鯣烏賊 / 第7話

殺し屋、娑婆へ舞い戻る その5

翌日。 ミクロさんは不在、やることも無いので暇。 家事くらいやれよとか言われるかもしれないけど、俺が起きた時には綺麗さっぱり全部終わっていたんだから仕方ないじゃないか。 だって部屋から出てきたら掃除機をかけているリンさんに出くわしたんだ。 俺がやることなんてないに決まってる。 あまりにも暇を持て余していた俺は、今いる応接室の本棚に何かないか探した。 端の方にあるのは、怪獣討伐とは関係のなさそうなジャンルの「生物学」「地質学」とかの本。 その隣から下の段にかけて、20冊以上の「歴史」に関する本が立ち並んでいる。 その下にあるのは、剣と魔法が活躍するファンタジー(多分)小説全32巻と、それのコミカライズ版16巻。 そしてなぜかホラー映画のDVDがたくさん。..............................なんでこのイマドキにDVD??? 本棚は向かい側の壁にもうひとつ設置されていて、俺はその本棚を物色する。 上から、怪獣討伐理論....................怪獣を倒すための「武装」の取り扱い説明書が20冊あまり。 うわあ....................1冊100ページくらいあるんだけどこれ。 その下の方に目を向けると、でかでかと安っぽいフォントで書かれた 【ビギナー向け!超簡単な武装たちを紹介!100種類以上を記載!】 の背表紙を見つけた。 分厚さも100ページあるかないかくらいの薄いサイズ。 裏にはひっそりと見える「訓練機の付録につき、非売品」の文字。 いわゆる、カタログだろうか。 中を開いてみると、本当に最低限のことしか書いていないみたいだけど、これだよこれ、これでいい。 俺はビギナーだからね。 「こういうのだよ、こういうの。」 俺は近くにあった椅子に腰をおろすと、その本を読み始めた。 最初の内容は遠距離武装についてだった。 超簡単の名の通り、ほんとうに簡単だ。 簡単に、射程、使用法、おおまかな威力、そして値段、販売ページへのQRコードだけが書かれている。 最低限のことしか書いていないけど、わかりやすいしサクサク読める。 俺にはこんなので十分だ。 おかげで、正直まともなものを持つ気にはなっていなかった遠距離武装についての知識はこの時間てかなり増えていた。 次に書かれているのは近距離武装だった。 少し読み進めると、昨日俺がもらった武装と全く同じものを見つけたので、取り出して今装備している武装を調べることにした。 中型コスモ制御装置(※) スロット数:6 アナタのコスモ耐性:10 スロット1→排反柄 スロット2→ファルシオン スロット3→トライデント スロット4→タランチュラ スロット5→通信機 スロット6→空きスロット さて、上からコスモ制御装置。 これがないと武装は使えない。 次にスロット数。 これはこのコスモ制御装置が何個の武装に接続できるかを表してる。 武器によっては2スロット分のメモリを食う場合もあるみたいだ。 次にコスモ耐性。 これはざっくり、「一度に使えるコスモの量」を表す。 値が多いほど、一度に使えるコスモは多い。 15歳を越した男性の平均値が「12」なので、俺はそれよりも少し低い、ということになる。 だから、そんなに大きな攻撃はできない。 次は武装たちを見て行こう。 まず、これはミクロさんにおすすめされるがままに手に取った「排反柄」。 性能は昨日に教えてもらったけど、一応調べてみようか。 んーと、索引から調べて..............................あったあった、排反柄。 変形機構を搭載した柄で、刃武装を2つ装備できる..............................販売元はどうでもいい。 商品名は排反柄だが、種類の名称としては「多機能グリップ」というらしい。 俺が装備したのは、長さも強度も切れ味もとがりのない性能をした中長剣、そして迷ったすえに射程の長い鋭槍を装備してみた。 変形は....................ここか、ここをグイッて押すと。 かしゃん、かしゃんという音とともに短かった剣の持ち手が長くなっていき、槍の持ち手になった。 「へー、なかなかイカしてるじゃん。」 さて、次だ次。 縄。 俺は縄を手から出現させてみる。 音もなく、俺の手から黄色に光る縄がでてきた。 この縄は、所有者のコスモ耐性によって弾力と長さが決まるらしい。 そしてこの縄の先端はとても「なめらか」に加工されているので、どんな物質だろうと張り付くことができる。 嘘ついた。ラップには貼り付けないらしい。 なかなか便利そうじゃん。 そして通信機。 まあ、これはその名の通りの通信機だね。 なんの変哲もない通常モデル。 税込で120ドル(※2)もしない安いやつだ。 そして残りひと枠は空きスロットのままにしている。 この空きスロットにはいずれ届く「アレ」を接続しないといけないからね。 さて。 このカタログにはまだまだ沢山の商品..............................および武装が書かれている。 割引のおしらせとか、おまけの商品とか、抽選のページばかりでうるさいけど、右も左も分からない俺には参考になる。 よーし。 このまま最後まで読....................。 「ねえベロキ。」 リンさんが俺の肩を叩いて尋ねてくる。 「ベロキ、武器持ってるよね?」 「え、うん持ってるけど.......................ひょっとして戦闘?」 俺の返答を聞くと、リンさんは俺の手を引いてドアを壊すくらいの勢いで外に飛び出した。 そして、リンさんが階段の外側に垂れ下がっている縄ばしご(たぶん違法じゃないかなこれ..............................)を使って、事務所の入っている雑居ビルの屋上に向かう。 俺もあとを追い、建物の2階である事務所から、3階、4階と通り過ぎていき、4階の上の屋上にたどり着いた。 「向こうね。」 「あ、うん。」 事務所の近郊は決して高い建物がある訳でもなく、かといって低い建物だらけでもないので、事務所のビルの屋根に登ればあとはかなり楽に移動できる。 リンさんが空中に足を踏み出すと半透明の床みたいなものが現れていく。 浅瀬の池を歩いた時に波紋ができるような感じだ。伝わるかな。 たぶんあれは、さっきのカタログをざっと読んだ時に見つけた「エアウォーク」だろう。 たしか、エアウォークの電源をオンにしている間は、空中に足を踏み出したときに自動で足場を作ってくれる補助系統の武装だ。 いいなあー、便利そうだなー、とか思いながら、俺も縄を使って壁や標識を伝いながら移動する。 左腕と右腕に括りついている武装は、それぞれ長射程のスナイパーライフルと、超火力のバズーカだと思う。 たしかあのタイプの武装は、電源を入れて合図をすると、小さい箱のような状態から、銃やバズーカのような形に変形するのでコンパクト..............................と書いてあった。 両方の武装は射程や破壊力ともに、使用者の込めるコスモに比例する。 つまりコスモ耐性に依存しているわけだ。 あれをわざわざ使うってことは、きっと威力に相当の自信があるんだろう。 腰には爆弾を括りつけていて、気休め程度にナイフも持っているみたいだ。 ナイフはなんの変哲もないサバイバルナイフだ。俺も使ったことある。 俺は縄をさらに取り出し、縄を使って移動してリンさんとの距離を詰めて追いつこうとする。 ふと、リンさんが立ち止まった。 ので、俺も後を追うように立ち止まる。 リンさんが立ち止まった先には、目の前には全長10メートルはあろうかという巨体で、いかにも「毒があるよ!頑張って避けてね!」と伝えてくるような尻尾がついている虫..............................一般的にカマキリと呼ばれる生物がいた。 (うわぁ..............................何あれキモ。) 紫色の見た目は闇に溶け込む(現在時刻20時)から、夜行性なのかな、たぶん。 目は光を反射しているからか真っ黄色に光っている。 人の声は聞こえなさそうだから、俺たちがここにたどり着くまでの間にもう避難は終わってるんだろう。 それにしても大きい。 カマキリといえば指の上に乗るアレだけど、比にならない。 長さは10メートルあるかな....................うん、あるね。確実に。 高さも4メートルくらいある。 あの鎌で引っ掻かれたら。 考えたくもないね。 とにかく、相手の容姿にケチをつけてもしかたないので、早速行動を始めることにしよう。 俺は手短に質問した。 「それを見るに遠距離型だよね?」 「うん」 あのバズーカやスナイパーライフルはそう何発も連続で攻撃できるものじゃない。 よし。 俺は腰から排反柄を取り出し、排反柄の電源を入れる。 柄の先端に空いた細い長方形の穴から、結晶化したコスモが飛び出して刃を形成する。 本来ならば相当な重量であろう長さの剣だが、コスモ刃は重さなど無いに等しいので、柄のみの重さとなりかなり軽い。 その場で少しストレッチや軽いジャンプなどして体を慣らした俺は、その場から飛び出さんと姿勢をとる。 脚に力をこめ、片手で地面を押さえる。 クラウチング・スタートのような体勢だ。 「じゃあ俺が陽動するから攻撃お願い!」 踏み込んでから大跳躍。 雑居ビルの屋上とはいえ、高さは15メートル弱。 空中で飛び降りながら剣を縦に構え、狙いを巨大カマキリに定める。 しっかりと位置を調整し、ちょうど剣の先が腹部のあたりに食い込むようした。 そのまま、思いっきり重さを乗せて刃を食い込ませる。 腹部に剣を刺している俺は背中に乗っているような状態だ。 そんな中、ふと横に気配を感じて視線を向けると、巨大な鎌が目の前にあった。 「あ、あっぶな!」 攻撃を受けた巨大カマキリは、刃を刺してしがみついている俺を振り落とそうと抵抗を始める。 鎌を背中に回し、足をジタバタさせ、ガムシャラな動きで背中に張り付く異物を落とそうとしている。 堅牢な甲殻の隙間を上手いこと狙って刃ごと体を雑に固定させた俺は、相手の体にしがみついて、鎌での攻撃を避けながらカマキリの振り落とし攻撃に耐える。 その拮抗状態を解除したのは、リンさんの砲撃だった。 《ギシャァァァァァ!》 ミサイルでも着弾したのではというほど大きな音が巨大カマキリを怯ませる。 俺も隙をついてから剣を抜き、巨大カマキリから離れる。 砲撃の痛みに耐える巨大カマキリは、悶絶しながら暴れ回る。 まあ、暴れ回ろうが範囲外に逃げれば良いので、俺は巨大カマキリから距離をとってリンさんと話せる位置まで行こうとする。 が、耳元に付けた機械からリンさんの声が聞こえた。 «ベロキ、マンティス陽動ありがとう!もっと続けて» «オーケー。» 手短に通話を終えると、痛みから復帰したカマキリが鎌で俺を攻撃しようとしてくる。 けど....................遅くなってる。 鎌の攻撃の軌道を丁寧に読み、対応する位置に剣を置く。 攻撃を剣で弾き返し、懐に潜り込む。 「平気なフリしてるけど、痛いでしょソレ」 そして巨大カマキリ..............................もといマンティスの懐に潜り込んだ俺は柄を操作して変形させる。 ボタンを押すとカシャカシャと音がなり、排反柄に亀裂が入る。 それを合図に、俺は一瞬、排反柄から手を離した。 亀裂の中から光が現れると、その光の部分を起点に排反柄の長さが大きく伸びる。 俺は伸びた排反柄を手に持ち、起動。 「串刺しにしてあげるよ....................っ!」 伸びた排反柄から出てきたのはさっきみたいな剣ではなく、30センチないくらいの小さな刃。 でも、持ち手の柄が何倍もの大きさに伸びているので、リーチは長くなった、 そして、俺は刃を上向きにし、マンティスの隙だらけで如何にも柔らかそうな腹にブスリと突き刺した。
※ これの解説をここでしよう!と目論んだものの、文字数が多くなりすぎることに気が付きました。 サブページみたいなのを近々つくるので、そこで解説しようとおもっております。 ※2 1ドル=120エン程度の相場

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