らぱすてー / 第84話

もんもんぐんぐん

 スーパーもんもんぐんぐん店長、ダニエルの朝は早い。    今日も一張羅の全身白タイツを身にまとい、顔にドーランを塗りたくると。ボイストレーニングに余念がない。プロフェッショナルの流儀だ。    オープン時間10分前。白くま、末長、曲、楽、髙山らを集め朝礼が始まる。  今月の売上進捗。理念の復唱。社歌の合唱。  10:00開店。ダニエルの出番は少し後だ。お昼前の惣菜コーナー。それこそがダニエルが最も輝く時間。  だが、その日。一人の女性客の出現により、店内の平和は乱された。  荒れ狂うネギの暴風により、逃げ惑う人々。  ダニエル店長はすかさずバリトンボイスで、危険人物を異空間へと引きずり込む。店の秩序を守るのも店長の努めだ。  ——    スーパーもんもんぐんぐんの真の強さの秘密。それは、店の裏手にある広大な牧場にあった。 「らぱすてー牧場へようこそ」  案内役を買って出た末長が、柵の向こうを指差す。  見渡す限りの草原に、無数のらぱすてーがのんびりと草を食んでいた。同じ顔、同じ髪型、同じパンツ(替えたてホヤホヤ)をした個体が、何百、何千と点在している。 「みんな同じ遺伝子から作られたクローンです。品種改良を重ねまして、現在の第七世代は、パンツの生産効率が初代の三倍にまで向上しております」 「三倍……?」 「はい。もともとのらぱすてーは一日一枚しかパンツを生産できませんでしたが、第七世代は一日三枚。しかも自然放牧のストレスフリー環境で育てているので、パンツの品質も段違いです」  末長が牧場の一角を指す。そこには、のんびり寝転がるらぱすてーたちに、優しくブラシをかける白くまの姿があった。 「ストレスを与えるとパンツの品質が落ちるんです。だから毎朝のブラッシングと、快適な牧草地の提供は欠かせません」 「なんというか……手厚いな」 「当然です。らぱすてーのパンツはうちの看板商品ですから」  牧場の中央には、収穫小屋があった。定時になると、ダニエルが陣頭指揮を執り、孫の手部隊を率いて一斉収穫に入る。 「収穫、開始いいいいいいいっ!」  号令とともに、数百本の孫の手が一斉に牧草地へと伸びる。 「んっ」「あっ」「くふっ」  らぱすてーたちが一斉に声を漏らすが、慣れたもので誰も驚かない。むしろ、のんびりと欠伸をしている個体すらいる。  数分後、収穫小屋には山のようなパンツが積み上がっていた。それらは即座に選別され、洗浄、乾燥、そして陳列へと回される。 「これが、スーパーもんもんぐんぐんの惣菜コーナーを支える、真の生産ラインです」  末長が誇らしげに語る横で、髙山がまたスマホで撮影していた。 「これ、SNSに上げたら牧場、燃えません?」 「大丈夫です。らぱすてーたちは皆、この仕事に誇りを持っていますから」  その言葉を裏付けるように、遠くの牧草地から、らぱすてーたちの歌う社歌の合唱が聞こえてくる。  店長であるダニエルだけは、特別にらぱすてーオリジンのパンツを剥ぎ取る権利を有している。   「そんなパンツでだいじょうぶか」 「大丈夫だ、問題ない」  こうして手に入れた新鮮な|パンツ《絆》を手に、狼藉者とダニエル店長は対峙する。  ——  無惨にも絆は破られ、ダニエルは天高く掲げられた。    パンツが落ちたところから小さな芽が生える。やがてそれは太く高く伸びていき、『スーパーもんもんぐんぐん本日特売日』と書かれた大きなノボリとなった。  呼応するかのようにショーケースが出現し、収穫されたばかりの新鮮ならぱすてーのパンツが所狭しと並べられる。日本全国のらぱすてーがノーパンで過ごす日だった。  ダニエルは決死の形相でらぱすてーのパンツを振り回す。暴風が吹き荒れ、らぱすてーのパンツが宙を舞う。  綴茶実瑠はそれらを菜箸で掴んでは、フライヤーでカラリと揚げる。黒豚ラード100%。  パンツ嵐が収まると、そこには手をぐるぐる回すダニエルだけが残った。  壁のシミから、実態化した白くまと末長が、タックルをしかけてくる。令和の下剋上。  だが、ダニエルは毎朝公園での太極拳を欠かしたことはない。手の回転のみで二人を吹き飛ばす。洗練されたエンの動き。    二人の不利を見た綴茶によって、揚げたばかりのパンツが投げつけられる。白くまと末長の食欲が刺激され、動きが速くなる。  しかし、それはダニエルの食欲もまた刺激されていたのだ。当社比300%。  いつもの三倍増しの動きで、白くまでドリブルを始めたダニエルが、末長の頭に豪快なダンクを決める。勝ちを確信したダニエル。だが、綴茶実瑠の目は死んでいなかった。  ブザービートでの敗北。屈辱の中、揚げパンツを噛み締めたダニエルは、ネギに貫かれ天高く掲げられた。    ——    ネギは言っている。まだ死ぬ定めではないと。  ——  ダニエルだけは、特別にらぱすてーオリジンのパンツを剥ぎ取る権利を有している。 「そんなパンツでだいじょうぶか」 「一番いいのを頼む」  最上級パンツの確かな手触り。ダニエルは勝利を確信したが、念には念をいれる。あのネコミミパーカーの女は一ミリも油断ならない。  曲と楽を呼び出し、それぞれに二番パンツ三番パンツを持たせる。これぞ日本に古来より伝わる必勝の策、三枚のパンツ。 「くらええええええええ!」  ——  ダニエルは、ネギに貫かれ天高く掲げられた。  残されたのは無残に散った三枚のパンツの残骸と、バタバタと走り去っていく曲と楽の後ろ姿。    ダニエルは自らの最後を悟るとともに、悍ましい欲望から解放されたのを自覚した。  頬をつたう一筋の光。   「ありが……とう。つ……」  ダニエルは満足気にまぶたを閉じた。    ——  らぱすてー牧場は解放された。らぱすてー達は服を着る事を許され、自由を取り戻すと、嬉々としてスーパーで買い物を始めた。    スーパーもんもんぐんぐんは今日も平和だった。  めでたし、めでたし。

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