おやまみかげ(・8・) / 第3話

第二話 護るのは世界? それとも未来?

 ♣︎   「今日はここで休もうか」  フォルの言葉に三人が頷く。  かつては栄えていただろう廃村が、今晩の宿となった。  各々明日の準備を整え、起こしていた焚き火の元へと集まる。   「あれ? フォルは?」 「素材が少し足りないからって、外へ取りに行ったぞ」 「それなら、僧侶の私も」 「フォルが一人でいいってさ。メデリ、疲れてるだろうからって」 「それは……彼も同じでしょうに」    旅を始めてから三ヶ月。  互いのこともなんとなくわかってきていた。 「もう、三ヶ月経つんだね〜」 「そうだな。あっという間だった」 「いろんなことがありましたね」  思い出話に花を咲かせていると、背後に視線を感じた。  すぐさまアルデオが臨戦態勢に入り、二人はその背後へと回る。 「敵かな?」 「いや、まだわからない。二人とも、気を抜くな」  くそっ、こんな時に戦闘か。  今はフォルもいないし、俺が二人を護りながら戦わないと。  緊張が走る中、メデリが杖を下ろした。 「……待ってください。あれ、子供ではないですか?」 「子供!? こんなとこに!?」  その言葉に目を凝らすと、確かに小さな人影が二つ。  とはいえ、魔族でないとも言い切れない。 「アルデオ、剣を下ろしてください」 「しかし……」 「子供であれば、出てきてもらわないと」  メデリの言うことは尤もだ。  だが、この状況で剣を下ろすなど——。  決断できずにいると、ルディアが口を開いた。 「なら、あたしが見てくるよ。それでもし魔族だったら、アルデオはすぐ戦えるし、危なくてもメデリが助けてくれるっしょ?」 「おい! そんなこと——」 「もし子供だったら助けないとだよ? 見捨てるの?」 「それでルディアが——」 「だいじょーぶ! あたし踊り子だよ? 回避は得意だかんね!」  前衛である自分が動かず、後衛であるルディアを送る。  下手をすれば命に関わることだが、メデリの覚悟も決まっているようだった。  ——やるしかない。  もし魔族でも、俺がすぐ踏み込んで盾になればいい。 「わかった。ルディア、俺の瞬発力を上げといてくれ。それなら何かあってもすぐ護れる」 「りょーかい!」  彼女が舞うと、身体の底から力が湧いてくる。  そのままルディアは、小さな人影に向かって駆け出した。  * 「やっぱり子供だったよー!!」  暗闇から、ルディアの明るい声が飛んできた。  俺もメデリも武器をしまうと、すぐさま彼女の元へと向かう。  そこには、まだ幼い少女と、その子を護るように立つ威勢のいい少年がいた。  二人の恐怖を解くように、メデリが優しく声をかける。 「こんばんは、私はメデリと申します」 「うるさい! お前らもどうせ妹を奪いにきたんだろ!?」 「そんなことはいたしませんよ。ご兄妹なのですか?」 「そうだ!! ファファは俺のたった一人の家族なんだ!!」 「そっか〜、よく護ってきたね! かっこいいぞ!」  ルディアが少年の頭をガシガシと撫でると、堰を切ったように泣き始めた。    こんな廃村に妹と二人——。かなり心細かっただろう。 「大丈夫だから泣くな泣くな! 妹はファファで、お前は?」 「ぐすっ……そういうお前は、なんて言うんだよ……」  鼻水垂らしてるくせに、ちゃんと男なんだなー。 「俺はアルデオ。はい、お前の番な!」 「レシ……」 「いい名前だなー! そこのイケてるねーちゃんはルディアだ」 「よろしくね〜!」 「……よろしく」  二人を焚き火へと連れ出し、ルディアが夕食を振る舞う。  食事も久々だったのだろう。ものすごい勢いで平らげていた。    お腹が膨れると、ファファはメデリの膝の上で寝てしまい、レシがぽつりぽつりと話し始めた。  ひと月程前、ここは魔族に襲われて廃村になったらしい。  親も村人たちも殺されたが、二人はなんとか生き残り、今日まで耐えていたようだ。 「たまに大人が来るんだ。他の子たちはみんな、そいつらと行っちゃった」 「レシたちはどうして行かなかったんだ?」 「ファファと、離れ離れになるって言われたから……」  魔族に親を奪われ、住むところがなくなった子供は孤児院へと送られる。  しかし、どこの院も常にギリギリで生活しているため、兄妹で仲良くというのもなかなか難しい話ではあった。 「そうか、お前にーちゃんだもんな! じゃあこれやるよ!」  アルデオは、ありったけの食料をレシに手渡した。 「いいの……?」 「いいんだよ! それならしばらく食うには困らないだろ?」 「ありがとうアルデオ!」  少年は深々と頭を下げると、妹を背負い去っていった。 「魔族のせいで、あんなちっちゃい子たちまで……」 「あぁ、さっさと魔王を倒さないとな」 「……本当に、それで解決するのでしょうか」 「どしたん? メデリ」 「食料はいずれ無くなります。そうなれば、結局あの子たちは生きていけない。目の前の困っている子たちを置いて、先に進むのが正しいことなのでしょうか」  メデリの言葉に、ルディアが火を見つめたまま静かに口を開いた。 「実はさ、レシたちみたいな子の居場所になるのが夢なんだよね。ご飯作って、歌って踊って。みんなが笑顔になれる場所を作りたいんだ」 「いいですね。私は子供たちに勉学を教えるのが夢でした。かつて自分が、孤児院でそうしていただいたので」 「二人ともすげーな! 俺なんて、故郷の村を護りたいぐらいしか夢ないのにさ。じいちゃんばあちゃんや、村の子供たちを護りたいんだよなー」  各々が秘めていた夢や思いを口にする。    ——勇者パーティに選ばれたからには、それを受け入れて成し遂げるべきだ。  そんな正義をかざす者は、三人の中にいなかった。   「あたしさ、正直——」    ♠︎ 「僕が外に出てる間に、そんなことがあったのか……」 「あぁ。だから俺たちはもう一緒には行けない」 「ごめんねフォル。あたしたちはこの村に残る」 「子供たちだけでは、暮らしていけないでしょうから」  まさかの三対一。  しかも、勇者である自分が一だなんて……。  でも、それでも僕たちは勇者パーティだ。 「じ、じゃあ、魔王討伐はどうする気なんだ!?」  きっとわかってくれる。  確かに目の前の子供たちも大切だ。  だけど僕たちが行かなければ、同じような思いをする子供たちが増えるだけだ! 「フォルは行くんだろ?」 「もし疲れたら、いつでも戻ってきてね!」 「ここから、フォルの無事をお祈りしております」  嘘、だろ……?  なんでこんなに、ここに残る意思が固いんだ……? 「でも、僕たちが魔王城へ行かなければ——」 「「「行きたい人が頑張って」」」  僕たちは、勇者パーティのはずだった——。 「じゃあ、気をつけてな」 「あたしたちは離れていても仲間だよ!」 「神のご加護があらんことを……」  しかし勇者を追放したので、もう魔王城には行きません!

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