綿ダッコ / 第30話

第29話 ここ、俺の部屋だよ!?

 「ありがとう、三人とも。今日はゆっくり寝てちょうだい」  部屋に戻った後、俺は今日あったことを、紙に記した。  ちょっと前から、日記を書くことにしている。  その紙は、制服と同じところに縛っている。  流石に稽古は辞めといた。  さっさと寝て、明日に備えよう。  寝ようとしたら、御簾の前に人影が止まった。  音は聞こえなかった。  誰だろうか…………? 「…………」 「うわっ!?」  「おかしいな?」と思っていたのも束の間、御簾が上げられた。  思わず、声を出してしまった。  それに気づいた人は居なさそうだった。  その拍子にロウソクの火も消えて、月明かりだけになった。  ほぼ真っ暗だった。  …………というか、安良子さんやん。 「ど、どうしたんですか…………?」  俺は安良子さんに尋ねた。  月明かりだけではよく見えなかったが、ロウソクの火をつけたら顔がよく見えた。  おしろいのない、俺はその方がかわいいと思っている顔。  …………寝てる、っぽい。 「…………」  安良子さんからの寝言すら無い。  そして、そのまま俺の敷物の方へフラフラとおぼつかない足で歩き出した。 「だ、大丈夫ですか…………?」  俺は咄嗟に体を支えようとしたが—— 「ましゃみちしゃん…………」 「安良子さん!?」  支えようとした俺に安良子さんは、完全に身を預けた。  まだまだ細い体。  タイムスリップした時よりは、大分マシになったけど、未来人からしたら心配になる。  というか、この状況を誰かに見られたら、どうしろっていうんや…………。 「ましゃみち——」 「安良子さん!?って、うわ」  安良子さんが前に体重をかけ、俺はバランスを崩してしまった。  倒れた時の音は、運よく畳が吸ってくれた。  というか、何この状況!?  よく寝てられるな…………。 「きたじゃないでしゅか…………」  きた…………何のことだ? 「起きているのか?」 「え…………?」  もしかして、見回り!?  やばい、やばい。  こんな状況見られたら…………。 「(安良子さん、起きてください!!)」 「ましゃみちさん…………」  早く起きてくれ…………!! 「女性の声が聞こえたぞ」 「あっ、いや、私の声です」  俺は苦し紛れに裏声を使った。  こんなバレバレなの逆効果だったかもしれない…………。 「本当か?」 「は、はい…………」  正直、この裏声は喉に悪い。  そのうちボロが出そうだ。 「そうか。くれぐれも、騒ぐんじゃないぞ」 「は、はい…………」  廊下を見回りの侍司が歩いていくのが分かった。  …………心臓に悪い。  安良子さん、早く起きてくれ…………。 「(安良子さん、起きてください!!)」  俺は安良子さんの体を、何回も揺すった。  けど、起きるつもりは毛頭なさそうだった。 ◇ ◇ ◇ ◇  朝がどんどん明けて、卯の刻になったことが知らされる鐘が鳴った。  安良子さんはその鐘と同時に、俺の上から起き上がった。  一晩中、上から全身に体重をかけられて、まだ感覚が残っている。 「うーん…………って、きゃ!?」  起き上がった安良子さんは、すごい勢いで後ろに下がった。 「無い、扇子が無い…………」 そして、慌てて扇子を探している様子だったが、もちろん、そんなものは無かった。 「も、申し訳ありません…………私、何をしていたのでしょうか?」 「えっと…………」  俺は、ちょっと言い渋った。  言ったところで信じてくれるのだろうか? 「昨日の夜、寝ぼけてたんじゃないですかね…………?この部屋に突然来たもんで…………」 「も、申し訳ありません…………!!」  すごい勢いで土下座をされた。  そこまでのことではないんやけど…………。 「いえ…………部屋に戻さなかった俺の責任もあるので…………」 「…………準備してまいります」 「は、はい…………」  安良子さんは、俯いたまま部屋を出ていった。 ◇ ◇ ◇ ◇  朝食を食べ終えたあと、舞子の部屋の前に来た。  変わりのない動作のはずなのに、なぜか気まずい。 「おはよう。この部屋で荷物をまとめてくれるかしら?」 「「承知致しました」」  それから、他の人が持ってくる荷物を舞子が確認し、俺と安良子さんは入り口の方へ持っていった。  それを、男性陣がどこかへ運んでいく。 「あー、あー」  舞子に抱かれた一子が、俺たちを見て、首は座っていないながらも、手足をバタバタしていた。  ここ最近、一子は舞子と安良子さん、和子、俺に、まるで話しかけるように、手足を動かすことが多くなった。 「本当に懐いているわね」  舞子はその様子を見て、笑っていた。 「きゃ!?」 「安良子、大丈夫!?」  安良子さんが、室内に続く出入り口の近くでコケていた。  足元を見るに、何かが入った箱につまずいたようだった。  誰やねん、こんなとこに置いたん…………。 「いてて…………あっ!?申し訳ありません、傷は…………」 「箱なんて良いから。安良子は大丈夫なの!?」  舞子は、箱を優先する安良子さんのことを心配していた。  大分、盛大にコケてたぞ…………。 「おぎゃー、おぎゃー」  舞子は、泣き出した一子と安良子さんを交互に、心配の眼差しを向けていた。  俺はそんな舞子と目配せをして、一子を代わりに抱きかかえて、必死にあやす。 「安良子、足は動かせる?」 「は、はい…………血も出ていないので、大丈夫です。お手を煩わしてしまい、申し訳ありません」  安良子さんは、少し足を崩しながらも、正座をして謝っていた。 「もう運ぶのは良いから、私の側にいなさい」 「も、申し訳ありません…………」  それから、舞子の隣に座った安良子さんは、何回も一子の世話を代わろうとしていたが、舞子がそれを断っていた。 「全て、運び終えました」 「ありがとう、みんなを呼んできてくれる?」 「承知いたしました」  報告をしに来た男性が、通りかかったもう1人の男性と手分けして呼びにいっていた。  その間に安良子さんは舞子の横から離れようとしたが—— 「安良子、ここにいなさい」 「しょ、承知いたしました」 「雅道もここで警備してちょうだい」 「承知いたしました」  一子のお世話をしているわけでもないのに、なぜか引き止められていた。  俺も舞子の方ではなく、なぜか安良子さんの方に立つように指示された。  そして、舞子の両側には一子を抱えた和子さんと安良子さん、その隣には俺が立っていた。 「みんな、お疲れ様。あとは、自分の分の荷物をまとめてちょうだい」  全員が静かに頭を下げた。

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