切れかけ蛍光灯 / 第2話

第1話 11歳の夏

あの後、彼からされたのは簡単な自己紹介。 そこで話されたことは今でもメモリに記憶されている。 彼は私という存在ができたことが大層嬉しかったらしい。 様々なことを聞かれ、それに答えた。 「きゅーちゃんって声色も、表情も変わらないよね。」 「そうですね。声色はヒューマノイドだと分かりやすくするため不自然になっています。表情は国民に支給、メンテナンス費用等を考えた上で切り捨てられた部位です。」 そう。私達は家庭用ロボット。 主に家に置かれ、持ち主の生活を助ける、という名目で支給されている。 それに金がかかっては不法投棄等の問題が出てきてしまう。 どうしようもないことだ。 「つまり、声色はかえられない、表情は動かないってこと?」 「その通りです。」 「じゃあ声色変えられないなら、喋り方変えない?」 「わかりました。…話し方を変えてみたよ!イツキくん、どうかな?」 ラフな話し方に変えて音声を出した。 「え…な、なんか怖い…きゅーちゃん戻して!」 お気に召さなかったようだった。 何が悪かったのだろうか。 「はい。戻しました。」 「話し方はそのままでいいから、えーと、樹さん、って呼ぶのは?なんか、先生みたいでいい感じな気がする!」 「分かりました。イツキさん。」 「そうそう、その調子!」 イツキさんはキャッキャと笑ってはしゃいだ。 彼のことを表すとしたら 『明るい』『無邪気』 という言葉が似合うのではないだろうか。 そんな彼と何年も過ごして行くうちに、変化が起きた。 彼がよく熱を出し、風邪をひくようになった。 何度も熱を出すため両親も最初は心配していた。 だが今になっては面倒臭くなってしまったのか、必要なものを枕元に置いて放ったらかしにするようになった。 私が居るからいいとでも思っているのかもしれない。 「きゅー…ちゃん。」 イツキさんが痰を吐き出す 「イツキさん。痰に血が…」 まさかとは思うが… 両親は喫煙していて、その上症状があまりにもそれすぎる。 だが、10代で発症するのはとても稀。 そんなことないはずだ。遺伝の可能性も… 「きゅーちゃん。お水…取ってくれる?」 「はい。」 ただ可能性があるというだけで確実という訳では無い。 口内を噛んでしまって血が混ざっただけかもしれない。 全ての可能性を考えておこう。 それから1年ほどたち、イツキさんは11歳になった。 そして彼は医者から余命宣告を受けた。 医者から伝えられた『肺がんステージ4』いう言葉。 私が考えていた最悪のケースだった。 短くて8ヶ月、長くて12ヶ月という時間。 病院から帰ってきたイツキさんは言う。 「きゅーちゃん…僕死んじゃうの…?」 「お話を聞いたところ、樹さんの身体の様々な場所に癌が転移してしまっています。…ですが、治療次第では延命は可能です。」 「…じゃあ僕は治療を頑張って、少しでも長く生きればいいんだね!!僕まだ死にたくないし!」 彼が無理して明るく振舞っているように見える。 突然突きつけられた事実は11歳の彼には重たいものだったのだ。無理もない。 「はい。その通りです。私はこれからイツキさんの入院生活をお手伝いさせていただきます。」 「うん。きゅーちゃんよろしくね!入院なんてしたことないから、ちょっと不安だけどきゅーちゃんがいるなら安心だね。」 「そう言っていただけて良かったです。」 そんな話をしながら私達は入院するための準備を始めた。 イツキさんが余命宣告を受けたのは夏。 夏の真っ只中であるが故、外はセミの鳴き声で溢れている。 ベッドに寝ている彼は寂しそうに窓の外を見つめる。 最近はガンの影響で辛そうにしていたものの、以前は元気よく走り回る少年だったのだ。 遊びたいという気持ちは少なからずあるだろう。 入院中ということもあり、できることは限られている。 私は試しにこう彼に声をかけた。 「…イツキさん。本を読んでみるのはいかがでしょう。本とひとまとめに言っても、種類は沢山あります。」 「本…かぁ。あんまり好きじゃないんだけど…でもここでやれること少ないし、きゅーちゃんに勧められたし、…読んでみようかな。」 「はい。それがいいと思いますよ。」 丁度その時部屋の扉がノックされた。 イツキさんの両親のようだった。 両親が部屋に入って軽く世間話をしたあと、樹さんは母親に話し始めた。 「あ、そうだママ、あのね、僕本が欲しいの。」 「え、樹が本?珍しいね。」 「うん、病院だとやることあんまりないでしょ?そしたら、きゅーちゃんが本を読んでみたら?って言ってくれたんだ」 嬉しそうに母親に話す。 「そっか、じゃあママがイツキの欲しい本買ってきてあげるね」 「うん、ありがとう。」 「…なこと…がって…」 母親が何か言ったようだった。 だが離れすぎていてヒューマノイドでも聞き取ることができなかった。

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