最強バトルの人 / 第131話
第51話 剛力
「――次! 先鋒、ドウ・ナットンジャ対、四天王がひとり! 中堅、岩石砕きの剛力火《ゴウリーフオ》!!」
休む間もなく、次の相手が呼び込まれる。
ドウは、重力に逆らいながら身体を起き上がらせ、構えをとった。
火鍋「――おい、ハゲ。テメーはもう休んでろ」
火鍋から見たドウの肉体は、限界だった。
無理もない。
人間を遥かに超える力を持つ怪人。
それを、努力と機転で打ち破ったのだ。
満身創痍。
今のドウは、戦えない。
ドウ「……はぁ。はぁ。――いえ、老師。俺は、嬉しいのです」
ドウの目は、まだ諦めていなかった。
ドウ「ウーミンにラオ老師に、シャオ。俺はいつも、手も足も出せずに負けてきた……! だから! 俺の拳法が通じるのが、たまらなく嬉しいのです! 止めないでいただきたい!」
シャオ「……でも」
シャオから見ても、行ってこい、とは見送ってやれない。
千一手八脚拳を撃つだけでも、相当な疲労のはずだ。
それを、すでに四回も放っている。
火鍋「――わかった。だが、これだけは受け取っていけ」
ドウ「? 受け取る、とは?」
火鍋は手をパーにする。
そしてドウの背中に、大きく振りかぶって……。
火鍋「――『ド根性張り手』ぇ゛ぇ゛ぇえ!!」
バッチィィィィィーーーン!!!
ドウ「!!?? ――うおおおッッッ!?」
手の跡が真っ赤に残るほど、強烈な張り手を食らわした。
シャオ「ひ、火鍋!?」
ヨウエン「えっ……!?」
困惑するふたり。
ドウは、衝撃で顔から床に倒れた。
しーん。動かない。
ドウ「」
火鍋「…………」
火鍋「…………よし!」
シャオ「……よし! じゃないアルー! ハ、ハゲー!」
思わず駆け寄るシャオ。
すると、ドウは――。
ドウ「――はっははははー!」
ぴょん、と飛び上がり、ウォーミングアップを始めた。
ドウ「さすが老師! 疲れも痛みも吹き飛びました! 恩にきます!」シュシュシュシュシュ
火鍋「おう。行ってこい」
ヨウエン「い、行ってこいって……」
ドウ「さあ、かかってこい! 中堅! 岩石砕きの剛力火《ゴウリーフオ》ー!!」
ドウは、軽い足取りで修練場の中央へ歩を進めた。
ヨウエン「……どうなっているのですか?」
火鍋「あァ? 俺の『ド根性』を注入した。一晩ぐっすり寝たみてぇーに回復するぜ」
ヨウエン(どんな理屈ですか)
子パンダ「キュウ」
ドウは、目の前の相手に向き合い、構えをとった。
ドウ「さあ、待たせたな。岩石砕きの剛力火」
剛力火「……」
その筋骨隆々の肉体は――。
剛力火「おい」
ドウ「なんだ。剛力火」
剛力火「俺の登場シーンをカットしただろう」
ドウ「?」
シャオ「?」
ヨウエン「?」
火鍋「?」
子パンダ「?」
軍師火「?」
*
――岩石砕きの剛力火《ゴーリーフオ》。
黒龍拳開設時から、一度も四天王の座を明け渡したことがない四天王最強の男。
その強さは、ウーミンに次ぐ実質的なナンバー2とされる。
見上げるほど巨大な体躯。はち切れんばかりに異常発達した筋肉。その力は、岩石をも――。
ドウ「さあ。かかってこい! 剛力火!」
剛力火「俺の説明がまだ終わっていないだろう」
ドウ「お前の説明は、名前だけで終わっているんだ」
ドウは、いつもの構えで、力を込める。
ドウ「来ないなら、こっちから行くぞ」
どわおおおおおん!
「始めぇぃ!」
試合開始の銅鑼が鳴る。
ドウは、いつものように飛び出し、高速の拳の連打を――!
ドウ「千一手――!」
剛力火「『千一手八脚拳』ーーーーーッッッ!!!!!」
ドウ「!?」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!
高速の拳の連打が、『ドウ』を襲う。
剛力火の丸太のような腕が、一発、十発、百発と拳の嵐となってドウの体をめり込ませる。
ドウ「――――――っっ!!」
――ドガァァン!!
ドウの体は、宙を吹っ飛び、壁をぶち破った。
シャオ「ハ……ハゲー!」
シャオは、走って近寄る。
ドウのつるつるしてよく滑る頭を膝に置き、ぴしぴしと頬を叩いた。
死んではいない。だが、気を失っている。
その体は、交通事故にあったかのように、無残に打ち砕かれていた。
どわおおおおおん!
「勝負あり! 勝者、岩石砕きの剛力火!」
剛力火「だははははー! 俺の拳法に、叶うとでも思ったかー!!」
軍師火「よし、よくやった! 剛力火! やはり四天王は、人間に限る!」
奥では、黒龍拳ふたりが手を取り合って小躍りしている。
シャオは、きっ、と睨みつけた。
シャオ「――お前の拳法じゃ、ないアル! なんでお前が、ドウの技を使うアル!」
ヨウエン「――それは、私がお答えしましょう」
ざっ。ざっ。ざっ。
ヨウエンが、修練場の中心へ、後ろ手に組んだまま歩みを進める。
ヨウエン「……ドウ・ナットンジャ。彼に伝えておけば、よかった。剛力火の使う拳法は――『模写拳』」
シャオ「『もしゃけん』?」
ヨウエン「相手の技を盗む拳法です。やつは、一度見た技を、再現する。ドウの千一手八脚拳は、すでに四回も見られている。そして――」
剛力火が、上腕二頭筋を、さながら餅のように膨らませる。
剛力火「この、はち切れんばかりの筋肉! 相手と同じ技なら、筋肉で勝る俺が有利ってわけだ! これこそ究極の拳法! だはははは!」
ヨウエン「――猿真似で喜ぶ、小物ですよ」
剛力火「……あ゛ぁ? 貴様今、何か言ったか?」
ヨウエン「いえ。お気になさらず。あなたの頭では、聞いてもわからないでしょうから」
ニコッ。
剛力火「……俺は、貴様のことが憎かった。筋肉もないのに、宗師の近くをウロチョロしおって小賢《こざか》しいネズミだ、と! ようやく、俺の筋肉で貴様の細い目を苦痛に歪ませることができるわけだな」
ぴくっ。
ヨウエンの額に、血管が浮き出る。
剛力火「俺は、貴様の知略をも、模写してやる! 俺のキャンパスに、貴様の『王手』さえをも描いてくれようぞ!」
ざっ。ざっ。ざっ。
ヨウエン「……もっとキャラクターにあった言葉を使ってください」
剛力火「あぁ!? どういう意味だ!?」
ヨウエン「――喋りすぎなんですよ。ゴリラならゴリラらしく、胸でも叩いていなさい」
剛力火「……貴様、やはり殺す」
両者、中央へ並ぶ。
「――次! 次鋒、ヨウエン対、四天王最強! 中堅、岩石砕きの剛力火《ゴウリーフオ》!!」
どわおおおおおん!
知、対、模倣の戦いが、始まる。