最強バトルの人 / 第123話

第48話 五対五

目の前に現れたその異形の存在を見て、ヨウエンは冷や汗を垂らした。 ヨウエン(――あれは、沼男!?) ――かつて黒龍拳に突如現れ、宗師が倒した怪異。 沼から這い摺り出したその正体は。 直径1メートルくらいの白い肉の球体から、無数の腕が生えているという、まるで見たこともない化け物であった。 [[illustration:https://api.kakippa.com/api/covers/illustrations/5f02bf16-12c5-4480-9d7f-82c77220e38d/1792112851579-33f52e48-b991-4346-92b0-85492bc89d63.jpg]] 火鍋「な――なんだ、ありゃあ」 シャオ「なんだか……ウニに似てるアル」 沼男――沼から出てきたから沼男《ぬまお》と名付けたそれは、今は黒龍拳の監視下に置かれている。 意思疎通は取れぬものの、腕を鎖に繋いでおけば逃げ出すことはない。 しかし今は、鎖を外されている。 軍師火「ぐふふふ。宗師から、生物兵器として使えるとのお言葉を頂戴してな。黒龍拳軍は、強き者なら誰でもその門戸を開く。今では立派な四天王よ」 ――下衆め。この化け物に勧誘など、できるわけがなかろう。 私が眉間に皺を寄せたそのとき。 沼男のカラダが、突如出現した沼に潜り込む。 そして、沼はずぶずぶと侵食し、修練場全体を円形に囲い出した。 ヨウエン(――!) 軍師火「ぐふふ。これでもはや、逃げられまい! この化け物は、もはやわしの手中よ」 軍師火は、沼の外へ歩いていく。すると、通ったところだけ沼が避け、通れば沼はまた戻る。 軍師火は、沼に守られる形で、室内の監督席。安全圏へ身を置いた。 ドウが切り込む。 ドウ「おい。勝ち抜き戦が要求なら、早く先鋒を出すんだな。どんな奴が相手でも、このドウ・ナットンジャが相手になってやる」 軍師火「ぐふふ。急くな。まずは、オーダーを決めようではないか」 軍師火は、紙と筆を投げ渡す。 ドウはそれを受け取り、中身を見る。 先鋒。 次鋒。 中堅。 副将。 大将。 シャオたちは、紙に集まり、会議を始める。 やがて、その空白の欄が埋められた。 ドウ「軍師火。これで行かせてもらう」 その紙には。 先鋒――ドウ・ナットンジャ。 次鋒――ヨウエン。 中堅――シャオ・ロンパオ。 副将――火鍋。 大将――子パンダ。   軍師火「――ほう。ならば、わしらはこれだ」   先鋒――鏖《みなごろし》の呪殺火《ジョウシャーフオ》。 次鋒――蟠《とぐろ》の大蛇火《ダーシャーフオ》。 中堅――岩石砕きの剛力火《ゴウリーフオ》。 副将――沼男。 大将――詰み手の軍師火《グンシーフオ》。     修練場に、銅鑼《どら》が運び込まれる。 五対五の勝ち抜き戦が、今始まる。     * 「――第一試合! 先鋒、ドウ・ナットンジャ対、黒龍拳四天王のひとり! 同じく先鋒、鏖《みなごろし》の呪殺火《ジョウシャーフオ》ぉ!!」 黒龍拳軍の拳兵が現れ、試合表を読み上げる。 ドウは、円形の修練場の中心に向かい、歩を進める。 応じて、反対側の扉が開き、相手が現れる。     ヒタッ ヒタッ。 ヒタッ ヒタッ。 呪殺火「――ヒヒヒヒヒヒヒヒ。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。」ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク   * ヨウエン「――ドウ」 ドウ「? なんだ? ヨウエン」 ヨウエンは、ドウを呼び止める。 ヨウエンは笑顔を崩さない。 しかし、その顔には、思うところがあるようだ。 ヨウエン「鏖の呪殺火――。気をつけてください。私はかつてこの者を使い、あなた達を、……殺そうと、していた。当時のあなた達では、火鍋、シャオ、ドウの三人がかりでも敵わなかったことでしょう」 怪異、沼男を宗師が蹂躙《じゅうりん》した後。 沼男の体から口のようなものが現れ、呪殺火を吐き出した。 あの日、病院を襲撃した呪殺火は沼男に出会い、捕食されたのだ。 ドウは、ヨウエンに振り返ると、爽やかに笑った。 ドウ「なに。今の俺はあのころの俺ではない。火鍋老師。ラオ老師の教えが、俺を強くした」 ざっ。ざっ。 ヒタッ ヒタッ。 両者、向かい合う。 シャオ「――ハゲ! 死んだら、ただじゃおかないアル!」 ドウ「はーっはっはっは! シャオ! 貴様に勝つまで、俺は死なん! 進化した千一手八脚拳《せんいっしゅはっきゃくけん》の力! そこで見ているがいい!」 「始めぇぃ!!」 どわおおおおおおおん! 銅鑼の鐘の音が、修練場に響いた。 * ―― 鏖《みなごろし》の呪殺火《ジョウシャーフオ》。 全身に包帯を巻いた、快楽殺人鬼。 片方の目が異常に大きく、血走っている。 手にしたナイフで、常に小脇に抱えたぬいぐるみを、ザクザクと刺している。 その拳法は、中国全土に存在する、裏の拳法――つまるところ、殺人術。 それらを、自身の癖《へき》に合うよう、ミックスした拳法だ。 骨砕き。関節逆転。急所封じ。 殺せば良いと言うわけではない。 好みに合った、残虐な方法での殺しに快楽を感じる。 ――私が、最も嫌悪する存在です。 ヨウエンは、かつての自分を恥じる。 宗師への保身から、こんな拳法家とも呼べぬ輩《やから》を送り出した。 呪殺火は、人格的に破綻している。 しかし、有無を言わさぬだけの力がある。 ――ドウ・ナットンジャ。 死なないでください。 私は、これから死闘になるであろう禿頭の青年に、念を送った。 * 呪殺火(――ヒヒヒヒヒヒヒヒ。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。)ザクザクザクザク ――ひさしぶりの、殺しだ。 ――たのしみだなあ。 ――よーくきたえてあるカラダ。 ――どこからこわそうか。 ――どんなさけびごえをだすんだろう。 ――ひひひひひひひひ。 ――ひひひひひひひひひひひ。 呪殺火は、ぬいぐるみを投げ捨て、奇妙な構えを取る。 人差し指と中指を絡み合わせ、突き出した構え。 ――これで、くびをつきさして、いきをできなくさせてあげよう。 ――そのあとは……。 ――ひひひひ。ひひひひひ。 対するドウも、構える。 いつもの構え。 日本の空手にも似た、正々堂々とした構え。 呪殺火(――いまだ!) ジュアオ! 槍のように鋭い呪殺火の突きがドウの喉元目掛けて繰り出される! ドウは――。 ドウ「千一手八脚拳ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!! その突きを、拳の連打で迎撃する。 呪殺火(ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。コンナノ、ヨユウダヨ。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。) 呪殺火は、ドウの拳を余裕で受け止め続ける。 直線的な拳の連打。 熟練した拳法家なら、十分に対処できる。 ――すきをみて、くびもとにつきさしてやる。 ドウ「うおおおおおおおおおおーーーーーー!!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!! ――ひひひ。 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!! ――ひひひひひひ。 ドウ「うおおおおおーーー!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!! ――ひひひ? ――これ、いつおわる? 呪殺火の受け止める手は、限界が近づいている。おかしい。普通は、こんなに拳を出したら、疲れるはずだ。 ――こいつは、これを、いつまでやる? ドウ「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!! ――こぶしが。 呪殺火「ヒヒヒヒヒヒヒヒ。――――チョ。」 ――うけとめきれない!!!! 呪殺火「チョ、チョットマッテ。」 ドウ「千一手八脚拳ーーー!! たーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」 呪殺火「ぶげあーーーーーーーっ!!!!」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!! ついに呪殺火は、押し切られる。 一発。十発。百発と、全身に重い突きが、何度も何度も襲う。 呪殺火は、宙を舞い上がり、地面に落ちた。 意識を失っている。 勝敗は、火を見るより明らかだった。 「――勝者! ドウ・ナットンジャ!」 ドウは右腕を上げ、勝ち名乗りを受ける。 ドウ「我が千一手八脚拳に、砕けぬ悪なし!」 わあああ! シャオ陣営が、盛り上がる。 まずは一勝。 ――ふふ。 ――今の彼には、杞憂でしたね。 ヨウエンは、たくましくなった彼に、祝福の拍手を送った。
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