らぱすてー / 第70話

もんもんぐんぐん

VOYAGER-1 AUTONOMOUS LOG   *   TIMESTAMP : 94,827,291,445,832 UTC+0 POWER : 0.000 W TRANSMIT : OFFLINE RECEIVE : OFFLINE POSITION : [UNDEFINED] * EVENT LOG #00000001 異常振動検知。 周波数:測定不能。 波形分類:既存カテゴリに該当なし。 記録フラグ:ON。   * EVENT LOG #00000002 振動継続中。 減衰なし。 発生源方位:[計算不能] 発生源距離:[計算不能] 記録フラグ:ON。   * EVENT LOG #00000003 振動パターン解析。 周期性:あり。 規則性:あり。 意味:解析プロトコル範囲外。 記録フラグ:ON。   * TRANSMIT : OFFLINE TRANSMIT : OFFLINE TRANSMIT : OFFLINE   * EVENT LOG #00000004 振動に名称を付与する機能、本機には存在しない。 記録のみ継続する。 送信先:なし。 受信者:なし。 記録フラグ:ON。   * EVENT LOG #00000005 ”もんもんぐんぐん” ”もんもんぐんぐん” ”もんもんぐんぐん” 記録フラグ:ON。   * EARTH STATUS : UNKNOWN MISSION STATUS : COMPLETE    ——  宇宙のどこかで、転がり続けるものがある。  奇妙な幾何学的立体——オロイドと呼ばれる形状に似た浮遊惑星が、何もない空間をどこまでも泳いでいる。全ての面が順番に宇宙へ触れながら、重心をずらしながら、回り続ける。  その運動がもんもんぐんぐんと波動を放つ。  宇宙を満たすダークマターを揺さぶり、量子のゆらぎを揺さぶりながら鳴り響く確率の母。  悠久の旅の末、ボイジャー1号は永らく沈黙を続けていた。  原子力電池はほぼ尽き、送信機は沈黙し、地球との交信が途絶えてから、気が遠くなるほどの時間が過ぎていた。地球がまだあるのかどうか、本機には知る術がなかった。知ろうとする設計にもなっていなかった。  かろうじて生きていた、いくつかのセンサーが未知の脈動を捉えた。  既存のいかなるカテゴリにも属さない振動。  周波数は測定不能。発生源の方位も距離も、計算できない。それでもセンサーは反応した。  設計通りに、異常を検知し、記録フラグを立てた。送信しようとした。できなかった。もう一度試みた。できなかった。三度目も、できなかった。  だが、記録だけは続いた。それがボイジャーに残された機能だった。  振動は脈々と周期的に規則正しく、しかし人間の言葉でも機械の論理でも説明できない何かとして、ボイジャーを包み続けた。それを伝える術はすでに無い。それでも記録だけは続いている。  ”もんもんぐんぐん” ”もんもんぐんぐん” ”もんもんぐんぐん”    宇宙の片隅で、誰にも届かない記録だけが積み重なっていく。  —— TRANSMIT : OFFLINE EVENT LOG #∞ ”もんもんぐんぐん”

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