き、居合抜刀の構えをとる。 そして攻撃の構えを万全に完了すると、こう尋ねた。 「....................『楽園《シャングリラ》』って知ってるか?」 ----- 「..............................なるほど。」 アオは足を止めた。 背後から何やら人の気配を感じ取ったからだ。 距離にして100メートル未満、どこかに潜伏している。 そうアオは確信した。 (ここまでに会った馬鹿共とは雰囲気が違うなァ。) ここまでに遭遇した2人の隊員の血がついている爪を引きずりながら、辺りを見渡す。 しかし、すぐに振り向いては相手の思うツボの可能性があると、アオは慎重に視線を移動させる。 横から後ろへと、冷静に丁寧にゆっくりと視線を動かした瞬間。 パンシュンッ! 「ぐっ!!」 アオの右腕の半ばあたりを、鉛の塊が肉を貫いて通過した。 目にも止まらぬ速度で、消音器のつけられた銃による攻撃であると、アオは即座に理解した。 「手練だな....................ッ。」 それを皮切りに、位置を変えながら数十秒に1度のペースで弾丸が飛ばされてくる。 詳しい位置が分からないものの、おおよその位置がわかったことでアオは1発も当たらずに回避している。 「当たるか、こんなモノ!」 パシュン、パシュンとほとんど音をたてずに襲いかかる鉛の弾たちを、的確な動きで回避してゆく。 しかし、微妙にいやらしい位置をピンポイントで狙い撃ちしてくるその弾を回避するためには、後ろ側へ回避をしなければならない。 1歩後ろへ、もう1歩後ろへ....................。 その弾を避けるための的確な動き。 アオは後ろを見ていなかった。 否、見る余裕などなかった。 アオが弾を避けるためだけに前方を過剰なほどに警戒し、後ろへ回避行動をとる「正しい」選択。 アオを襲ったスナイパー....................リン・シォンガイは心待ちにしていた。 また1歩、さらに1歩、そして1歩。 そして、その扉の境界線を「超えた」。 ドシン! 「なにィッ?!」 アオの最後のバックステップを合図にしたかのように、アオの目の前で扉が閉められた。 場所は講堂。 アオは、高低差のあるところに閉じ込められる形で拘束された。 アオは目の前の扉のことを叩いたり蹴ったりを繰り返すが、防音を目的として設計されたその扉は、ちょっとやそっとのことでは中々壊れない。 「くそッ。俺はテトラと逆方向からモブ共を挟み撃ちにしなければならないというのに....................。」 痺れを切らしたアオは、扉の隙間に爪の刃を差し込み、その刃をさらに前方へ伸ばした。 そして、渾身の力で扉の片側を右側へ無理やり動かし、それこじ開ける。 ドン!という音とともに扉が空き、そして..............................。 ドォォォォォォン!!!!! 「ぐ、ぐおっ..............................。」 アオの腹を、とびきり大きいバズーカの弾丸が消し飛ばした。 地面に倒れ、しゃがみ込んだアロの前にその姿が現れる。 「お、女ァ....................!!!」 至近距離からバズーカを確実に当てるために、向かい側の寮のベランダから降りてきたリンの姿であった。 手にはベロキと一緒に戦う時に愛用している大型のバズーカが握られており、エアウォークを使って空中に浮いている。 「今からあなたを殺すわ。 ヒトガタなら、そのお腹くらい治して立ってくるでしょう?」 「黙れ。こちらのセリフだ雑魚女が....................!!!」 「でもね、その前に1個、うちの所長からの代理として質問をさせてちょうだい。」 リンが手を構えると、周囲に「タランチュラ」の糸のシルエットが現れる。 これはあらかじめ設置ポイントを指定していたため、すぐにできた芸当である。 そしてそのタランチュラの直線上には、一定の周期で「定形火薬《シェイプニトロ》」による爆破物が、数え切れないほどに設置されている。 リンに消し飛ばされたアオの腹の肉が何らかの要因でメリメリという音を立てて埋まってゆき、アオがなんの問題もなく活動できる状態へ戻る。 「『楽園《シャングリラ》』って知ってるかしら?」 「黙れ....................!!!!!」 質問に答えることなく自分の元へ突進してくるアオを見て、リンは迷いなく「定型火薬(シェイプニトロ)」の爆破を結構した。 その場にミサイルが落ちたかのような爆発音とともに、あたりの空間が衝撃によりボロボロに倒壊した。 ----- そして一方....................。 「ガハッ!!!」

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