鯣烏賊 / 第65話

不倶戴天の不協和音 その5

「あのクソアマ、次はどこに行った....................??」 アオの体のあちこちには、多量の穴が開けられていた。 その穴は全てもれなくリンの放った弾丸か体を通過したことによって作られたものである。 しかしどういうわけなのか、リンから弾丸を撃たれた直後にそちらの方向へ警戒を向けても、人の気配が感じられないのであった。 「ぐぶっ!!」 リンが周辺を巻き込んで大規模な爆破を起こした後にアオが周囲を確認すると、リンの姿はもうそこにはなかった。 そして、先程と同じように不可思議な方法で身を隠し、攻撃を続けている。 アオは立ち上がろうにも、別の方向から足を執拗に狙われる。 手を使って前進しようとすると、今度は手に攻撃を受ける。 あまり周囲を眺めすぎると、目の付近へ攻撃を受けてしまう。 リンは身を隠している時に、先程使用したあの高威力なバズーカ攻撃を行うことはできない。 よって決定打となる攻撃がなされることはない。 しかし、この状況が続けばいずれ自分か疲労し、脳と心臓の同時破壊を達成されてしまう。 そうアオは確信していた。 そんな状況で、次から次へと攻撃がなされている。 ただし、その攻撃が「なにか」を基準とした一定の周期で回っているものであると、アオは勘づいていた。 「右..........左斜め後ろ....................前方....................。」 先程のような方法で弾丸の出処を探ることを諦めたアオは、あえて体に攻撃を受け、攻撃の方向のみを探知する。 その間にもアオの体には穴が空いてゆくが、アオはその傷の付近の肉を彼の能力を用いて埋めてゆく。 約十数秒の時間間隔で飛んでくるその攻撃を受け続けながら、探知を続ける。 「順が決まっているな?」 アオは、リンが攻撃してくる方向の順番が決まっていることを導いた。 最初....................真に「最初」と言えるかはわからないが、アオの定義した最初の地点は、アオから向いて「左斜め後ろ」。 2番目は「前方付近」。 3番目は「上方」。 最後が「右方向」であり、その次は「左斜め後ろ」へとルーティンしている。 アオから見て、「左斜め後ろ」と「上方」は完全に死角となっている。 むやみにそちらへ振り込めば、自ら決定的な攻撃の隙を与える結果となりかねない。 そして前方は....................これもアオの感覚の偏見によるものであるが、わずかに「上」の方向よりダンガンが飛んできている。 向かうのには時間がかかるだろう。 「こちらだッ!」 アオは右方向の攻撃を感じた瞬間、右側へと大きく駆け出した。 移動の途中で肩の辺りに着弾したが、それでも構わず右側へ駆け出し....................おあつらえ向きに開けられている窓ガラスをぶち破った。 そこにいたのはリン本人....................ではなく。 「これは....................??」 前菜が乗せられる小さなお皿程度の大きさをした、円盤型のなにかであった。 「ぐっ!!」 しかし矢継ぎ早に....................「右」の次、すなわち先程の「左斜め後ろ」から攻撃が飛んでくる。 意識をもろにその円盤に向けていたアオは、先刻よりも深い傷をそこに負った。 「ええい、しゃらくさい!!」 我慢の限界で苛ついたアオは、その円盤を蹴り飛ばす。 カラン、と乾いた音を立ててそれは向こう側へ飛んでゆき..............................そして消えた。 「..........なぜだ?」 しかし、それを皮切りに一切の攻撃が止んだ。 先程のような、ルーティンによって繰り返されていた移動攻撃がぴたりと止まったのだ。 アオはゴクリと唾を飲み込み、緊張感を持って窓の外を観察する。 そこには、視界のほとんどを覆ってしまうほどに多量に設置された糸、タランチュラがあった。 まるで蜘蛛の巣のようにびっしりと、意地悪い配置で。 そしてその中心には、リンが立っていた。 「なるほど。俺は再び閉じ込められたってことか。」 意地の悪い女だ、とアオは思った。 ここでのこのこと出てしまうのは愚策である。 アオの身体能力を持ってすれば、5メートル程の距離に立っているリンを仕留めることは容易であろう。 しかし、自分相手に....................それも遠距離武器だけでここまで追い詰めてきたリンがそのことを予測していない訳はない。 おそらくまた、何かしらの「罠」が仕掛けられている筈であると。 そう、アオは読んでいた。 アオは爪の刃を最大の長さまで伸ばす。 そして全身に力を込めると、アオの筋肉が膨らまされた風船のように肥大化する。 まるで骨格ごと内部から変わってゆくように、アオの体のシルエットが一回り巨大化した。 「乗ってやろう!その策に!」 アオは窓から飛び出した。 常人なら目で追うので精一杯の速度であろう。 そして手頃な距離にある糸を掴むと、それの弾力をさらに推進力としてリンへ近づく。 リンはアオから見て10メートルほど上側である。 猿のような速さで糸をつたい、疾風のようにリンの方向へ向かうアオは、ものの数秒程度でリンの目の前へ到達した。 そして、リンの体へその爪の刃が届くかと思われたその瞬間。 「何ィィィッ?!?!」 さっきまでは何ともなかったそのタランチュラたち....................それも、アオの周辺のタランチュラだけがまるで、着火された火薬かのように熱を帯びてゆく。 そして、付近の建造物を巻き込む大爆発を起こした。 ----- テレポーター。 リンが対人戦の際に用いる補助武装だ。 4つのマーカーを任意の場所へ設置した時点で能力が使用可となり、好きなタイミングで自身をそのマーカーの地点へと移動させることができる。 1度使ったマーカーは10秒の再使用時間《リキャストタイム》を経て使用可能となるため、たとえば、短時間で何度も繰り返して使用する場合は、必然的にルーティンを辿るような動きとなってしまうことが弱点である。 上記の弱点を見破られるまでは極めて有用ないえ、さらにあえて相手の動きを誘発させることで自分に有利な展開を作り出すことのできる、"玄人向け"武装である。 リンは、アオを講堂に閉じ込めていた約1分の間に先程の位置へとこのテレポーターのマーカーを設置し、出てきたアオをバズーカで貫き、付近ごと爆破した。 あの爆破には、アオに再生させることで時間を確保させること以外にも、あえて複雑な障害物を増やすことでアオがマーカーのある方向に気づくタイミングを遅らせる意図があった。 この目論見は大成功。 おかげでリンはテレポートをする際にその糸....................タランチュラではなく、極めてタランチュラへと近い状態に整形した「不定形火薬《フリーニトロ》」を設置した。 なお、講堂前に大量に設置したタランチュラのなかに付属していた不定形火薬《フリーニトロ》も、全てそう見させるために加工した不定形火薬《フリーニトロ》である。 不定形火薬《フリーニトロ》は使用者の好きなタイミングで実態化させることができる。 アオが右側のマーカーに気を取られているうちに全ての不定形火薬《フリーニトロ》を顕現させたリンは、あえてその中心部へ姿を表した。 是が非でも下から上がってこなければならないアオから見れば、リンの場所に対する印象はせいぜい「上にいる」程度のものとなる。 よって、リンがエアウォークで少しずつ上に登ることに、アオは気が付かなかった。 リーチの長い刃を伸ばせば攻撃が届いてしまうことも、アオがこのことに気づかなかった原因と言える。 ともかく、リンはアオを巻き込む大爆破から1人だけ逃れ、バズーカ発射の体勢をととのえる....................つもりだった。 「嘘でしょっ..........?!」 「俺を舐めすぎだァ、このマセガキ女ァ!」 アオはいとも容易く爆破から脱出し、リンを蹴り飛ばした。 講堂の2階内部へ叩きつけられたリンは立ち上がろうと全身に力を込めた。 しかし、全くのノーダメージであったアオがリンのところへ達する方が何倍も速かった。 「かっ....................!」 「そのオモチャだけで俺を追い詰めたのは褒めてやるよ。だがあと一歩足りなかったな....................!!」 リンは手に不定形火薬《フリーニトロ》を生成し、自分もろともアオを巻き込もうと画策する。 しかし、それに気がついたアオはリンの手首を抑えて、手首を握りつぶした。 「ひっ....................!!!」 「痛いか痛いか、そうだろ? さぁこれからじっくりゆっくりテメェを痛ぶってやる....................。 お、よく見りゃテメェ、なかなか良い女じゃねえか。 ぐへ....................その体好きなように使って....................。」 「やめて、離しなさいよこの変態....................!!!」 「ぁぁ?!生意気なガキだなぁ。逆らえないようみっちり好き勝手してやる。」 アオがリンの服の..........ちょうど胸あたりに爪を当て、少しずつ下に引っ張ってゆく。 リンはその手を抑えて必死で抵抗するのだが、それでももとの「馬力」の差は歴然である。 しかしそんな時に、「ギィ」と扉が開く音がした。 「はァ?誰だンな時に。」 しかし、扉の前には誰もいなかった。 もう一度言おう。 扉の前には誰もいなかった。 「ガントレット:バースト。」 どうっ、という衝撃音と共に、アオがはるか向こう側へ飛ばされた。 壁にミシミシと亀裂が入るほどの衝撃で、アオが打ち付けられる。 「....................っ!!」 「君は....................ミクロのところの部下だったか?」 「あ、あなたは..........。」 「君では分が悪かったろう。この場は俺に任せてもらう。」 トケラ、降臨。 ミクロが太鼓判を押すその実力や如何に。

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