夏々湖 / 第4話

ベテラン婦警 幸田詩琳(前編)

『以下のもの、海上自衛隊 第一術科学校への出向を命ずる  |幸田詩琳《こうだしおり》巡査』  知ってた! そろそろなんか来るだろうって知ってた!  幸田詩琳、自称婦人警官。  高校卒業と同時に県警察に合格。警察学校卒業と同時に何故か警察庁へと所属が変わり、さらに何故か陸上自衛隊に出向となった。  以来、自衛隊と警察庁を行ったり来たりしながら十数年。先日ふと気がついたが、警察にいる時間より自衛隊に出向してる時間の方が圧倒的に長い。 「けどまぁ、しがない公務員だもんなぁ」  ぼやきながら辞令を受け取り、出向準備を整え始める。と言っても引き継ぎ業務なんて、全くない。  |濃緑色《オリーブドラブ》のダッフルバッグ一つに、必要最低限の荷物を詰め込んでいく。  詩琳だって女の子である……女の子? あれ? もう三十過ぎてるじゃんっ!  えー、妙齢の女性である。男性の五割増ぐらいで荷物は増えてしまう。化粧品だって迷彩ドーランだけと言うわけにはいかないし、高価なワイヤーブラは無理でもスポブラあたりは持っていかないとならない。  生理用品一式だって場所を取る。  あとは愛用の|コンバットナイフ《ファルクニーベン》と|ピストル《U S P - C》を詰め…… 「まてまてまてまて、武装はせんでよろしい。と言うか、せんでくれ」  仕方ない。|ピストル《U S P - C》は諦めた。ナイフは大型のA1ではなく、中型のS1に入れ替える。ファルクニーベン社はスウェーデンのナイフメーカーである。スウェーデン空軍で制式採用されている以外にも、数年前からはアメリカ海兵隊とアメリカ海軍でも使われている。   「まぁ、これ一本あれば習志野駐屯地のお姉さま相手以外ならなんとかできる……気がするしね」  何をなんとかするんだよ……そんな物騒な婦人警官いねーよっ!          ♦︎    海上自衛隊、第一術科学校。  広島県の江田島にある教育機関である。  詩琳の古巣である第一空挺団には多数のフロッグマンが所属しているが、彼らも皆ここで訓練を受けたそうだ。 『古巣じゃありません』  いや、だって一番長くいたとこって? 『習志野ですけど、空挺と特戦で半々だからノーカンです』  そんな理論は聞いたことない。 「わたしの移動はこちらでするようですか?」 「厚木までは局の車で送らせる。厚木からは海自さんの指揮下に入ってくれ」 「了解しました。じゃ、行ってきますね」  警察庁のある霞ヶ関から海上自衛隊厚木航空基地まで、首都高から東名高速を通り小一時間。この時間は渋滞少なめなので、そんなに大きくは遅れないだろう。  ハンドル握ってくれた若い局員に投げキッスを送りながらミニバンから降り、荷物を担ぎ上げて正門前に立った。  正門はアメリカ海軍と海上自衛隊の二つが並び、その間は警衛室によって仕切られている。  正門向かって右側の、自衛隊側の歩哨に声をかけると、その場で問い合わせをしてくれた。 「すぐに迎えが参ります。しばらくお待ちください」 「ありがとうございます。助かりますわ」    そのまましばらく談笑しているところに、業務車一号がやってきた。自衛隊ナンバーをつけたライトバンだ。どこの基地、どこの駐屯地に行ってもこいつだけは必ずある。 「お待たせいたしました、基地司令部までご案内いたします」  あらあら、これは司令官のところへご挨拶にいかないとダメなパターンだ。  詩琳は基本的に警察庁から預かる客人扱いがスタート地点なことが多いため、このパターンが多い。というか、必ずそうなっている。  ただ『幸田さん』が『詩琳さん』になって『詩琳ちゃん』になるまで、一週間もかからないのが謎過ぎた。  今日はご挨拶のみで飛び立つから、そんな事は無いはずだが…… 「これはこれは初めましてかな。第四航空群司令の高遠です。よろしく、詩琳ちゃん」  秒速で詩琳ちゃんだった。解せぬ。 「去年まで呉にいてね、一時期、毎日空自のT-3練習機の撃墜報告が……」 「す、すいませんでしたっ!」  腰を90度折り曲げて、コメツキムシのように平謝りすることになった。  詩琳は数年前、航空自衛隊防府北基地において、固定翼機の操縦士課程を受講していた。  この時、教官の指示に従って海上自衛隊の艦艇に向けた攻撃行動を、毎日毎日繰り返し行っていたのだ。 「何故警察官が雷撃訓練するんですか〜。だいたい、魚雷なんて対潜哨戒機にしか積んで無……あ〜れ〜」  来る日も来る日も急降下、来る日も来る日も匍匐飛行と、散々鍛えられた時のお相手がこの…… 「いやいや、幕僚本部からよしなにって言われてたからね。謝る必要はないですよ。それに、うちの連中もキルマーク付けて喜んでたし」  訓練とはいえ、三十回以上の撃墜判定を受けた詩琳である。 「って、幕僚本部から? うー、うちから無理言ってたのかもしれません……すいませんすいません」 「まぁまぁ、また鍛えてやってくださいな。次は江田島でしょ。岩国経由ですぐ送り届けますから」  こうして、すぐに|駐機場《エプロン》へと案内された。  用意されていたのはLC-90型ターボプロップ機である。この機体は双発の多目的機で、少人数の人員移動や少量の貨物輸送に使われることが多い。 「良いなぁ。わたし、固定翼はレシプロ単発しか持ってないんですよね。タービン運転してみたかったなぁ」  固定翼はレシプロ単発限定だが、回転翼はタービン双発を飛ばせる詩琳であった。  この時も栃木の山の中で、ひたすら匍匐飛行の訓練をさせられた記憶が沸々と…… 「では出発します。二時間弱で到着予定です」  二機のターボプロップエンジンが唸り始める。 「はい、お願いします」  LC-90は滑走路の北の端にラインナップし、離陸許可が出るとすぐさま離陸滑走を始めた。  高度を上げていくと、すぐに相模湾が見えてくる。まっすぐ南下を続け、江ノ島を左手真下に見たところで高度を上げながら右にターンしていく。  後席に座った詩琳は、窓から下方の景色を眺めながら斜め前に座る隊員に話しかけてみた。 「岩国の新滑走路はどんな感じですか?」  岩国基地は周辺地域の安全のため、滑走路を沖合に新設する工事を進めている。 「あと二、三年で出来そうですけどね。結構形にはなってますよ」  埋め立てては土地を寝かし、舗装しては土地を寝かしと、不安定な地盤の埋立工事は難航したらしい。  |右手前方下《みぎてぜんぽうした》には富士山があるはずだが、今日は雲の塊しか見えない。  詩琳は、陸上自衛隊富士学校で死ぬほどシゴかれた日々を思い出し、軽く頭を振った。  離陸して一時間、懐かしい瀬戸内海が見え始めた。行き交う船と、島々と、流れる潮と護衛艦。  護衛艦を見ると、反射的に背面に入れて急降下したくなってくる……いやいや、それ普通の婦警じゃないからやんないしっ!  そんなモヤモヤした感情を持て余している間に、LC-90は高度を下げ始めた。間も無く岩国だ、手前に江田島が見えるはず。詩琳は少し、窓に近づき、頭をぶつけた。  海軍機っぽく叩きつける様な着陸ではなく、至ってスムーズな着陸を見せてくれた操縦士が、もうヘリコプターが待機していると教えてくれた。  詩琳はお手洗いの場所だけ確認して、ここまで運んでくれた厚木の自衛官三人に御礼を言う 「ありがとうございました。楽しい空の旅でした」 「いえいえ、こちらこそ詩琳ちゃん運べたとか、隊内で自慢できちゃいますから」  いや、どんな自慢だよ。あれか。詩琳運んだのに落ちなかったとか、そーゆー方向性の自慢……  どうも、芸能人乗せて飛んだレベルの自慢らしい。公安の警察官が有名人扱いとか、それってどうなんだろうか。  三人に別れを告げ、エプロンからとてとてと歩いているところに、ここでも業務車一号が近寄ってきた。 「幸田巡査でいらっしゃいますか?」 「はい、幸田です。お世話になります」 「すぐにヘリまでご案内します。お乗りください」  ヘリパッドまではすぐだった。見慣れない色使いのOH-6Dが離陸準備している。 「うっわ、OH-6……わたし、この子運転できるんですよ」 「ははは、今日は操縦士が別にいますから、お客さんとして乗ってください」  車を降り、荷物をかついで頭を下げ、ヘリに前方から近づく。まだローターは回ってないがヘリコプターに近寄る時の鉄則である。  ドアを開け操縦士にご挨拶。 「警察庁の幸田巡査です。本日はよろしくお願いします」 「第三十一航空群司令の橋本です。よろしく詩琳ちゃん」  何故っ⁉︎  なんで基地司令がヘリコプター飛ばそうとしてるのっ⁉︎  (いやいやいや、おかしいでしょ? 確かここの群司令って海将補でしょ? ヘリどころか、車の運転だって運転手がつくんじゃないの? なんでよそからのお客さんの送迎タクシーみたいなノリでヘリコプター飛ばそうとしてんのよっ!) 「し、司令自ら操縦されるのでしょうか?」 「今年の分の技量維持飛行時間が足りてなくてね。噂の詩琳ちゃんのお話でも聞きながら飛ぼうかと思って」  いやいやいやいや、どんな噂だよっ!  って、だいたいわかってるわよっ! 何言われてるかっ!  一人ノリツッコミを脳内で繰り広げつつ、ヒクヒクとした笑顔で光栄ですわとか何とか言って、荷物をOH-6の後ろに積み込む。 「いやね、T-5で訓練してた奴らから散々聞かされてましてね、詩琳巡査の伝説を」  どんな伝説だよっ! 「そ、そんな、わたくしなんて大したことしておりませんわ」  おほほほほ……微妙に似合わない笑い方だが、今は他に手がない。  そんなこんなで離陸許可がおり、海自色したOH-6が飛び上がった。    岩国から江田島なんて、ほんの二十キロしかない。上がったと思ったらもう降りるような距離だ。 「それじゃ、また岩国に遊びにきてください。いつでも、大歓迎しますから」 「は、はいぃ、その時はよろしくお願いします……」  この橋本海将補、かなりグイグイ来る人みたいである。詩琳がちょっと押されてる。 「見えてきましたねぇ、ヘリパッドはどこかしら……」  江田島の学校が見えてきたが、ヘリコプターの離着陸場を示すHマークが見当たらない。 「あはは、場外離着陸申請も出してないんで、適当に降りちゃってください。着陸はさせないんで」  あはははははと、朗らかに笑う橋本海将補に対して 『空挺かよっ!』  ってツッコミたくなるが、自衛隊相手だと突っ込むだけ無駄だなぁ? って気がして力が抜ける。 「はぁ、わっかりました」  そのまま高度を落としたOH-6は、地上1mほどの場所でビタッとホバリングを開始した。  あまり風はないが、それでも無風ではない。暴れる護衛艦の|後部甲板《スターンデッキ》に着艦するのと比べたら、動かない地面の上なんていくらでも止まってられるのかもしれない。 「海将補、上手ですねぇ」 「十五年前までは|SH-60J《ロクマル》で対潜哨戒やってたんですわ」  はっはっはと笑いながら、それじゃっと首と目で挨拶してくる橋本海将補。ホバリング中のOH-6は手放しとか無理だ。 「送っていただいてありがとうございます。また遊びいきますね」  ドアを開け、ダッフルバッグを先に落っことす。ドアから身を乗り出し、|橇《スキッド》に足をかける。 「ではっ!」  振り返り気味に挨拶をして、飛び降りる。わずか1mの高さであっても、油断せずに五点接地。コロリンと転がって衝撃を逃す……逃し……スーツがぁっ!  いやもう、身体が勝手に反応するのも良し悪しである。今日は戦闘服着てなかった!  広いグラウンドの中央付近に降りた詩琳は、海将補に向けて手を振った。  海将補は頷き返し、コレクティブレバーを引き上げ大空に帰っていく。  正面に見える古めかしい大きな建物から数人の男性が駆け寄ってくるのが見えた。  いきなりグラウンドにヘリボーンされたら、そりゃ驚くだろう。  学校長には話を通してあると言っていたが、下には伝わってなかったのかもしれない。  まぁ、とりあえず叫んでおく。 「本日からお世話になります! 警察庁より参りました幸田です。よろしくお願いします!」          ♦︎ 「はははは、橋本さんはなぁ、あんな人だから……」  案内された校長室で着任の挨拶をすませた。学校長の海将補と苦笑いしながら橋本海将補の話をした。  橋本海将補は防大の一期先輩だそうで、学生時代からあんな感じで変わっていないらしい。 「では、これからしばらくお世話になります。よろしくお願いいたします」  こうして、江田島での新生活が始まった。  と言ってもここは自衛隊である。基本は走って走って、走り回……え? 泳ぐ? 泳いで泳いで、泳ぎ回る?  レンジャーと空挺で鍛えられた詩琳さんを舐めないでください。あそこは泳ぎも叩き込まれ 「まだまだ遅いな。よし、特訓だっ!」  50m自由形を32秒以内、平泳ぎを40秒以内で泳げと……それって、めっちゃくちゃ速い気がするのは気のせいかしら? 「気のせいだから、泳ぐっ、ファイっ!」  到着翌日から、ひたすらひたすら泳がされた。これでは婦人警官ではなく、イルカか何かになってしまう。 「教官殿っ! ここはイルカの学校か何かなのでしょうかっ⁉︎」 「船乗りの学校だよ」  それにしても敷居が高すぎないかなぁ? なんて思う暇もなく、プールに放り込まれる、あ〜れ〜、だばーん!  それでもそこは詩琳で有る。レンジャー、空挺、特戦と、並の男性ではクリアできない高い目標を全てクリアしてきた化け物なのだ。  無駄な動きはどこなのか、足りない部分はなんなのか、ひとつひとつ潰していき、二月も経つ頃には…… 「だぁっはあっっはぁっはぁっ」 「よし、幸田詩琳巡査、合格っ!」 「ぶはぁっはぁっはぁっはぁっ」  この自由形32秒、平泳ぎ40秒というのは、二十九歳以下の男性隊員の基準だと聞いて 『ああ、またか』  としか思えなくなっている詩琳さん、なかなか狂い始めている。 「これで詩琳ちゃんはスタート地点に立てたわけだ、がんばれ」  これでスタート地点なのかよっ! なんてことを思ってる暇もなく、次の過程へと進んでいった。  と言っても、座学は先行で行っている。そう、今回詩琳が海上自衛隊に来たのは潜水士の訓練を受けるためである。  すでに地を這い、空を舞っている詩琳だが、水の中はまだ管轄外となっていた。  レンジャーも空挺も、陸自の中では最強の水中訓練を行うが、やはり陸上自衛隊の訓練なのだ。  実際、空挺団には潜水士も所属しているが、彼らも全員ここで訓練を積んでから陸自で任務についている。  潜水士の任務もいつも危険と隣り合わせだ。エア残量、機材故障、水中ならではのパニック、そして減圧症。  それぞれの対処法、ならないための知識、機材の点検整備を叩き込まれた上で、ダイビングプールに連れて行かれる。    ここに来た初日に採寸したため、ぴったりサイズの潜水具一式が用意されている。  と言っても、所詮自衛隊色。おしゃれさとかミリもかんじられない色使いだ。  装備を自分で付け外しできるようになると、プールで実際のスクーバ訓練が始まる。  現在、この基地には女性潜水士が所属していないために全ては男性基準で叩き込まれていくが、どうせ詩琳にとってはいつものことだ。  今までも 『女性自衛官には許されていない訓練だけど、自衛官じゃないからいいよね』  と、飛行機から蹴り落とされたりしていたのだ。  ひどい時には 『自衛官がやったら大問題だけど、民間の警察官だから問題ないっしょ』  と、紛争地帯に送り込まれたりもした。その時に比べたら、直接鉄砲で撃たれないだけ、こちらの方がずっとマシじゃん? とか、思いながら訓練についていく。  しかし、スクーバの実地訓練は詰め込み訓練をすることは出来ない。一日に潜れる時間、回数、深さは厳密に決められており、これを超えることは固く禁じられている。  減圧症、又の名を潜水病。  高い圧力で血液に溶け込んだ窒素が、水面に上がるに従って圧が下がり血液内で気泡となってしまう。  実際に隊内でも、重篤な障害により公務災害で退役した方もいらっしゃるという。  その他の事故も少なくはないので、緊張した訓練が続いた。  緊張した訓練……あ〜れ〜、どぼーん! 「ほい、瀬戸内のこの流れに乗るんだよ。ただ、20より下に引き摺り込まれないようにな」  割とスパルタだった。  と言っても大事な大事なお客人……と言うか、隊内に多く棲息する詩琳ちゃんファンにより、見えないところで安全対策はきちんと行われている。  万が一想定外の水深にまで引き込まれた時には、何名もの潜水士による救出手順がマニュアル化されており、訓練船の後ろをついて回っていた。  瀬戸内海は潮の満ち引きによって、場所によりとても早い流れが発生する。  潮の速さが5ノットを超えるような状態だと、人は流れにもまれて流されることしかできない。  こんな状況でも、確実に生き残り任務を遂行するため…… 『いや、婦人警官の任務ってそーゆーのじゃないですよね?』  生き残るのは大事。 『まず、こんな状況になることがないですよね? 婦人警官って』  水底に集団登校の小学生が…… 『いるかーっ!』  そんなこんなで九ヶ月、普通の潜水士課程の倍以上の時間をかけて潜水技術を叩き込まれた。  水深40mまで潜れる海曹士特修科潜水課程を修了し、無事に潜水員徽章を授与され…… 『て、だからわたしは婦警なんですってばっ! なんでこんな迷彩服の上のワッペンばっかり増えていくのっ⁉︎』            ♦︎ 『以下のもの、陸上自衛隊 水陸両用準備隊への出向を命ずる  |幸田詩琳《こうだしおり》巡査』  あー、そっちかぁ……  てっきり、空挺の水中要員のためのスクーバ徽章取得だと思っていたのだが、新しく作られる海兵隊みたいな奴の準備で潜らされていたらしい。  そんなの自衛隊でやってくれ……とも思うが、自分に貼り付いている徽章の数を見ると、こき使われるのも仕方ないかな? と言う気もした。  沖縄県、キャンプ|瑞慶覧《ずけらん》。在日アメリカ海兵隊の中枢とも言える大きな米軍基地である。  詩琳はまず、ここで|米海兵隊《マリーン》による訓練を受けることになった。 『いや、婦警が海兵隊で訓練とか、言ってておかしいと思いません?』  だって詩琳ちゃんだし。 『騙されませんよっ!』  あ、マリーンの人は甘いから、|CH-53D《シースタリオン》とかサイクリック握らせてもらえるかも。 『行ってきますねっ!』  しごかれた。それはもうしごき抜かれた。沖縄のジャングルの中を這い回り、深夜の岩礁帯で上陸訓練を行い、自衛隊員より二回り大きい化け物と格闘戦を行う。  スクーバつけたままヘリから落とされ、基地司令部への侵入訓練も行った。 『この娘を叩き上げてくれ』  無茶な依頼を日本国政府から請け負った米海兵隊司令部だったが、叩けば叩くほどモリモリと仕上がっていくこの女性自衛官……っぽい女性は、たちまち大人気になった。  主に、教官たちに。  どこまで詰め込めるか試してみるが、とにかく食らいついてくる。最後には|第5武装偵察中隊《フォース・リーコン》が出てきて、毎日詩琳を連れ出して行った。 「|日本の女の子《ジャパニーズガール》ってのは、もっとお淑やかなんじゃないのか?」 「ってか、|模擬銃剣《ラバーバヨネット》一本で小隊全滅判定喰らったって……」 「シオリの出自部隊ってどこなんだよ。|特戦群《スペシャルフォース》でも|空挺部隊《パラトルーパー》でもないって言い張るんだ」 「|婦人警官《ポリスウーマン》だって自己紹介されたぞ。誰も信じてなかったが」 「だいたい何歳なんだよ。流石にローティーンじゃないよな? ハイスクールには通ってないのか?」 「いや、お前より年上だぞ」 「|No way《んなっ》⁉︎」  妙な評価を受けつつも、海兵の戦い方を学んで行った。    日本にはたくさんの島がある。その中にはさまざまな理由で、他国と領土を争っている島や戦略的に重要な島があった。  そんな島嶼部を防衛するためにこれからの五年間で作り上げることが予算決定した部隊『水陸機動団』。  今まで自衛隊では『待ち構えて防衛する』ことだけを訓練してきていたが、これからは『奪われた島を再奪還』するための能力も求められることになった。  アメリカ軍には古くからこの海兵隊と呼ばれる軍がある。  そう、部隊レベルではないのだ。アメリカは。  陸海空の連携などではなく、自軍の中で運用できる航空機、艦艇、そして陸上戦力。全てを兼ね備えた独立した軍隊だ。  その、世界最高の島嶼防衛軍の能力を吸収した詩琳は、名実ともに最強の教官となり水陸機動団へ…… 『ええい、まてまてまてまてぃっ! あたしゃ婦警よ? 何で最強とか、防衛とかそんな話が出てくるんですかっ! ちょっと多めに訓練しただけの普通の婦人警官! 良いですか? そこんとこ間違えないようにしてくださいねっ!』  そんなこんなで半年間。ほとんど休みなく日々の訓練をこなして行く詩琳であった。

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