最強バトルの人 / 第132話

第52話 選択肢

「――次! 次鋒、ヨウエン対、四天王最強! 中堅、岩石砕きの剛力火《ゴウリーフオ》!!」 どわおおおおおん! ハゲのまんまるの頭を膝に乗せながら、私、シャオは考える。 『相手の技を盗む。』 簡単に言うけれど、簡単なことではない。 私だって、ハゲの拳法を完全に真似することはできない(まあ、やらないアルが)。 それを、あの筋肉だるまは、見ただけで真似できるというのだ。 ブルッ。 寒気がした。 私の技も。私の十年間も。 私の老厨中華飯店での日々も。 なにか、大きな“流れ”を読めることさえ。 ――あの、筋肉だるまに盗まれてしまったら。 シャオ(――ずるいアル) 剛力火「だっははははー!!」 あの筋肉だるまは、確かに強い。 その筋肉の鎧は、火鍋よりも大きく張りがあり、張り裂けそうなほどだ。 ましてや、ヨウエンと並んでみると。 シャオ(――大人と、こどもアル) ヨウエンの線の細さが、私を不安にさせる。 勝てる見込みがあるのだろうか。 ヨウエンの頭の良ささえ、あいつは真似できるのだろうか。 シャオ「……ヨウエン! 負けるなアル!」 私は、私の不安を紛らわすように、ヨウエンにゲキを飛ばした。 ヨウエンは、それでもいつもと変わらない。 常に笑顔。それがあの男の美学なのだろう。 ヨウエン「大丈夫ですよ、シャオ。私は“王手の妖燕火”。私には、すでに奴を倒す策が浮かんでおります」 剛力火「――ほう。ならば、その策さえ、奪ってくれるわ!」 「始めぇぃ!」 ――戦いの火蓋が切られた! 皆が見守る中、なんとヨウエンは――。 ――!!?? 皆が、驚きを隠せない。 シャオは目を見張った。 火鍋も、子パンダも、軍師火も。 そして、剛力火さえも。 なんと。 ヨウエンは。 この、自らの策に絶対の自信がある男は。           ……床に寝そべっていた。   ヨウエン「さあ。どこからでもかかってきなさい。ゴリラさん」 修練場の固い床に背中をつけて、天井を見上げている。 寝ながら喋る声は、ちょっとだけ鼻声だ。 剛力火「――死にたいようだな」 剛力火が、その巨体を動かした。 足を踏み鳴らすたび、地面が揺れる。 仰向けのヨウエンは、その度にちょっとだけ浮かされる。 シャオ「――ヨウエン! なにやってるアル! 起きろアル!」 剛力火「……無駄だ! ぺしゃんこになれ!」 剛力火の、ゾウのように大きな足が、ヨウエンを踏み潰そうとしたとき――。 すかぁん。 剛力火「おわあ」 ヨウエンの蹴りが、もう片方の足を払う。 支柱を急に失った剛力火の尻が、床にこんにちはした。 急に尻もちをついた剛力火は、なぜ自分がこけているのか、わからない。 ヨウエン「おや、踏み潰すのではなかったのですか? そこは、椅子ではありませんよ」 剛力火は、少し考えた後、また立ち上がった。 剛力火「……殺す!」 今度は、上から鉄球のような拳を振り下ろす。 しかし、ヨウエンは――。   ぱかぁん! 寝そべったまま、剛力火の顎に蹴りを食らわす。 自らの勢いが、そのまま蹴りの威力に加算され、カウンターとなった。 剛力火は、一瞬だけ宙に浮き、また転んだ。 ヨウエン「おや。私の足が長くて、すみません。ちょうど蹴りやすいところに的があったので、つい」   シャオ(――すごいアル!) なるほど。 敵の前で寝そべる――。 一見、無防備な姿を曝け出しているようだが、違う。 ――これは、“相手の選択肢を奪っている”! 立って戦うときは、無数の選択肢の中から技を選んで繰り出す。 しかし、相手が寝ているなら、下に向かって蹴りを放つか、拳を振り落とすか、しかできない! ヨウエンは、それに合わせて蹴りを当てれば良いだけだ。 なるほど、これがこの男、ヨウエンの戦い方なのだ。 “相手の選択肢を奪う”。 敵として会ったなら、恐ろしい戦法だ。 シャオ(でも――今は味方アル!) シャオ「もっとやるアル! ヨウエン!」 ヨウエンは、寝そべったまま、シャオに笑顔を向けた。 * 剛力火「……くくくくく。だははははは!!」 剛力火が、急に笑い出した。 剛力火「やはり、小賢しいやつよ。ヨウエン。 “王手”の名は、伊達じゃないようだな」 ヨウエン「あなたに言われても、嬉しくありませんね」 剛力火「その挑発も込みで、貴様の策か。――なら!」 剛力火は、その大きな体を――。 剛力火「これならどうする! “王手の妖燕火”!」 なんと。剛力火は。 ヨウエンと同じように。 床に寝そべった。 その顔は、自信に満ち溢れている。 剛力火「これが我が技、『模写拳』! 貴様の“王手”! 俺が奪い取ってやったわ! だははははは!!」 ヨウエン「――な! ――ま、まさか!」 剛力火「ふむ。案外ひんやりとして気持ちいいではないか」 ヨウエンは慌てて立ち上がる。 自らの技が、策が、知略が。 完璧に、コピーされている。 剛力火「驚いたか! だははははー! この俺に、模写できぬ技はない! だーはははー!」 ヨウエン「――ま、まさか……!」ワナワナ   ヨウエンは、道着の隙間に手を突っ込み――。           ヨウエン「――こんなに簡単に、引っかかるとは」 ぽいっ。 黒くて丸い物体を投げつけた。 剛力火は、天井を見上げているので気づかないが――。 その丸いものは、剛力火の腹の上に落ち――。         爆発した。       ヨウエン「――――『王手』っ!!」     ドッガアアアアアアアアアアアンンンンン!!!!!!! 剛力火「だはははは、……ぐわああああああああああああああああああ!!!!!!」     巨体全部を覆い隠すほどの火柱が立ち、煙が修練場を包む。     皆が唖然としている。   シャオも。火鍋も。軍師火も。     煙が晴れ、現れたのは。       大口を開けたまま気絶している、剛力火であった。     「……勝負ありっ! 勝者、ヨウエン!」 どわおおおおおおおん!!   ヨウエン「やれやれ、服が汚れてしまいました」   ヨウエンは、服についた薄い灰を払いながら、自陣営に、小走りで駆け寄った。   ヨウエン「シャオ! 火鍋! やりました! 私の策の、勝利です!」     シャオは、あんぐりと開けた口で。   ヨウエン、お前――。めちゃくちゃアル。     それしか、言えなかった。
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