最強バトルの人 / 第126話
第50話 人間
ヴァイツ「シャ〜ハハハハ!」
ドウ「ぐぐううぅぅ……!」
ミシミシッ。
ドウの体を、ヴァイツの右腕のアナコンダが、絞め上げる。
全身の骨が軋む音が、修練場に響き渡る。
呼吸は浅い。ドウの肺が、トンネルに生き埋めになったように酸素を求めて収縮を繰り返す。
ドウ「うぐぅぅ……!」
火鍋「おいハゲぇ!! くたばってんじゃねぇえ!!! 『ド根性』だ!! 『最強の意地』を使えぇえ!!!」
ドウ「ろ……老師っ! ぐぅ……!」
ドウの全身が、赤く染まる。
一万回目の腕立て伏せを制覇したときのように。
両手に力を込め、全力でヘビの締め上げに抵抗する。
ドウ「――『俺は! こんなところでは! 絶っ対に! 死なん』! ――うおおおおっ!」
その姿を見て、ヴァイツが吹き出した。
ヴァイツ「お、おいおいw、笑わせんじゃねェwww。『努力』の次は、『ド根性』かよwww。スポ根じゃねェんだからさwwww。あー腹痛てw」
ドウ「――……言って、いろぉっ!」
グ、グググ……!
ドウの腕が、ヴァイツの締め付けを、少しずつ押し広げる。
指が一本入るくらいの隙間が空き、ドウはようやく深く呼吸をした。
ドウ(――はぁっ! はぁっ! とにかく、呼吸だ! 呼吸さえできれば――!)
ヴァイツ「お、おいおい、暴れんじゃねェ。オレが落ち着いて丸呑み、できねェーじゃねェか、よォっ!」
ヴァイツは、ドウを締め上げたまま、ヘビの腕を振り回し……。
――ズガァァンッ!!!
ドウ「――ッッッッッッ!!!」
そのまま、修練場の壁にぶち当てた。
壁には大穴が空き、ドウの体から血がにじむ。
シャオは、思わず立ち上がった。
シャオ「ハゲ! もう十分アル! 私に代われアル!」
ヴァイツは、ドウの体の締め付けを緩めぬまま、再度ドウを持ち上げる。
ヴァイツ「だってよォ。どうする? 降参すっかァ? オレも、お前みてェな暑苦しい男じゃなくてよォ〜、そっちの可愛い女の子を丸呑みしてェ〜んだよ」
シャオ「……!」
シャハハハ、と笑うヴァイツに、ドウは、苦悶の表情で話しかけた。
ドウ「はぁ……っ! はぁ……っ! ――すぅぅぅぅ……。おい、ヴァイツ! お前の腕は、どこまで……伸びるんだ!?」
ヴァイツ「あァ? 知らねェーよ、んなもん。測ったことねェもん」
ドウ「そうか、……しかし! さすがに、20メートルは、無理だろう……! はぁっ! はぁっ!」
ヴァイツ「あァ!? 20メートルくらい、多分いけるぜェ? あっちの壁くらいまでだろォ? じゃあよォ」
ヴァイツが、ドウの体をさらに高く持ち上げる。
ヴァイツ「『実際に、ご覧ください』ってなもんかァ!? シャ〜ハハハハハッ!!」
ヴァイツが、ドウごとその腕を振り回し、壁目掛けて、振り回す!
シャオ「ハ……ハゲーーーーーーっ!!!」
シャオが、目を覆う。
ドウは、遠方の壁に、遠心力の力で――!
――ズッガァァアアンンッ!!!
ドウ「――ぐああああああっっ!!!!」
激突した。
壁にはさらに大きな穴が空き、瓦礫がボロボロと崩れ落ちた。
さっきまで抵抗していたドウの体は、ぴくりとも動かない。
シャオ「ハゲーーーーーーー!!!!」
ヴァイツは、動かなくなったドウを見て、舌なめずりをした。
ヴァイツ「さてと。じゃあ、丸呑みするぜェ。汗の味がしてしょっぱそうだけどよォ。シャハハハ!」
シューーーーーーーー。
修練場に、なにかの音が広がる。
なにか、漏れ出しているような音が……。
ヴァイツ「ん? なんだァ? この音は?」
その音は、ドウから。
――正確には、ドウをぶち当てた壁の穴から。
ドウは、力の抜けた体で、言葉を絞り出した。
ドウ「怪人ヴァイツ……。この国の、消防法を、知っているか?」
ヴァイツ「あァ? 知らねぇよ」
ドウ「覚えておけ……。このように広い施設では、どこからでも『20メートルで届く距離』に消火設備を設置することが、法律で義務付けられている……!」
ヴァイツ「あァん!? 法律だとォ!? 法律は、努力より嫌いだ! オレを守ってくれねェからなァ!」
シューーーーーーーー。
ガスが漏れる音がする。
ドウ「聞け……! 消火設備の成分は、『超低温の二酸化炭素』! あらゆるものを、凍らせる……!! そして――!」
ヴァイツ「な……なんだァ!? オレの可愛い、ヘビちゃんがァァ〜……」
ヴァイツのヘビが、動かない。
寒さで縮こまったヘビは、劣化して弾性を失ったゴムのように力を失った。
ドウは、ヘビの締め付けを、いとも簡単に剥がした。
ドウ「『ヘビは寒さに弱い』。この知識も、日々の積み上げによる、人間の努力の結晶だ」
ヴァイツの右腕が、全身が。
――凍りついて。
――動かない!!!
ヴァイツ「オ……! オレの体がッ!! さ、寒ィィィ〜〜〜ッッ!!! 凍えちまうよォォォォ〜〜〜〜ッッッ!!!」
ドウが、ヴァイツに向かって歩みだす。
狙いは、左半身。
ドウ「ようやく、お前の人間らしいところに触れられるな。行くぞ」
ドウは、拳を構える。
空手にも似た、正々堂々とした構え。
ヴァイツ「や、やめ……」
ドウ「これが、人間の『努力』の力だ」
力を込め――。
ドウ「千一手、八脚拳ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!
ヴァイツ「うっぎャァァアアアアア!!!!!!!」
ヴァイツは、全身に拳を打ち込まれ――。
ズガァァン!
壁に激突し、気絶した。
ヴァイツの口から、ヘビの口から、だらんと舌が垂れ下がる。
軍師火(――くそっ! 使えぬ化け物が!)
「――勝者、ドウ・ナットンジャ!」
どわおおおおおおん!
試合終了の銅鑼が鳴る。
ドウも、遅れて床に倒れ込んだ。
シャオたちは、すぐさま駆け寄る。
シャオ「ハゲ!」
ドウは、仰向けに転がり、シャオの顔を見つめた。
ドウ「――はーっはっはっは! どうだ。シャオ! お前に出番は、回さんぞ!」
シャオ「――このハゲ! 心配させるなアル!」
がしっ!
ふたりは、手を交わした。
◆━━━ 最 強 バ ト ル ━━━◆
ドウ・ナットンジャ vs ザ・ヴァイツ
――――――勝者 ドウ・ナットンジャ
――――決まり手 千一手八脚拳