おやまみかげ(・8・) / 第2話

第一話 勇者パーティに選ばれただけですが?

 ♠︎   「ねぇ、フォル……。悪いけど、もうあんたとは一緒に行けない」  魔王討伐に向けて旅を始めてから三ヶ月。  まもなく出発という時に、踊り子のルディアが突然そう言い出した。 「急にどうした? 何か気に触るようなことをしてしまったか?」 「気に触るとか、そういうことじゃなくてさ……」  じゃあどういうことだ?  何か不満があったのだろうか……。    勇者パーティのバッファーであるルディア。  常に場を盛り上げてくれる子で、何度その明るさに救われたかわからない。  そんな彼女に抜けられては、パーティの士気そのものに関わる。 「ルディア、考え直してはくれないか?」 「いや、悪いけどそれは無理だ」  勇者フォルの言葉を遮ったのは、戦士のアルデオだった。 「無理? アルデオはルディアが抜けてもいいって言うのか!?」 「そういう意味じゃなくてよ」 「今無理と言ったじゃないか!」  つい、語気が強くなる。    アルデオは仲間想いで面倒見のいい男だ。  同じ前衛でありながら、後衛の二人にも常に気を配る。  彼がいるから、僕は戦闘中に魔族のことだけを考え、戦うことができた。 「フォル、落ち着いてください。ルディアが抜けるわけではありませんよ」  空気が悪くなり始めたところで、僧侶のメデリが口を開いた。 「でも、もう一緒に行けないとルディアが」 「はい。もう一緒には行けませんから」  何を言っているのかわからない。  メデリは知識が豊富で思慮深く、パーティのまとめ役だ。  特に僕とアルデオは、何度彼女に治癒魔法をかけてもらったかわからない。  そんな知性溢れる彼女が、意味のわからない発言をすることが理解できなかった。 「なら止めないといけないだろう!?」  ルディアが首を横に振る。 「違うんだよ、意味がさ」 「意味が違う……?」  今度はアルデオが首を縦に振った。 「あぁ、俺たちには俺たちの夢があるんだ」 「私たち三人の意思は固まりました。ですので、多数決をもってあなたを追放します」    最後にメデリがそう言い放った。    * 「ちょ、ちょっと待ってくれるかい!?」  頭が追いつかない。  ルディアが抜けるのではなく、僕が追放される側?  僕たちって、勇者パーティのはずなんだが——。   「混乱させて悪い。でも、俺たちはもう行けないんだ」 「もう行けないってどういうことだい、アルデオ!!」  思わず、彼の肩を強く掴む。  ぶつかる視線からは、僕への嫌悪感ではなく罪悪感が滲んでいた。 「ごめん……。フォルが魔王討伐をして、親父さんの仇を討ちたいのもわかってる。でも俺たちには、行く理由がないんだ」 「行く理由がない……?」 「そうだ。行く理由がない」  アルデオは何を言ってるんだ?  僕たちは勇者パーティだ。  行く理由なんて、考える必要さえない。  魔王を倒し、世界の平和とみんなを護る。  その使命を全うする以外に何が必要だと言うんだ……! 「フォルってさ、夢ある?」 「夢?」 「うん。夢」  ルディアが急に話を振ってきた。    表情を見る限り、ふざけているわけではないだろう。  こんな時に、何故そんな質問をしてきたのかはわからないが……。 「僕の夢は、世界の平和を、みんなを護ることだ」 「……それってさ、夢なのかな」 「どういうことだ?」 「それって、フォル自身がやりたいことなの?」 「やりたいとかやりたくないとか、そういう話じゃないだろう? 魔王討伐は僕たちの使命だ!」  質問の意味がわからない。  僕の家は代々勇者の家系だし、これが役目なんだ。  僕たちがやらなければ、誰が魔王討伐を成し遂げる? 「ですが、私たちはそれを辞めたいのです」 「……辞めたい?」 「はい。私たちは勇者パーティに選ばれただけ。崇高な目標など持ち合わせていません」 「でも選ばれたからには——」 「それは、自らの夢を諦める理由になりますか?」  メデリが珍しく、僕の発言に被せてきた。 「夢って……。メデリの夢は魔王を討伐することだろう?」 「いいえ、違います」 「違う!? ならどうして勇者パーティにいるんだ!」 「先ほども言いましたが、選ばれただけです」 「でも選ばれたんだろう!?」  何故、選ばれた使命を全うしない!?  なんて責任感がないんだ!! 「選ばれたからって、やりたいとは限らないんだよ」 「ルディア! キミはなんてことを……!!」 「だって、あたしもやりたくないし」  やりたくない……!?  何を言っているんだこの二人は……!! 「だから言ったろ? もう行けないって」 「アルデオ! 今まで一緒に戦ってきたじゃないか!!」 「そうだな、それは事実だよ。でも昨日の夜、俺たちは気づいちまったからさ……」 「気づいた!? 何に!!」  アルデオは一つ大きなため息をつくと、はっきりと告げた。 「魔王討伐に行きたいのが、お前だけだってことに」

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