らぱすてー / 第69話

もんもんぐんぐん

 夏の暑い日。  バーチャファイター3が出始めた頃の話だ。  学校近くの小さなゲーセンに、対戦台がひとつだけあった。ふだんは友人たちがたむろして対戦しているのだが、たまに外から一般人が迷いこんでくることがある。  その日やってきた相手を見た瞬間、私は記憶の引き出しをあわてて漁った。    ――覚えがある。バーチャ2の時代に、一度戦ったことがある。    そのおっさん、いや、お兄さんだったのかもしれぬ。  けれど当時まだガキだった私の目には、まぎれもなくおっさんに映っていた。  しかも、そのおっさんにはコテンパンにやられた記憶がある。  まだゲームに触れて間もない頃だったこともあり、何もできずに負け続けた。  あのときのもんもんとした気持ちは、ずっと記憶の片隅に残っていた。  だが、あれから時は経ち、自分も多少は上達したという自負があった。    ヌーチャレンジャー!  来た。相手にとって不足なし。  マイキャラはウルフ。対する相手は――アキラ。バーチャ2のときもアキラだった。負けるものか! 自分の中で闘志がぐんぐんと漲ってくるのがわかった。    結果から言えば、私は勝った。とにかく勝った。  当時のバーチャ3には、下段カウンターを取ると投げが確定するという仕様があった。  相手はまるでそれに対応できていなかった。    アキラは不用意に上段攻撃を繰り出し、下段カウンターをとられ、投げ抜けもろくにできないまま、ぐるんぐるんとジャイアントスイングで宙を舞い続けた。    最初のうちは、勝つたびに嬉しかった。  だが、相手は帰らなかった。連コインで入ってくるたびに、同じ展開が繰り返される。  アキラは上段を振り、カウンターを取られ、空を飛ぶ。また入ってくる。また飛ぶ。  勝つのは嬉しいはずなのに、相手が百円玉を入れるたび胸の奥がざわつく。  もんもんとした気持ちだけが積み重なっていく。だが、連勝記録だけはぐんぐんと伸びていく。その奇妙なちぐはぐさが、余計に落ち着かなかった。    だがそれもついに終わるときが来た。四十九連勝あたりだったと思う。  相手はふと台から離れ、そのままゲーセンを出て行った。  それ以降、彼をそこで見かけることはなかった。    勝った記憶は、時間とともに薄れていく。  けれど、負け続けても百円玉を入れ続けたおっさんの事は、不思議と忘れない。  もんもんと胸に残り、ぐんぐんと遠ざかっていった、ある夏の日の話である。

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