最強バトルの人 / 第133話
第53話 捨て駒
軍師火《グンシーフオ》「ぐぐ! ……ぐぬぬぬぬ! おのれ! よくも、四天王最強の、剛力火を……!」
軍師火は、仲間たちと戯《たわむ》れるヨウエンを、激しく責めた。
軍師火「ヨウエン! 貴様! 武人としての誇りはないのか! 神聖なる戦いに、よもや爆発物など! 卑怯千万なり!」
ヨウエンは、何を今さら、という風に冷たい目線を投げた。
ヨウエン「誇り? そんなものをあなたが語るとは、驚きだ。拳法とは、弱者が強者に抗うためのもの。私にとって剛力火は、強者でした。ならばこれも、拳法です」
ヨウエンは、衣服についた埃《ほこり》を払った。
軍師火「……ぐっ! 口だけはうまいようだな……! しかし、次の相手は、貴様とてどうにもならん! 出でよ! 沼男《ぬまお》!」
ヨウエン「!」
――そうだ。
私が剛力火を早く倒したかったのも、「副将、沼男」の存在が大きい。
今でも、沼男の倒し方がわからない。
かつて、宗師が怪異との戦い方を、私の前で実践してみせた。
しかし、私にも同じことができるかは、別だった。
この五対五は、沼男の突破が鬼門。それは間違いない。
私が負けたら、次はシャオ。
――宗師の領域にまで武を突き詰めているのは、シャオのみ。
宗師を倒すためには、シャオは不可欠。
なら、この怪異を倒すのは。
私がやるしかない……。
「次! 次鋒、ヨウエン対! 副将、沼男! いざ参れ!」
≫≫≫≫ 最 強 バ ト ル ≪≪≪≪
ヨウエン vs 沼男
【名前】ヨウエン
【属性】拳法家
【年齢】21
【能力】
盤面の“流れ”を読み、相手の選択肢を奪う。
──────────────
【名前】沼男
【属性】怪異 / 都市伝説
【年齢】???
【能力】
沼から生えた何本もの腕で、沼の中に引きずり込む。
──────────────
……。
私は、修練場の四方を覆い囲む沼に、視線をやる。
何かが、おかしい。
得もいわれぬ違和感。
さっきまでと、形が違う。
この沼は、動く。
そうだ。それは知っている。
しかし、この沼が飲み込んでいた怪人は、中国の者ではない。日本の怪人だ。
日本から中国へ、どうやって来たのか不明だったが、まさか――。
ヨウエン(地面を――すり抜ける?)
シャオ「ヨウエン、背中が汚れているアルよ」
ドウの介抱を子パンダに託したシャオは、ヨウエンに近づいた。
ヨウエン「ああ。先ほど、床に寝転びましたからね。埃でもついて――」
シャオ「いや――。なにか」
シャオは、ヨウエンの背中をぱんぱんと払う。
シャオ「泥みたいなのが、ついてるアルよ」
しまった。
怪異の奴。
もうすでに、私の背中に――。
ヨウエン「――シャオ! 逃げて!」
シャオ「!」
す――――。
白い腕が、私の首もとを掴む。
ぐちゅ。
背中から侵食した沼は、私の足元を招き入れ、沼の中へ誘い込む。
ぐちゅ。
腕が、何本も生えてくる。
私の手首、足首、喉、髪の毛を掴み。
口、目、耳を封じ。
沼の中へ、引きずり込む。
シャオ「――ヨウエン!!」
ほら。シャオ。
次に戦うのは、あなたです。
よーく、見ておいてください。
そして、この怪異の倒し方がわかるまでは。
まともに戦おうとしないでください。
私を、捨て駒に。
この怪異の倒し方を、見つけ出すのです。
あなたは、宗師を。ウーミンを、倒す方なんですから。
ぶくぶく。
ぶくぶく。
これが、沼の中か。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も動かない。
苦しい。
苦しい。
私は、助からないでしょう。
何もできずに、すみません。
――後は、頼みましたよ。
「 .」
――今の、声は……?
――いったい、だれの――。
沼男「ごっくん」
「勝負あり! 勝者、沼男!」
どわおおおおおん!
◆━━━ 最 強 バ ト ル ━━━◆
ヨウエン vs 沼男
――――――勝者 沼男
――――決まり手 沼に引きずり込む
──────────────
シャオ「――ヨウエン!」
火鍋「ちくしょう! そっちこそ卑怯じゃねぇのか、ごら゛ぁ゛あ!!」
シャオたちは、悲痛の叫びを上げた。
ヨウエンは、一瞬のうちに沼の中へ消えていった。
あっけなさすぎる。
あの、糸目の策士が、文字通り手も足も出ずに負けた。
軍師火「ぐはははははー!! 愉快、愉快、愉快なりー!!」
軍師火は、心底嬉しがっている。
軍師火「あの、気取ったすまし顔が、絶望に歪むところ!! この日のために、わしは、気色の悪いこの怪異を調教してきたのだ!! あやつが床に寝そべったときに、こっそり沼男を床から差し向けてやったのだ!! ぐははははー!!」
その姿に、シャオは、拳を握った。
シャオ「――ヨウエンに卑怯と言っといて、お前こそ卑怯アル! 拳法家の戦いに、手を出すのはご法度アル!」
シャオが、一歩ずつ前に進む。
軍師火「卑怯? いくら言われようとも、構わん! ヨウエンのやつ、わしの頭脳に、ひれ伏しおったわ! ぐははははー!」
シャオの周りの空気が、変わる。
それはまるで陽炎のように、光の反射を歪ませた。
シャオ「――卑怯でいいのなら。今ここで、お前を殴ったっていいアルよ」
軍師火「ひ……ひぃっ!」
シャオの拳に、何か大きなものが溜まっていく。
気? エネルギー? それに値するものが、シャオの拳に集まり出す。
軍師火「ま……待て! 『アレ』がどうなってもいいのか! こっちは、いつでも爆破できるんだぞ!」
シャオ「……そうだったアルね」
シャオの拳が、解かれた。
集まっていた“何か”は、拳から解放され、辺りに混ざって溶けていった。
軍師火「……おい! いいから、早く次の試合を始めろ!」
「は……はい! 次! 中堅、シャオ・ロンパオ対! 副将、沼男!」
どわおおおおおん!
ぐちゅ。
――――!
シャオの戦いが、始まる。
シャオ(――どうするアル)
シャオ(こんなの、初めてアル)
ぐちゅ。ぐちゅ。ぐちゅ。
沼が、シャオの四方を取り囲む。
シャオ(――強さが。何をしてくるかが。まったく、読めないアル)
ぐちゅ。