綿ダッコ / 第31話

第30話 お引越し

 俺は、荷物をまとめて、安良子さんのと一緒に、牛車に載せた。  舞子からの指示だった。  制服の入った風呂敷は奥底に入れた。  もし、見られたら大変なことになるからね。  色んなことがありすぎて、最近忘れかけてたけど…………。 ◇ ◇ ◇ ◇  それから、引っ越す次の日まで、舞子に仕えていた。  安良子さんは、列の中ほどの牛車に他の女房の人と乗っていた。  俺は、舞子の牛車の側で警備していた。  意外とスピードは遅いから、余裕でついて行ける。 「ねえ、雅道」  牛車の中から、舞子が話しかけてきた。  周りの音で少し聞こえにくかったけど、何を言っているかは分かる。 「何でございましょうか?」 「安良子とお付き合いをしているの?」 「…………え?」  それは突然のことだった。  思わず、立ち止まってしまった。  その間も、牛車は進む。 「何をしている?」 「あっ、すみません…………」  後ろの侍司に声をかけられ、我に返った。  …………付き合ってる!?  いやいや、隠しているとはいえ、俺と安良子とは未来人と助けてくれた人っていう関係。  |表面《おもてづら》でいうなら、ただの女房と元町人という関係。  家柄的にも無理やないかい!! 「ど、どうしてそのように見えたのでしょうか…………?」 「なんとなく、そんな感じがしたから」  そんな感じ?  他の人が見ている業務中、安良子さんと接した記憶はあんまりないぞ?  確かに、業務外では殆ど安良子さんとしか、接してないけどさ…………。 「なんて、冗談よ」  中から、笑い声が聞こえてきた。  その笑い声は、クスクスといった小さな笑いではなく、子供が楽しくて笑うような感じだった。 「そ、そうでございましたか…………」 「雅道も、反応がおもしろいわね」  その笑い声は、御所に着くまで続いた。  そのおかげか、この行列の雰囲気は和やかだった。    御所はとても立派なところだった。  帝天側であろうお出迎えも大層なものだった。  しかも、あちこちに見物人がぎっしりと我先にと言わんばかりに、この行列を見ようとしていた。  行列は、帝天の住む建物の前に止まった。  俺は、舞子と一子を抱えた和子さんを先頭に、次々と牛車から出てくる人たちを見送って、最後尾で歩き出した。  ここでの任務は、部屋の中でも入り口付近で警備をすること。  流石に舞子の近くは、帝天の侍司が警備するらしい。  まぁ、帝天に何かあったらあかんからやろうね。 「東宮舞子、ただいま御所に戻って参りました」  舞子が頭を下げたのと同時に、舞子側の全員が頭を下げる。 「うむ、ご苦労だった」  相変わらず無表情の一馬帝天はそれだけを言って、それ以上は何も言わなかった。  それを悟ったのか舞子と乳母が立ち上がり、それに続いてどんどん歩みを進めていく。  すると、舞子たちの後ろを歩いていた男の人が、突然立ち止まり、俺に先に行くようにと小さく合図を出してきた。  解釈が合っているか分からないけど、とりあえず舞子達の後ろを安良子さんと歩く。  安良子さんの様子は少しぎこちないように見えた。  多分、疲れだろう。  歩いた先の部屋は、やっぱり豪華だった。  むしろ、想像を超えるぐらいだった。  間取り的には、帝天の部屋の東側だった。  西側の対極には、八子たちが住んでいる。  俺たちは次々と運ばれてくる荷物をテキパキと配置した。  「内装はそのまま」と指示があったから、すぐに配置できた。 「皆、お疲れ様。今日はゆっくり休みなさい」  続々と退勤していく。  俺は安良子さんが倒れてはいけないと思って、近くを歩いた。 「安良子さん、お疲れ様でした」 「ま、雅道さんもお疲れ様でした…………」 「大分、お疲れじゃないですか?」 「牛車に乗っていたので、雅道さんほどじゃ…………」  安良子さん、大分やつれている気がする。  タイムスリップの時に逆戻りしている。 「何かあったら言ってくださいね」 「あ、ありがとうございます…………」  そういう言って、俺たちは分かれた。  荷物は、全部運び込まれていた。  荷物検査をされた痕跡もなさそうだった。  …………良かった。

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