最強バトルの人 / 第124話
第49話 怪人
「――次! 先鋒、ドウ・ナットンジャ対、新・四天王! 次鋒、蟠《とぐろ》の大蛇火《ダーシャーフオ》!!」
修練場、奥の扉が開き、新たな敵が現れた。
ドウ(……どのような拳法家が相手でも! 負けるわけにはいかん!)
俺は、勝利の余韻に浸るまでもなく、千一手八脚拳の構えをとった。
遠くから、対戦相手が歩いてくる。
身長は俺と同じくらい。
痩せ型。
そして――。
ドウ(……俺と同じ、髪型?)
その男には、髪がなかった。
厳密には、全身の毛という毛がなかった。
代わりにあるのは……。
ドウ(……ウロコ!?)
さらに、ドウの視線は、男の右腕に移る。
人間の腕ではない。
それは、まさしく――。
ドウ(……アナコンダだと!?)
「……シャ〜ハハハ。久しぶりの娑婆《シャバ》だぜェ〜」
舌をチロチロ出し入れしながら、異形の男が喋り出す。
その男は――。
「中華もいいがよォ。今日のオレは、人間を丸呑みにしてやりたい気分だァ〜!! シャ〜ハハハハ〜!!」
[[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1792112903830-8eb57f75-38e7-48a6-9a0d-192c86a94d37.jpg]]
怪人、ザ・ヴァイツであった。
*
ヴァイツ「シャハハァ〜! どいつから丸呑みにしてやろうかなァ〜!!」
ヴァイツが、右腕のヘビをウネウネと振り上げる。
その明らかに人間ではない姿に、シャオは。
シャオ「……火鍋。あいつ、なにものアル」コソコソ
火鍋「し、知らねぇよ。コスプレじゃねぇのか?」コソコソ
子パンダ「キュ、キュウ」コソコソ
ドウ「――怪人、ザ・ヴァイツだ」
ドウが、淡々と語り出す。
火鍋「ハゲ! 知ってんのか!?」
ドウ「日本の特撮番組『開けたら閉めよ!ドアマン』に登場する、怪人です! 俺は、あらゆる文献を読み、武術の知識をつけた。その中で、電子的記録装置《DVD》による映像を見たことがあります!」
ヴァイツ「シャ〜ハハ。知ってくれてんのか。サンキュなァ〜」シャハハ
ドウ「しかし、まさか実在するとは……! 世界は、広い!」
その様子を見ていたヨウエンは、顔をしかめた。
ヨウエン(……まさか、大蛇火が四天王とは……!)
あれは、沼男が襲撃に来た日――。
・ ・ ・
ウーミン「っ!? 此奴は――――!」
宗師は、残されたものをみて、初めて驚きの声を上げた。
そして、龍の眼を爛々と光らせ、口角を上げた。
ウーミン「――喜べ、妖燕火。新たな四天王が、見つかったぞ」
・ ・ ・
ヨウエン(――あの日、沼男から吐き出されたこの男を見て、宗師が目を輝かせていた! しかし、その不真面目な態度、残忍な性格から、今でも檻に閉じ込めていると思っていたが……)
軍師火「ぐふふふ。驚いているようだな、妖燕火」
ヨウエン「――ええ。驚いています。黒龍が、ここまで人材に不足していたとは――。その節操のなさに、ですが」
軍師火「ちっ! どこまでも腹の立つ男よ。しかし、この大蛇火は、もはや貴様の知る大蛇火ではない!」
軍師火は、右腕のヘビを振り回すヴァイツに、指示をした。
軍師火「大蛇火《ダーシャーフオ》! お前の相手は、あのつるつるのヤカン頭だ! アレを、見せてやれい!」
ヴァイツ「だーしゃーふお? オレの名前は、怪人ザ・ヴァイツ! なんだけどよォ〜。まァいいかァ〜。ヨイショっと」
ドウ「――!!」
ヴァイツが、縦横無尽に動かしていた右腕を、規則正しい動きに変えた。
中国拳法の構えだ。
その、“まるで蛇のような動き”は――。
ドウ「――蛇拳《じゃけん》だと!?」
――蛇拳。
象形拳(動物の動きを真似る拳法)の一種。
右腕を蛇に見立てて戦う拳法。
ヴァイツは、左手を右肘に合わせ、右腕のヘビで威嚇する。
軍師火がぐふぐふと笑う。
軍師火(――この怪物に蛇拳を教えたのは、このわしだ! まさに適材適所! 妖燕火め、まさか、想像もしなかったであろう!)
軍師火「これこそが、『真の蛇拳』よ! げはぁっはははー!」
ヨウエン(蛇の怪人に蛇の拳法――。短絡的にも程がありますね)
ヨウエン「――ドウ! この者は、拳法は素人なれど、力は侮れない! 気を引き締めてかかるのです!」
ドウ「――ああ! こいつのことは、研究済みだ! 俺の千一手八脚拳で、倒してくれる!」
「始めぇぃ!」
どわおおおおおん!
銅鑼の音が鳴り響いた。
≫≫≫≫ 最 強 バ ト ル ≪≪≪≪
ドウ・ナットンジャ vs ザ・ヴァイツ
【名前】ドウ・ナットンジャ
【属性】拳法家
【年齢】19
【能力】
あらゆる拳法、古今の文献を学び、自らが編み出した拳法。「千一手八脚拳」を使う若き拳法家。
──────────────
【名前】ザ・ヴァイツ
【属性】怪人
【年齢】34
【能力】
日本の特撮に登場するヘビの怪人。
右腕のアナコンダは、伸縮自在。
その締めつけのパワーは、インド象をも圧殺する。
──────────────
ヴァイツ「シャ〜ハハハ」チロチロ
ヴァイツが、蛇拳の構えに夢中になっていると――。
ドウ「――千一手八脚拳ーーーー!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!
ドウが飛び出した!
ヴァイツは、隙だらけ。
シャオ(――行けるアル!)
しかし――!
ガシィン!
その拳は、ヴァイツには当たらない。
ヴァイツは右腕で、自身の身体にぐるぐるととぐろを巻いた。
結果、ドウの拳は全て、ヘビの強靭なウロコで弾き返されてしまった。
ドウ(――――固い!)
ヴァイツ「シャ〜ハハ。痛くねェよォ〜」
ドウ「――千一手八脚拳ーーーー!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
しかし、ウロコに遮られ、ダメージが通らない。
ヴァイツ「無駄だぜェ〜。オレのヘビちゃんには、『痛覚』がねェからな〜。ほら、ヘビを喰らえ!」
ヴァイツは、巻いたとぐろを勢いよく解放し、円を描いて振り回す。
それは、ゴムのように跳ね返り、ドウの体ごと吹っ飛ばした。
ドウ「――――ぐあぁ!」
火鍋「ハゲ!」
しゅたっ。
ドウは空中で受け身を取り、立ち上がる。
ヴァイツはまた、ヘビの腕をブンブンと振り回しながら近づいてくる。
ヴァイツ「オレのヘビはよぉ。伸縮自在! 自由自在ッ! なのよォ〜。だから、こんなことも、できちまうんだ、よォ!」
ヴァイツのヘビが、上から下に振り下ろされる。
それは、巨大な鞭。
風を切る音が響き、しなやかに、目にも止まらぬスピードで、ドウに襲いかかる。
ドウはなんとか、両手をクロスさせて受け止めるが……。
ズシィィンッ――!!
ドウ「う、があああ!」
ズシズシィッ!
アナコンダの体重は、約70キログラム。
その重み全部が、ドウを地面に押し付ける。
シャオ「ハゲ! 無理なら私がやるアル!」
ドウ「だ……大丈夫、だ!」
ドウはなんとか、その巨体を跳ねのけ、体勢を整える。
しかし、体力の消耗が激しい。
相手のペースを、先手必勝で封じるドウが、自分のペースを作ることができないでいる。
ドウの呼吸が、荒くなる。
ドウ「はぁ。はぁ……。おい!『真の蛇拳』は、どうした。使わないのか?」
ヴァイツ「あァ? あ〜、忘れてたぜ」
ヴァイツはまた、蛇拳の構えを取り、シャハハと笑いながら遊び出した。
ヴァイツ「なぁ。お前ってよ〜。ガリ勉だろォ〜? 『努力は、裏切らない!』って、タイプだろォ?」
ドウ「……なんだ! 研鑽《けんさん》を積むことこそ、人が前に進むために必要なことだ!」
ヴァイツ「オレ、『努力』も『勉強』も嫌いでよォ〜。聞くだけで、鳥肌が立つんだわ。ま、ヘビなんだけどよォ。シャハハハァ!」
ドウは、へらへら笑うヴァイツに睨みをきかせる。
ドウ「……何が、言いたい!」
ヴァイツ「オレって生まれつき、怪人《こんな》だからよォ〜。努力大好き拳法オタクくんたちより、強ェんだわ。悪ィけどよォ〜」
ドウ「それは、羨ましいことだ。……だが! 日々のわずかな積み上げでしか、届き得ぬ境地がある!」
ドウはまた、ヴァイツに向かって飛び込む。
ドウ「千一手八脚拳ーーーーー!!!!」
ヴァイツ「シャハハァ!」
ヴァイツの右腕が動きを変え、ドウの体にグルンと巻きついた!
ドウ「……ぐぐうっ!!」
ミシ、ミシィィ……。
そして、雑巾を絞るように、締め上げる!
ミシミシミシミシィッ!!
ドウ「ぐがああああ!!」
シャオ「――ハゲ!」
ドウの身体から、みしみしみし、と聞きたくない音がする。
血流が圧迫され、呼吸も絶え絶えだ。
ヴァイツ「シャ〜ハハハ。観念しろォ〜」
ヴァイツは締め上げたまま、ヘビの怪力でドウを持ち上げる。
ドウは足をバタバタさせるが、地面にはつきそうもない。
ヴァイツ「ほらよぉ。てめェの大好きな『努力』が、この状況を助けてくれんのかァ〜?シャ〜ハハハァ〜」
修練場に、にやけた笑いがこびりついた。